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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #126~カール・シューリヒト『こうもり』序曲(1929)

カール・シューリヒト(Carl Schuricht, 1880年7月3日 - 1967年1月7日)。
B.ヴァルター、W.フルトヴェングラー、O.クレンペラー、H.クナッパーツブッシュ、E.クライバー、C.クラウスらと共に20世紀前半から中盤にかけて活躍したドイツ・オーストリア系の巨匠指揮者の一人。

今名前を挙げた巨匠たちと異なるのは、キャリアのごく初期を除きオペラハウスでの仕事をせず、もっぱらオーケストラ・コンサートと合唱の指揮に専念した、ということ。
シューリヒト本人はそのことは自分としても遺憾であったと述懐しているというが、オペラハウスで仕事をしない指揮者のほとんどは、巨大な組織で音楽のことのみならず、人間関係や利害関係に翻弄されることを良しとしないひとたちだ。
シューリヒトは晩年、かのウィーン・フィルハーモニカーの団員たちから敬愛され、そのステージに何回も上り、ウィーン・フィル戦後初のアメリカ・ツアーの指揮者に指名された(本来はクライバーが同行する予定だったが、いざアメリカへとなった時、彼が亡くなりシューリヒトに白羽の矢が立った)。
団員達との心温まるエピソードにも事欠かないので、ますますオペラ上演に関わらなかったことが不思議である。

オペラの実演はしなかったシューリヒトだが、彼が残した音盤にはオペラの序曲や前奏曲を演奏したものも多い。特にワーグナー作品の録音は彼のレコーディング・キャリアの中でも出色のものとされている。
ただし、それはオペラやオペラハウスの雰囲気をそのまま音にした、というより、一つの演奏会用管弦楽作品として仕上げた、まずもってシンフォニックな趣きが耳に残る。

今回お届けするのは、1929年9月9日にベルリン・シュターツカペレ(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)指揮してレコーディングしたヨハン・シュトラウスの喜歌劇『こうもり』序曲。

盤のコンディションは万全とまでいかないが、ほとんど市場で見かけないものなので、手に入れられるときに入れておこうと思った次第。
データベースで調べると、元々はテレフンケン原盤(Telefunken E145) だが、手元にあるのはSchallplatten-Volksverbandというベルリンで操業していたレコード・レーベルのもの。
地元ベルリンのアーティストを起用してクラシックに限らずオリジナル録音を残している(有名、かつ貴重な音盤で言えば、ベルリン・フィルのコンサート・マスター、シモン・ゴールドベルクが主宰していたベルリン・フィルハーモニカー弦楽四重奏団のハイドン『セレナーデ』)。

ハイドン 「弦楽四重奏曲 第17番 ヘ長調 Op.3-5 Hob.III:17 ≪セレナーデ≫」
(伝 R.ホフシュテッター)
ベルリン・フィルハーモニー弦楽四重奏団
(独Schallplatten-Volksverband M 9357/60 1932年 ベルリン録音

このシューリヒト盤はライセンス盤ということか?

やはりこの『こうもり』でも、シューリヒトは「幕開けの曲」というよりは大曲を振る時と同じように、オーケストラの持つ潜在的なパワーを巧みに使い、コントロールし、そしてシューリヒトにしては珍しくテンポに緩急をつけ、ルバートも使いながら、器の大きい音楽を作り上げている。

クレデンザ蓄音機でこの貴重な名演を。


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