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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #26~オットー・クレペンラー/ベルリン・シュターツカペレ R.シュトラウス『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』(1929)

大阪レコ屋巡り

元々、音楽監督の飯森範親の下、ハイドンの全交響曲を演奏するという、日本センチュリー交響楽団『ハイドン・マラソン』完走を目指したり、そうでなくてもメンバー個々の自発性が溢れ、テクニックも秀でているこのオーケストラのファンである私は、東京と大阪の中間点に住んでいるという地の利も活かして、大阪にはよく出かける。
コンサートに出掛けるのだから、ついでに、というよりはコンサートと同じくらいの比重で、大阪の中古レコード巡りをする。
それこそ2,30年前は数多くのレコ屋があったが、今ではすっかり数も少なくなり、結果的に訪れるのはディスク・ユニオンストレイト・レコード、ということになる。
レコ・CDオタの間ではディスク・ユニオンに出掛け音盤を物色し、買うことを「組合活動」と評するが、クラシックで言えば、お茶の水や新宿とはまた違った品揃えだったり、あまり見かけないような盤もある。

そして、私の場合はそれ以上にストレイト・レコードに顔を出すのが、毎回楽しくてしようがない。

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ストレイト・レコード

幸い、ディスクユニオン大阪クラシック館とストレイト・レコードは歩いて7,8分の距離。大阪・梅田から徒歩圏内の場所。
ストレイト・レコードは西日本で78rpm(SPレコード)の品揃えが断トツな店。クラシックだけでなく、ジャズ・ブルース、シャンソンなども豊富。「東の富士レコード社、西のストレイト・レコード」だ。
この店はネット通販もやっているので、店へ出向かなくても、欲しい盤があればポチればいい。しかし、この店に入って両側の壁一面も含め、雑然と並ぶ宝の山の中に分け入って入っていくような感覚は、やはり何にも代え難い。
景色と空気・・・。

歌ものは富士レコード社の方が守備範囲が広いと思うが、ストレイト・レコードの魅力はオケものの充実度、そして78rpmが裸ではなく、オリジナルのバインダー・ジャケット付で売られているものが多く、コンディションも素晴らしい点。とにかく目に入ってくる情報量が半端ない。
がしかし、店主のいるカウンターではいつもAMラジオが流れていて、まさに昨日の夕方お邪魔した時は、大相撲中継を流しながら、商品チェックをしている、なんていう感じ。お高く留まっていない点が素晴らしい。

実は今月から仕事で必ず毎月1回は大阪へ出張することになったので、さらにこの『禁断の地』へ自然と足が向く機会が多くなるのが、嬉しいやら、怖いやら・・・。

クレンペラーのベルリン時代

この「note」では、1920年代後半からから30年代の78rpmと演奏家に触れることが多い。「電気録音78rpmの全盛期だから」もしくは「この時代の演奏やアーティストが興味深いから」と、「にわとりと卵」のような話だが、自身の認識では後者が「主」で前者が「従」だと思っている。「その時代の演奏を、その時代のメディア、そして再生機器である蓄音機で聴く」ことは、あくまでも結果だ。
そんな中、特に1920年代から30年代前半のべリリンの音楽界の話をこれまで何回もしてきた。B.ヴァルター、W.フルトヴェングラー、O.クレンペラー、E.クライバーという4人の指揮者がしのぎを削っていた「黄金のベルリン」
第一次世界大戦で大きな痛手を負ったドイツの首都ベルリンは、その反動ともいえるような文化的繁栄期を迎えていた。クラシック音楽に限らず、舞台、文芸、美術、キャバリエなど、モダニズム、表現主義、新古典主義的潮流により、刺激的な芸術都市となっていた。

そのベルリンにあって1927年、クロル・オーパーの音楽監督に就任したオットー・クレンペラーは、シェーンベルク、クレネク、ヒンデミット、ストラヴィンスキー、ヤナーチェクといった作曲家の作品を初演、ワルターやフルトヴェングラーとは方向性の異なった、革新と鋭さを前面に打ちだしたモダンでアバンギャルドな音楽を作っていった。
クレンペラーというと1950年代以降、フィルハーモニア管弦楽団とのオーソドックスな作品の、巨木のようなスケールが大きい一連の録音を思い浮かべる方も多いと思うが、1920年代から30年代のクレンペラーは、過激で時代の先頭を走っていた音楽家だった。

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音楽だけではない。色恋沙汰もいろいろあって、特に当時を代表するソプラノ、エリーザベト・シューマンとの不倫、2度の出奔もよく知られた話である。

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晩年の多くの病やケガにより満身創痍となったクレンペラーではなく、眼光鋭く、男性的な魅力に溢れたクレンペラーの作る音楽も、また多くの人を惹きつけた。

【ターンテーブル動画】

クレンペラーには、当時国立歌劇場(リンデン・オーパー)とクロル・オーパーの両方のボックスに入っていたシュターツカペレ・ベルリンとの録音がいくつか残されている。
ベートーヴェン、ブラームス、ワーグナー、ラヴェル、ヴァイルなどともに、R.シュトラウスも録音された。
この『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』は1929年の録音。
リヒャルト・シュトラウスはもちろん当時のクラシック界、最高の作曲家であって、作品を発表し続けていた。そしてそれらはコンサートホールやオペラハウスのレパートリーとして定着していた。いわば彼の作品はコンテンポラリーでありながら、定番曲であり、これは20世紀前半の音楽界にあって特筆すべきことである。

当時の音楽界の最前線にいた作曲家の人気曲と、それを指揮する最先端の指揮者との邂逅を。

なお、当時のクレンペラーとクロル・オーパーについて詳細に記述され、ベルリンのオペラハウス事情を知ることができる労作が、日本人の手によって発表されている。ご興味のある方は是非に。

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