クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #111~フェルナン・ウーブラドゥ モーツァルト『ファゴット協奏曲 変ロ長調 K.191』(1936)
前回、アーチー・カムデンのソロによるモーツァルト『ファゴット協奏曲』世界初録音盤(1926年)について触れた。
その場でも記したが、このコンチェルトの78rpm時代の代表盤で、日本でもライセンス生産されたのが、フランスのファゴット(バソン)奏者であるフェルナン・ウーブラドゥ(Fernand Oubradous,
Paris, 02/12/1903 - Paris, 01/06/1986)盤だ。カムデン盤からちょうど10年後の1936年に、ウジェーヌ・ビゴーの指揮するオーケストラとレコーディングしている。
フェルナン・ウーヴラドゥ
ウーブラドゥと言えば、バソン奏者としてよりもむしろ自ら室内管弦楽団を組織しての指揮活動、そしてバソン奏者に限らずフランスの管楽器奏者の指導者、教育者としての活動の方がよく知られているかもしれない(彼の手になるファゴット初心者用の教則本は、この楽器を手にする人なら必ず手にし、それを練習したことだろう)。
彼が監修、指揮した音盤で言えば、モーツァルト生誕200年を記念して1956年にフランス・パテ社よりLPレコード7枚組でリリースされた『パリのモーツァルト』が、モーツァルトのレコードとしては、V.ペルルミュテールの『ピアノ・ソナタ全集』(フランス・ヴォックス)と並び稀覯盤として知られ、ゼロが3つく(何百万円)ような価格で取引されている。
Basson バソン
この78rpmはまさにこの曲が書かれた10代最後のモーツァルトが好んだ音楽様式「ギャラント」の極致であり、ドイツ式ファゴットとは全く異なる華やいだ悦楽を感じさせ、ウーブラドゥの絶妙なフレーズの味付けにワクワクする。
ファゴット(バスーン)とバソンは、全く違う楽器と捉えたほうがいいくらい、音色、運指法が異なり、一言で言えばファゴットと比較して音の抜けがよく、明るい音がする。もともとファゴットは「男性の声に最も近い楽器」とも言われるが、それはバソンの方により当てはまる。
現在ではフランスのオーケストラでさえ、ファゴットを使用するほどで、実際にバソンの音を生はもちろん、音源で聴く機会も極端に少ない(パリ管弦楽団も1975年にダニエル・バレンボイムが音楽監督に就任し、ドイツ・オーストリア系の音楽も数多く取り上げるようになるのと並行して、バソンからファゴットへの持ち替えが行われた)。
ただ現代においても、フラン管楽器流派の伝統は残されるべきと思う演奏者や聴衆も少なからずおり、その代表が管楽五重奏グループ、レ・ヴァン・フランセである。メンバーのジルベール・オダンはウーブラドゥの継承者といっていいだろう。
因みにレ・ヴァン・フランセの大先輩にあたるのが、パリ管楽五重奏団(バソンはモーリス・アラールと並び、ウーヴラドゥのもっとも有名な弟子であったポール・オンニュ)だ。
【ターンテーブル動画】
ウーヴラドゥの78rpmを手に入れたのは私の78rpm&蓄音機人生の最初期、今から40年以上前の高校生の時で、神田神保町の富士レコード社で購入した。
その時点で私はウーブラドゥの弟子であるP.オンニュやM.アラールのK.191を聴いたことがなかったので、フランス式「バソン」と言えば、今でもやはりこの演奏が一番馴染む(オンニュもアラールもいい演奏)。
では、ウーヴラドゥのモーツァルトをクレデンザ蓄音機で。
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