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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #105~今から86年前の今日、1935年10月17日に録音されたロッテ・レーマンのモーツァルト『クローエに寄す』K.524

私事で恐縮だが、10月は身近な人、知人、そして今ではご無沙汰気味ではあるが、私の人生の節々に重要な役回りで登場してくる人の誕生日が実に多い。
簡単に言うと10月4日から20日までは、10日を除けばほぼ毎日誰かの誕生日、中には同じ日が誕生日というケースが2日もある(10月18日と19日で各2名ずつ)。
従ってこの時期は毎日お祝いのメールを送ったり、プレゼントを持ってその人に会いに行くこともある。つまり、出費も重なる時期だ。

そんな折、この2か月間ばかり所蔵する78rpmの整理を続ける中で、1935年10月17日、つまり今からちょうど87年前の今日録音されたドイツ・リート集が目に入った。

その主役はドイツ・オーストリア系オペラ、そしてリートの両分野で「史上最高のソプラノ」と称されるロッテ・レーマン(Lotte Lehmann, 1888-1976)。モーツァルト、シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフのという、ドイツ・リートの輝かしい時代を振り返るような11曲がこの日一気に録音されている。ピアノはエルネ・バログ。

1935年と言えば、1920年代以降、ドイツ・ベルリン国立歌劇場を本拠にし、まさにドイツのソプラノ・リリコ、スピントとして大絶賛を浴びたレーマンが、ナチスを嫌ってアメリカへ渡る3年前にあたり、ドイツが、そしてヨーロッパがナチスによって堕落していき、この大陸が黄昏を迎えつつあった時期である。

その時代性とどう関係しているのかは定かではないが、ここに聴かれる整然としながらも気持ちが良く乗ったレーマンの歌は、まさにドイツ・リートの神髄を思わせる。ドイツ語の発音もとてもきれいだ。

手元にはこの11曲を5枚の10inchに収めた米Victor盤のセットもある。

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以前この中からブラームスの『死、それは清々しい夜』をご紹介したこともあった。

今回はこの1935年10月17日録音の11曲のなかで、私の手元にある唯一の英HMV盤モーツァルト2曲の中から『クローエに寄す』K.524をお届する。

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レーマンは78rpm時代の歌手として、恐らく最も録音を残しているソプラノで、現在ではそのほとんどがCDや配信音源として復刻されている。
その意味では今でもレーマンの歌に触れることは極めて容易だ。
1935年10月17日録音の11曲も簡単に手に入る。

ダウンロード

ところが残念ながら、復刻音源の音質は必ずしもいいとは言えない。78rpmの音の良さを却ってなくしてしまうような電気的処理、ノイズ削除処理が行われ、音楽と彼女の声を正確に伝えているとは言い難い(むしろ、DSD形式で販売されている音源の方が良心的な音がするかもしれない)。

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気軽にロッテ・レーマンに触れられることはよいことだが、その一方で不正確な情報が残されていくことにも問題があるように思う。

クレデンザ蓄音機で彼女の歌の本質に触れていただければ幸いである。


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