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行動で示す

 私が損害保険の代理店として所属していた会社の支店と一緒にバンドを組むことになるHくんとは、会社が向かい合わせだった。

 そんなHくんとは高校から因縁があった。Hくんが通っていた学校の女の子に手を出して「その子に手を出すな」といきなり電話がかかってきたことを思い出した。

 「あのヤローか!」と思いながらも、そんなHくんとは、陰ながら見守ってくれる友人を通して仲良くなった。後日そのことを聞くと、タバコ4箱で買収されたと知った。それを思い出すと今でも腹立たしい(笑)

 しかし、会社が向かい合わせだったこともあり、いつの間にかよく会う友人になった。

 ある日、Hくんとキャバクラに行く途中、自転車をこいでいた高校生がダイナミックにこけた瞬間を一緒に目撃した。運転していた車を止めて降りようとしたら、Hくんが「やめろ!」と言った。

 「何でだよ!かわいそうじゃん!」と食って掛かると「お前が行ったら余計恥ずかしくて傷つくだろ!ほら!もう立ってるよ!」と言い返された。

 後で振り返ると「当事者だったらそうだよな…」と見られた事がわかったら恥ずかしくて逃げ出したくなるし、「何だアレは!」っていう感じのこけ方だったと思ったが、その時は「Hちゃんは冷たいんだよ!」と感情的に言い返した。他にもHくんとは色々トラブった。

 外で他者とケンカすると、いつも相手をかばうのがHくんだったので、Hくんの血液型を聞くと、「A型だから合わないんだ!」と一方的に決め付けて血液型のせいにしたり、話しているうちにアツくなりすぎて、Hくんの胸ぐらをつかむこともあった。

 「コイツはこうやって友達にもこういうことするんだよ!」と言われて、余計腹が立ったこともあったが、それ以上の事はしたくないと思いつつ、私が引き下がらないのを見かねた友人たちが間に入って別々に帰らざるを得なくなったとき、Hくんの部下の前で、私が悔しくて泣いていると、Hくんの会社の部下が「あの人が感情を出すところを見た事が無いから羨ましい」と泣きながら伝えてきた。

 その後、会社が向かい合わせなのに、Hくんの存在が遠く離れているように感じていた。そんなHくんは順調に出世して最年少の店長になり、一方私は、元反社の人物とトラブルを抱え、何もかも放り投げて事件を起こした。

 事件後、勾留中にHくんが面会に来なかったので、「バカだなアイツ」と思ってるだろうなぁとか、バンドもできなくなって怒っているに違いないと思いながら過ごした。

 ある日、H君に思い切って電話をかけたら「面会に行きたいんだけど、どこにいるのか教えて欲しいと私の妻に聞いたら『別れた』って言ってたので、ずっと心配していた」と言われた。そこで、大事なことを思い出した。

 Hくんが私の結婚式で話した内容がひどかった事が逆に良かった事。手紙を書いてくれた事。バンドに誘ってくれた事。Hくんは、私のために泣き、私のために笑い、私のことを自分のことのように心配して叱ってくれた、とても大切な友人でした。

2015 4/9


友人とは、あなたについてすべてのことを知っていて、それにもかかわらずあなたを好んでいる人のことである。

エルバート・ハバード


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