あの日から

※完全フィクションです※

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『うーわ。土砂降りじゃん』

妻の言ってた通りだった。

僕の奥さんは気が利いて

家事もちゃんとやってくれて

料理も美味しい。

スタイルも良く美人で

同僚からは羨ましがられる。

僕はもちろん奥さんが大好きで

結婚しても付き合ったときのような

新鮮な感じが続いてる。

家庭はなにも問題はなかった。

たまに僕がスーツを脱ぎ捨てて

怒られるとか

奥さんが洗面台の電気をつけっぱなしで

僕が注意するとか

その程度。

何一つ不満はない。

なのに。

人間は感情というものに勝てない。


『スーツめっちゃ濡れるなー。早く帰らないと』

ドンッ

『きゃっ』
『あ!すいません!大丈夫ですか?』
『大丈夫です。急いでいたので、、、あ。』
『あ。』
『蓮くん?』
『かな、、さん』
『久しぶりだね。元気?』
『元気だよ』
『結婚したんだ』
『え?あ、うん。そうだよ』
『、、良かったね』
『うん』
『じゃあ、私いくね』
『うん、またね』
『バイバイ』

なんで、またね

なんて言ってしまったのだろう。

しばらく、その場から

動けなかった。


〜♪〜♪

メールの音で我に帰る。

【今日はカレーだよ。早く帰っておいで】

あぁ。そうだ。僕は結婚している。

家に帰れば大好きな奥さんがいる。


だけど。

かなさんは僕が今までで

誰よりも愛した人。

誰よりも幸せにしたかった人。

誰にも渡したくなかった人。

あの時の記憶が蘇って

僕は家路を急いだ。


『ただいま』

『おかえり〜。うわー、やっぱスーツ濡れちゃったね。』

奥さんの顔見た瞬間

僕は奥さんを抱き寄せ

噛みつくようになんどもキスをした。

『蓮、、待って、、』

喋る隙を与えないくらい何度もキスをした。

『蓮、、どうしたの、、んっ、、』

記憶を上書きするように。

でも

思い出すのは

あの日、かなさんとキスしたこと。

『蓮!』

ハッと我に帰る。

目の前にいるのは大好きな奥さん。

『蓮、どうしたの?今日変だよ』

『ごめん』

『会社で嫌なことでもあった』

『いや、違う』

『じゃあ、、』

『あのさ、お願い聞いてくれる?』

『良いよ』

今度は優しくキスをして抱き寄せて

耳元で

『今すぐ、抱かせて』

『え、ちょっと、、どういう』

有無言わさず寝室に連れて行く。


ベッドに押し倒して

奥さんを見下ろす。

『蓮』

『なに?』

『優しくしてね』

『できないかも』

『え?』

『ごめん』

そう言って

また乱暴にキスしてしまう。

『ん、はぁ、蓮、、苦しい』

苦しさに歪んだ表情。

耳、首筋とキスして

徐々に服を脱がせていく。

綺麗な胸元があらわになり

キスを降らせていく。

『いたいっ!』

噛んでしまった。

『蓮、痛い』

『ごめん。ごめんね』

肩、胸元、腕、指。

キスして噛んでを繰り返す。

『、、った。蓮、痛いよ。噛まないで、、』


どうしてだろう。

今抱いてるのは奥さんなのに。


脳裏によぎるのは

最初で最後にかなさんを抱いた日。


あの日。僕は不安から

かなさんを乱暴に愛した。

僕だけを見てて欲しくて

どこにも行って欲しくなくて

噛んだ跡で僕を思い出して欲しくて

痛みで僕を強く植え付けたくて。

かなさんの目から涙が流れていた。

痛みじゃない。悲しみ。

涙に気づかないフリをして

僕はかなさんを愛した。

もう二度と会えない気がしたから

僕を忘れないで欲しいという思いで。


『蓮』

『ん、なに?』

『どうして、泣いてるの?』

『え?』

気がついたら僕の頬には涙が伝っていた。

『蓮、聞いて』

奥さんは両手で僕の顔を包んだ。

『蓮には私がいるよ』

その瞬間僕の中で何かが吹っ切れた。

僕は奥さんに優しくキスをして

そのまま胸の中に倒れ込んだ。

- - - - - - - - - - - - - - 

『たまには良いね、こういうのも』

『こういうの?』

『いつも優しいから』

『物足りない?』

『ううん、満足してる。でもこんな刺激的なのも良いかなって』

『ごめんね。痛かったよね』

『うん、噛むのは痛いよ』

『もう、噛まない』

『なんで?』

『愛されてるのがわかったから』

『ふふ、そう』

『僕もいっぱい愛情返す』

『大丈夫。もういっぱいもらってる』

『じゃあ、もっとあげる』


情熱的な愛情も良いけど

あったかい愛情はもっと良い。


そんなことを教えてくれる

奥さんを大事にしようと思った。


一瞬の感情は

そっと、心の奥にしまった。


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