見出し画像

ポートピア連続殺人事件【エロゲーの容れ物】

エニックス 1985年11月29日発売

原作は1983年に発売された国産PC版で、NECのPC-8801を始め、シャープX1、富士通FM-7、MSXと主要なところ全てに移植されています。

「ドラゴンクエスト」シリーズ作者、堀井雄二さんの初メジャー作品と云って良いでしょう。

ファミコン初の本格アドベンチャーゲーム(AVG)であり、最初で最後のヒット作品となっています。

国産PCゲーム市場では確固たる1ジャンルとして成立していたAVGでしたが、その寿命は案外短くて'82から始まり'85年あたりでほぼ寿命が尽きていたと云えます。とどめを刺したのは新ジャンルであるロールプレイングゲーム(RPG)の台頭なのですが、AVGの根本システムである言葉探しにゲームとしての限界があったのだと思います。

もともとが米国発祥のAVGでありますから、コマンドも英単語で探し入力するものでした。当初の移植版ならび国産AVGも英単語入力だったものの、当然の要望からローカライズされる事で日本語入力が基本となって行きます。

しかし、英語ほど簡単明瞭でない日本語は「言葉探し」と云うシステムに甚だ相性の悪いものと云わざるを得ませんでした。

英語では「OPEN DOOR」で済むとします。日本語だと「ドア アケル」「ドア ヒラク」のように言葉の選択肢が増えてしまいます。大抵答えはひとつなので一言一句正確な入力をしなければ先へ進めないのです。これではAVG本来の姿であった「物語を楽しむ」事は適わないでしょう。意地悪にも「ドア ケヤブル」が正解だったとしたら尚更です。

当時AVGは1作品クリアするのに半年から一年かかるものだとされていました。ボリュームとしては20~50場面程度のものでそれだけかかってしまうほど難解だったのです。PCゲームを嗜んでいたのがマニアだけだったとは云え、これではより人を選ぶゲームとして先が見えていました。

ゲームメーカー側もこのような傾向を危惧しており考えられたのが、ファミコン版「ポートピア連続殺人事件」にも採用されている「コマンド選択式」のAVGでした。

これは予め決められた幾つかのコマンドが用意されており、適宜そのコマンドを選択して謎を解いて行くと云うシステムになっています。

この「コマンド選択式」AVGを最初に採択したのがPC版「オホーツクに消ゆ(1984)」で、作者はこちらも堀井雄二さんとなっています。

新しいAVGの形として概ね好評だった「コマンド選択式」でしたので、もともと「コマンド入力方式」が取られていた「ポートピア連続殺人事件」をファミコンへ移植する際に採用した事になりますね。のちの堀井雄二さんのユーザーフレンドリーな作風から云うと、キーボードの有無よりもゲームとして物語を楽しんでもらう……と云う意味での改変だったのだと思います。

これが奏功してかファミコン版「ポートピア連続殺人事件」は売上本数60万本前後のヒット作品となりました。家庭用では未発ジャンルだった本格推理AVGと云う事で話題にも事欠きませんでしたね。推理物としてはタブーである結末に文句を云う人もいましたが、私はゲームとしてあれで良かったと思います。衝撃度で云えば初の推理小説ポーの「モルグ街の殺人」には及ばないものの、意表をつくオチとしてなかなか驚かされました。

これ以降もファミコンでは良質な「コマンド選択式」AVGが幾つか発売されているものの、どうしてもゲームとしての面白さに欠けていますし、猶且つストーリーと云う点でも文学作品には敵いません。またグラフィックスも中途半端でアニメーション作品に分があると云えるでしょう。

のちにサウンドノベルとして復活するAVGジャンルなのですが、ゲームとして根本的な問題は解決されていないと感じます。その結果がギャルゲーやエロゲーの容れ物として機能している事実を良しとするかどうなのか……もう少し考えて見る必要がありそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?