「介護が始まっても、人生って終わらないんですね」と彼女は言った
介護やキャリアについて語りあう「昼スナック」をなぜ、やってるのか。
理由やきっかけはいくつかある。そのうちのひとつが『子育てとばして介護かよ』の出版トークイベントだったと思う。
ある日突然出くわした、認知症介護の日々をnoteに書き始めたのが2018年。2本目を書いたところでKADOKAWAさんに声をかけてもらい、2019年秋に
出版された。
2019年11月に「<働くわたしたちと親の老い>会議~『同居しない』という選択」、翌2020年3月に「<働くわたしたちと親の老い>会議~ぶっちゃけ、『介護のお金』ってどうですか?」というテーマで、下北沢B&Bでとーうセッションをした。
どちらのイベントだっただろう。終わった後、こんな風に声をかけてくださった女性がいた。
「介護が始まっても、人生って終わらないんですね。今日それがわかってよかったです。ありがとうございます」
聞くと彼女は、周囲にいる少し年上の方たちに「介護が始まったら、何もできなくなる。今のうちに、やりたいことをやっておいたほうがいい」と口々に言われていたという。
アドバイスした人たちは「人生の終わり」を強調したかったわけではないかもしれない。少しでも若いうちに、やりたいことをやるといいと励ましたつもりだったのかもしれない。「今日がいちばん若い日」とかよく言うしね。
でも、その助言は彼女のこころに重くのしかかっていた。介護が始まったら、やりたいことはあきらめなくてはいけない。自由に旅行に行ってる場合ではない。今の自由も、選択肢もいずれは手放さなくてはいけないものと感じていたという。
そんなこと、ないないない!
親の人生は親の人生。わたしの人生はわたしの人生。
介護がはじまったからって、人生が終わってたまるか!
そんな風に笑いあって、その日は別れたけど、元気でやってらっしゃるかなあと時々思い出す。
介護が始まっていても、始まっていなくても、好きなところに行って、好きなものを食べ、好きな時間を過ごしてくれているといいなあ。
家族に介護が必要になるのは、そこそこ大事件だし、あわてるし驚くし、うっかり背負い込んじゃったりもするかもしれない。でも、深呼吸して、ご本人に返していきたい。
あなたの人生はあなたの人生。
わたしの人生はわたしの人生。
手伝えることは手伝うけどね。
あなたの暮らしはあなたの暮らし。
わたしの暮らしはわたしの暮らし。
いつか、スナックのドアが開いて、彼女が現れたらうれしい。
「久しぶり! お元気でした? 座って、座って。何飲みます?」
そんな風に出迎えるために、私はスナックをはじめたんだと思う。オンラインでも、オフラインでも、みんなで笑いながら、くだらない話をしながら待ってる。