チョコデニッシュとアップルパイに助けられた日
親の大好物を知っておくといいかも。
「親の介護が心配なんだけど、何をしておけばいいですか?」と聞かれたら、こう答えるようにしてる。
親孝行をするためじゃない。
大好物を知ってると、いつかきっとどこかで役に立つ。
大ピンチを救ってくれたりするから。
なんで今!? というタイミングに、めちゃくちゃ不機嫌になられたとき。
もうあと数分だけ、我慢してくれないか、、、、と懇願したくなるとき。
「ご機嫌になる食べ物」を知っていると、想像以上に役に立つ。
親の介護に関わってると大なり、小なりピンチに直面する。
そのうち、多少のことでは驚かなくもなる。でも、油断した頃にマジか!?と言いたくなるようなシチュエーションにも出くわす。
認知症のある義父母が夫婦そろって介護施設(介護付き有料老人ホーム)に入所を決め、いよいよ入所日を迎える前日。施設に持って行くあれやこれやを用意するため、夫の実家を訪れた日がまさに、そのときだった。
当時、義父母は認知症と診断されつつも、さまざまな介護サービスを利用しながら夫婦二人暮らしを続けていた。でも、義父の栄養状態が急速に悪化しており、急遽、施設に入所することになった。
もともと、施設入所には積極的ではなかった義父母がようやく、「療養のための入所」を了承してくれ、受け入れ先も見つかった。ちょうどその時期、運悪く、夫が長期の地方出張に出かけることになった。しようと思えば、入所日をリスケすることもできた。
でも、状況が状況だったので先送りはしたくなかった。入所当日の朝はなじみのヘルパーさんも来てくれるし、介護タクシーも予約したから、大丈夫大丈夫。前日の荷造りぐらいどうっちゅうことない……はずだった。夫の実家の玄関を開けて、目を疑った。
どうしたことか、義父が玄関に椅子を引っ張り出し、座っておられる。
「まなみさんの準備ができたら、いつでも出かけられます!」
一方、義母は台所にいて、お茶を飲んでいた。私の顔を見るなり、義母はニコニコしながら言った。
「せっかく来てくれたのに、ごめんなさいね。今日は買い物に行けないわ」
なんじゃこりゃ!
義父は散歩を心待ちにする犬のように、玄関からまったく動かない。時折、「まなみさん、準備はまだですかな?」と催促してくる。義母は「買い物、行きたかったわねえ。でもねえ、今日はやめておきましょう」と言いながら、しきりにお茶を勧めてくる。
今思えば、義父母にとって施設入所は一大事件。義父はなんとか義母を連れて、施設に行かなければならないという責任感に燃え、義母は隙あらば施設入所をチャラにしたいと願っていた。そのお互いの思いが最高潮に高まった結果が、目の前で繰り広げられていた光景だったんだと思う(たぶん)。
一瞬、気が遠くなりかけるも、こちらも伊達に何年も”介護ヨメ”をしてきたわけではない。こんなときこそ、大好物作戦! の出番なのである。
「おとうさん、おかあさん、おやつ食べましょう!」
バッグから取り出したるはチョコデニッシュ、そしてアップルパイ。前者は義父の、後者は義母の大好物だ。
武蔵坊弁慶もびっくりな勢いで玄関を守っていた義父も、いそいそとやってきて食卓に座る。いいぞ、その調子だ。
「アップルパイは子供の頃、お父さま(義母の父上)がよく買ってきてくださったのよ」
「どんなアップルパイだったんですか」
「そうねえ。どんなのだったかしら」
「リンゴがいっぱい入ってました」
「入ってたわねえ(うっとり)」
義母もアップルパイに夢中! 作戦、成功!!
糖質をたっぷりとった後は、心やすらか。義父はうとうと。
「ちょっと昼寝でもしようかな」とお布団へ。
義母はまだテンション高く、昼寝には至らなかったけれど、ご機嫌うるわしいので無問題。
「おかあさんは好きな服選んでくださいね」
「あら~~、どれにしようかしら。迷う~~~」
盛り上がっておられる横で、粛々と明日の準備。
「まなみさん、何やってるの?」
「持ってきてくださいって言われたものを準備してるんですよ」
「私もやる~~!」
「ありがとうございます。助かります」
大好物に助けられ、なんとか施設入所の準備をスタートさせることができたのでした。チョコデニッシュとアップルパイ、最高!
うちの父のときは、まんじゅうが活躍する予定です。
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