忘れる技術

今まで読んだ本の中で一番衝撃を受けた本と出会いました。

こちらです。

この本の良さをもっとたくさんの人に知ってもらいたい。
願わくば来世でもこの本に出会いたい。
しっかり纏めて自分のものにしたいと考え記事にしました。

かなり重厚な内容なので、特に衝撃を受けた部分を抜粋してお送りします。


前提としてこの本は1983年に発行されており、筆者は御茶ノ水大学で教授をされていた方です。


序章

まず前提として僕たちは、0→1を考えるということに慣れていない。
なぜなら幼少期からそのような教育を受けてこなかったから。

だから、僕は何も考えずに入った大学で「卒業論文を提出してください」と言われた時に頭を悩ませました。

著者の外山さんいわく多くの学生がこのように悩むそうです。
この本の中ではグライダー人間と飛行機人間という書かれ方をしています。

グライダーとは引っ張ってもらえれば、空を自由に飛べます。しかし、自分1人では飛べません。
飛行機人間とは、自分1人で飛び立てる人のことを指します。

残念ながら、この本の執筆時も現在も学校教育はグライダー人間を養成しているように感じます。

IT技術が発達して、知識の詰め込みの意義が薄くなった現代。飛行機人間になるための思考法をまとめていきたいと思います。


発酵

まず、0から1を考える時そのことばかり考えていてもうまくいきません。
本の中では「見つめる鍋は煮えない」ということわざで繰り返し伝えられています。

発酵させる方法は2つあります。
1、寝かせること
2、混ぜ合わせること

僕自身何かアイデアを思いついた時メモに取る癖があります。
そして、時間がたってみると「なんでこんなしょうもない思いつきをメモに取っているんだろう」と思うことが多々あります。

逆にその寝かせた思考で「いける!」と思ったアイデアは高い確率でHitします。
思いついた時は疲れていたり、興奮していてあまり頭がクリアではないことが多い。
一度クリアな思考で見直すことが大切です。


次に混ぜ合わせるですが、何かを考える時に1つでは多すぎると強調されています。間違えていませんよ。1つでは多すぎるのです。
例えば1つのテーマで進めた論文は、その1つで詰まると途端に焦りや緊張がでてきてクリアな思考で望めない。
また、1つに集中してしまうと思い入れなども入ってしまい、正しい判断ができなくなることがあります。

できればテーマは2、3あると良い。そうすると「試しに混ぜてみよう」とか、これは失敗しそうだなと思ってものびのび研究ができる。


なぜこのような発酵という工程が必要か?

発酵させていない思考は面白くないのです。これはいわゆる一次的思考でニュース番組で事実だけを聞いている状態です。
ニュースの事実から専門家が考え要約して抽象化するから楽しく見れるのです。


1192年に鎌倉幕府が建立して、武家中心の社会が〜みたいな話より、
どうやって字を覚えたのか?字が読めない同士の恋はどのように実ったのか?キスはあったの?歯は磨けていたの?
と自由な発想で考え現代の思考と混ぜ合わせたもののほうがよっぽど楽しい。

そうして考え、寝かせて頭がクリアな状態で判断し、混ぜ合わせていくことで思考は深まっていくのです。


このことを本書では「情報のメタ化」と記載しています。
一次情報を要約することで二次情報へと昇華(抽象化)させる。さらにそれらを掛け合わせて三次的に捉えることでより良い思考へと昇華させていく。
発酵のためにはより高度な抽象化が必要なのです。


コラム1 セレンディピティ

セレンディピティという言葉をご存知でしょうか?
これは造語なのですが、本筋とは全く別の予期していない収穫のことを指します。

アメリカで対潜水艦兵器を開発していた時、優秀な音波機の開発が進んだ。
開発を進めていく中で潜水艦が出していない一定周期の音があることに気付きました。
これがイルカが交信を取っていると発見された時のお話しです。

皆様にもこういった経験はございませんか?
(イルカの発見までいかなくとも、本筋と別のものが見つかること)

発酵にはこういった副次的な効果もあるんですね^^


整理

前提として、思考の整理に関する話なのでこの整理の項目が一番重要かと思います。
前後の章と少しかぶる部分もあるかと思いますが、その点はご理解ください。


僕たちは「忘れてはいけない」と強く刷り込まれてきました。
忘れ物をしない。宿題をやってくる。忘れていないかを確認するために、定期的にテストを行う。

PCがある現代でこのような詰め込み教育が本当に重要なのだろうか?
19世紀初頭ならともかく、記憶することに関しては間違いなくPCに軍配が上がる。考える飛行機人間にならなくてはいけないのでは?

というのが本章で筆者が書いている内容です。
そのために必要なのが「忘れること」です。

そのための方法が具体例としていくつか上がっています。

・体を動かすこと
適度な運動は血の巡りをよくして頭をクリアにする。汗をかくまでやる必要はない。
いき詰まったときなどは思い切って30分ほど散歩に出ると良い。
学者の人はこの方法を取っている人が意外と多い。(プロゲーマーの梅原さんも考えをまとめる時に散歩するっておっしゃってました)

・メモを取る
考え事は思わぬところで閃くという意味で三上という言葉があります。馬、枕、厠。
こういったことはその場では覚えているものの、すぐに忘れてしまう。
また、書き溜めておけばそのこと自体は覚え続けなくて良い。メモを見れば良いので。
書いたことは忘れていって問題ない。

・リフレッシュ
とくに茶菓子などが良い。口に何か入れることで考えを違うことに意識できるので。
前述の散歩と合わせて、普段の場所から離れるのも良い。
転地といい、別の刺激を与えることで脳がリフレッシュされる。

・捨てる
いっそのこと捨ててしまう。本を読み進めていくと、「これは重要かもしれない。これとこれも」
という具合にあれもこれもと付箋を貼っていく人がいるが、これではかえって逆効果だ。
必ず使う!というもの以外捨てる。そうすることで脳をクリアに保てる。

こういったことを続けていき忘れる技術を身につけていく。


コラム2 時の整理

なぜ詐欺はなくならないのだろう?とここ最近考えていました。
特に最近経歴詐称など多かったので。

するとこの本の中にこんな回答が。
「現代文学は早くても50年以上前のことを批評する。何故なら過去に多くの失敗をしてきたから」
大工は家を建てる時、生木では建てない。何故なら木が月日と共に乾いて変形して家が歪んでしまうため。

つまり人間は現在起きていることを正しく評価できない。ということが歴史的背景からもわかるということが書かれていてとても納得しました。
サラリーマン人生8年にしてようやく正しい評価などないということに気付きました。

※この本自体も発行から20年間で10数万部の売り上げだったものが、再評価されて現在では250万部の売り上げにまでなっています


出力

整理の一環ではありますが、書く、話すということは思考を整理する上では大切なことです。
部下に「次のプレゼンの資料は?」ときいた時にまとまっていない考えを5分も10分も聞けたものではありません。

その、纏まっていない一次的な思考を出力することで、二次的思考に昇華させる必要があるのです。
出力についてのコツがいくつか書かれているので、ピックアップしていきます。


・テーマは一文で書く
これは特に学術論文や、小説に当てはまるのかなと思います。
花では短すぎる。燃えるような赤い花では修飾語が多すぎる。
その題名を見た時に「これはどういうことだろう?」と読者に考える余地を残さないといけない。
アメリカの論文作成書にはテーマは一文が好ましいと書かれている。

・一気に書ききる
途中途中で編集のために立ち止まらない。微妙な表現の修正は置いておき、一気に書ききる。
いちいち修正していては執筆が間に合わない。
また書ききることで一旦納期から頭を切り離すことができる。

・話すことでも洗練される
書くだけではなく、話すことでも思考は洗練される。
源氏物語がいまだに美しいと感じるのは、琵琶法師によって語り継がれてきた中で洗練された部分が大きい。
プログラミングの詰まった時の方法として、ベアプログラミングというものがある。これは単に自分の現況を話すだけなのだがとても効果がある。

ただし、安易になんでも話して良いというわけではありません。
話すことであたかも自分がそれを行ったかのように錯覚してしまうため。
プロダクトの構想は話した段階であたかも作ったかのように錯覚してしまうのです。

・まずは褒める
これは話を聞く際の心構えです。
思考というものはとても繊細です。上司に自分の考えをプレゼンするというのはとても重たい仕事なのです。
ましてやそんな重たいことを「何考えてるの?」なんて冷たくあしらわれた日には立ち直れません。
2度とその案が浮上してくることはないでしょう。

考えることを尊重したい場合、まずは心理的安全性を高める必要があります。


コラム3 汗の匂いのする思考にする

最近の流れでは「原体験」を重視する考えが多くなっていると感じています。
自分もこの本を読むまでは二次的な思考。つまりまとめサイトにあまり価値を感じていなかったのですが、「論文は二次的思考である」と書かれており大変感心しました。

では、何故自分はまとめサイトに価値を感じていないのか?
それは汗の匂いがしないからです。

要約でも二次的思考や三次的思考に昇華する時に自分の、自分だけの考えが必要だと述べられています。
誰かのオリジナルと分かりながらも、「これが自分の考えだ!」という主張が必要なわけですね。

なるほどたしかに。とても合点がいく内容でした。


最後に

以上、思考の整理学を纏めさせていただきました。
様々なことに応用が効くとても良い本なので、是非読んでみてください。

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