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BMG戦:ロス・ブランコス躍動の真実

ジダン監督の進退、それとなにより史上初のGS敗退阻止をかけて後が無い状況で迎えたGS最終節。勝つために必要な“3P”とは。

ロナウドになったかと思えば次の瞬間フィルミーノになるベンゼマ。カルバハルになりかけたバスケス。白い巨人たちはなぜ躍動し、勝利を手にすることが出来たのか。その真実を解き明かしていきます。

高度なプレスインテンシティ

キックオフ直後、早速レアルマドリードのハイプレスが襲い掛かりました。

まずベンゼマが初手左切りを実行。深い位置から右サイドに誘導し、両サイドへのワイドな展開を防止。右サイドに守備力を集めます。時にはクロースも、中央から右サイドへ出ていきます。手薄になった左サイドはヴィニ、メンディ、カピタンのアスリート能力&カバーリング範囲鬼トリオの個が保険です。 

そうして誘った右サイドで待ち受ける猟師はモドリッチ&ロドリゴ。モドリッチは兎に角、縦パスを警戒します。ボールへのアプローチは二の次で、ボールが動くとその場その場で瞬時に危ないコースを消しに行き、いとも容易くインターセプトを繰り返しました。そしてロドリゴの仕事は、ワイドレーンの活用を防ぐことと、使われた場合は素早くそこに追い込むこと。モドリッチが巧みに猟犬を指笛で操っているようでした。

そして10分の先制点のシーン。カゼミロでひっかけてからのショートカウンターです。ここまでビルドアップから継続的にゴールまで迫れていたわけではありませんが、しっかりプレスが成功していたことによって押し込めていました。

押し込んだ状態で引っ掛けるとゴールは目の前。バスケスがすかさず上がりを見せ、絞ったロドリゴを含め3枚をペナ内に送り込めました。ヴィニがベンゼマの飛び込みを待って、後出しへ中央へ。ニア側から飛び込んできたベンゼマは完全にマーカーの内側を取り、SBは何もできませんでした。

このように、ロドリゴは特にアタッキングサードにおいては味方の助けになり、相手を混乱させるためのオフザボールが出来る選手です。セビージャ戦でもそうでしたが、バスケスが外、ロドリゴが内という使い分けができているときはほぼチャンスに繋がります。しかしこの試合も、特に前半はシャフタール戦、セビージャ戦同様にそうじゃない時間がかなり長かったように思われます。

前半のボール保持

はい、バスケスとロドリゴが縦関係になっています。特に、ラモスからヴァランにボールが入った時、バスケスがヴァランの横まで顔を出しに降りていくシーンが多いですね。この問題に対して、前半にカピタン・ラモスの出した回答は3バック化でした。この試合、ラモスは時ににかなり大外ワイドレーンまで張り出し、相手の中盤ラインより高い位置の大外のヴィニorメンディへパスを通していました。空いたヴァランとの間にクロースが降りてくることもあれば、ヴァランが中央にずれての3バック化をすることもありました。

そうしてボールの滞留を防ぎはしたものの、ベンゼマが全体的に左寄りなのもあって、モドリッチが折を見て入り込まない限りハーフスペースは使う人が居ない状況は依然として続きました。(しかしモドリッチには中盤のカウンター対策の役割もあります。)

追加点のシーンも高い位置で引っ掛けてショートカウンターに近いですが、モドリッチがハーフスペースから大外のロドリゴに供給。大外のヴィニのマーカーであるSB の内側に入ってCBの背中側で合わせた飛び込み方はお見事でしたが、右サイドのハーフレーンには誰もサポートが居ないんですね。中で待ってたのも2人だけでしたし、かなり相手の対応もお粗末だったと言わざるを得ないでしょうが、とにかく2人の個の力で取り切りました。この試合、CB の背中側に入り込むベンゼマに対してのロドリゴのクロスは常態化してました。

後半 ディフェンシブサードでの前進

後半、バスケスの位置取りがいくらか高くなりました。リードされたBMGがハイプレスを仕掛けてきたこともあって、今度はカピタンが技術を見せます。

追い込まれても簡単にとられず、最悪躱して前に蹴ってしまうことが出来るラモスは、マーカーが来ていたとしても簡単に蹴らず、クルトワもしくは逆サイドのバスケスに正確なサイドチェンジ。圧巻でした。普段そんなに多くはやらない上に成功率もそんな高くないですが、クルトワも綺麗なロブパスをバスケスに通していましたね。それでも、ロドリゴとバスケスの縦関係は変わりませんでしたが。ヴァランからロドリゴへの楔のパスは一本もなかったように思います。

バロンドーラーの献身

右サイドの問題を解決したのがモドリッチです。詰まったと見るや中盤をカゼミロに任せてセカンドトップ化。ベンゼマの脇に上がっていくorハーフスペースを取りに行き、ヴァランやバスケスからのベンゼマへの縦パスコースを開けに行きます。ベンゼマはベンゼマで多少厳しいボールでもしっかり収め、ヴィニシウス、メンディに展開、もしくは距離感の良い位置にいたモドリッチに預けます。who scoredによればアタックサイドは44%が右サイドであり、左で引き付けて右で前進というパターンが恒常化していたことを表しています。

総評

この試合、個々の局面についてあまり言うことがない程内容面で圧倒していました。

①ディフェンシブサードからのビルドアップ

もう長いのでボトムサードでいいでしょうか。深い位置からキーパーを利用して組み立て、しっかりプレーエリアを上げることが出来ていました。ポゼッション率もこれに応じて高まり、守備の局面を減らすことで高い強度でのプレッシング継続を可能にしていました。セビージャ戦ではこれが出来ずに低調なポゼッション率で長い時間押し込まれ、守備に走らされていました。

これらの継続にはチーム全体の献身的プレーもありますが、ラモス・モドリッチ・ベンゼマがスーパーだったことも大きな要因です。個人的にはMOMはモドリッチです。勿論今シーズンベストパフォーマンスでもありました。ラモスも含めて早く契約延長してほしいものです。

②ミドル・アタッキングサードでの攻守の継続(ハイサードなプレーエリア)

ボールが奪取された時に即カウンタープレスを仕掛け、即時奪回もしくは遅攻を強いることが出来ていました。これによって攻守をミドルサード以上でほぼ完結させ、回収時には相手の帰陣前にショートカウンターでゴールを奪えました。(2ゴールともコレ)これは、SB バスケスを含めてゴール前で点を取れる位置に選手が多く飛び込め、攻撃1つ1つの成功率が向上することも意味しました。また、間延びせずに距離感が良いので更なる即時奪回にも繋がる好循環が生まれていました。

それはそうとして、この2つ(①は②の必須条件に過ぎないが)をしっかり押さえたサッカーをしたことで、高い位置で有利なサッカーを展開し、白い巨人たちは躍動できました。躍動というと抽象的ですね。具体的には3つのPを実現していました。

3P理論

現代フットボールで勝利するために必要な戦術的コンセプトであり、相関関係にある3つのPというのが存在するように思います。この日のレアルマドリードもそうですが、試合を支配して勝つチームというのはこれがらを実行することによって高いプレーエリアを維持しているように思えます。

それはPress・Possess・Proceed。日本語流に言えばと奪回、保持、前進です。勿論サッカーには攻撃と守備の局面があるわけですが、現代サッカーは攻防一体です。相補的なこの3つを高いレベルで成功させた場合には守備を含めてすべてが攻撃行動となり、長い時間をローリスクハイリターンな状態で戦えます。ついでに消耗も抑えられます。そして私の知る限り、これらを最も総合的に高いレベルで行える選手たちを要するのはレアルマドリードのように思います。毎試合出すのは難しくとも、必要な時に適切なパフォーマンスを発揮できればビックイヤーを取り戻すのは決して無理なことではないでしょう。ジダン監督はそのための手駒をそろえているのですから。

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