ジダンマドリー最大の危機

初回、といいますか、今回このようなコンテンツを始めようと思い至った動機に関しては、上記の通りです。前代未聞のGS敗退危機かつリーグ低迷という壊滅的な状況が何故起きているのかについて、マドリディスタ目線でお話ししたいと思います。

あまり前のことを話しても仕方がないので、まずはフエラで戦った直近のシャフタール戦について。

レアルマドリードの守備

基本的に、レアルマドリーのチェイシングはロドリゴを一列前に出すことによって行われました。ベンゼマが右CBを抑え、ウーデゴールがアンカーを切りながら左CBに制限をかけます。そうしてロドリゴサイドに誘導したところにロドリゴが出ていき、バスケス、モドリッチが連動します。

仮にアセンシオサイドに展開された場合、縦のコースを丁寧に切りながら前にプレッシングします。逆にアセンシオが出ていくパターンも少しありましたが、どちらの場合でも、中盤二枚が孤立しないように反対のウイングが戻って433の形にする原則を課せられているように見えました。アセンシオが縦のコースをやけに気にしていたのも、レイオフでクロースの脇をつかれるのが嫌だったからでしょう。個の力で担保しつつも前に出ていく緻密な守備戦術に見えました。

最初の決定機である前半4分のアセンシオのポスト直撃シュートのシーンも、最初にアンカーをウーデゴールが抑え、両CBをベンゼマロドリゴの二枚で抑えたところから左に誘導し、2番右SBドスサントスが打開しようとドリブルを試みたところをアセンシオが突つきました。その後アセンシオは2CB間のゲートを狙い続けてゴール前に飛び込み、タイミング良くキーパーの前に飛び出してシュートを放ちました。コース取りや飛び込むタイミングから見ても、彼のアタッカーとしての才能を感じました。

この日のアセンシオは足運びが軽快でフィーリングも良さそうでしたし、長期離脱前の彼の予感を感じさせてくれました。

低調な攻撃

次に6分のシーン。この日のヴァランの調子の悪さが伺えるシーンです。ハーフスペースで裏への駆け引きをしたメンディーが開けた、広大なアウトレーンで待っていたアセンシオへのサイドチェンジがかなり反れました。反れなくても恐らく取られていたでしょう。ヴァランは蹴ったというより蹴らされた感じで、狙われているのが解っていて逡巡しつつも結局蹴ったというふうに見えました。ここに凝縮されているのがこの日のマドリーの問題点です。

まず、後ろに人数を溜めすぎていること。これは攻守の分断という話にも繋がってきますが、要は前線のラインと後方のディフェンスラインの2ラインに人が固まっていてバランスがクソ悪いということです。

この大元の問題は、このパスが試合中殆どなかったことです。

この大外のコースをボールが進んで行かないために(サイドで詰まる)クロースモドリッチの両ボランチが降りていくことになり、中盤が居なくなる。そうすると、バックラインからロドリゴやアセンシオめがけてボッコンボッコン蹴るしかなくなてしまうという悪循環ですね。仮にそのボールが失敗した場合は、中盤には広大なモンゴル高原が広がっています。遊牧民族よろしく駆け抜けるだけですね。

シャフタールの守備

一応、この原因はシャフタール側にもあります。シャフタールの守備がこうさせていたということです。この6分のシーンでもそうでしたが、最前線の選手がまずバックラインに入ってナチョ、バラン、クロースの横パスコースを遮断します。ヴァランがボールを持った場合には右にしかつけられないですが、常時バスケスの位置が低い。ロドリゴが幅と深さを確保するために張ることによって右サイドは縦関係になり、シャフタール側が左翼の選手で縦のコースを切りながらチェイスすることで完全に詰まります。見かねたモドリッチも降りてくることによって完全に前線と後列が分断されます。

右サイドは、アセンシオとナチョのパスコースを徹底的に狙い、このパスを阻止します。

意図してそうなったのか、たまたま自滅したのかはわかりませんが、これに対してシャフタールが4バックのスライド守備で対応したことによって、陣形を保持しながら中を固めることが出来ました、このシーンは逆サイドの大外アセンシオを捨てて他の4名に対してマンツーマンに近い形で対応、ボールが飛んでいる間に余裕で対応できました。この際手前で受けて繋がれないので、楔のパスを警戒してタイトにつく必要がありません。ディフェンスラインで数的不利を作られても全く気にする必要がありませんでした。また、時によって4411や451、4141の形を使い分けることでマドリーの中盤を完全に封鎖しました。

バスケスの対処法

一つの方法としては、バスケスが大外の高めを取りに行き、ロドリゴを内側に押し出すことです。これによってヴァランが右側に持ち運べ、ロドリゴに楔を入れるもよし、バスケスに流すもよしとなります。相手が詰めてきたら数的優位を生かしてバックラインでかわすもよし、モドリッチとコンビネーションをして前進することもできます。10番の腕の見せ所です。ベンゼマとウーデゴールでアンカーの両脇を攻略しても良いですし、ウーデゴールが中盤に降りても構いません。

もうひとつの対処法としては、バスケスが内側のレーンを取りに斜めに走ることです。逆サイドではメンディーが頻繁に行っていますね。これによってヴァランが右に持ち出しつつ大外につけるか、内側につけるかの選択肢を用意できます。一見モドリッチにかぶりに行くように見えますが、低い位置で外側に張り続けるより遥かに良いです。ですが実際にこのような動きが入ればまず間違いなくモドリッチが適切なリアクションを行います。

こちらの動きを行う可能性は現実的には低いでしょう。ダウン3を作りに行っているクロースとは違い、こちらのサイドの内側レーンにはモドリッチが陣取っています。バスケスがこのような動きを行う試合もありますが、カゼミロが居る時よりもモドリッチが後ろに重い(カバーリング重視)なので、内側をとってもコースが開かないと考えたのかもしれません。コミニケション不足という可能性もあります。

いずれにせよ、ベテランのバスケスとモドリッチがロドリゴを動かして自分たちも合わせるコーチングが必要だったのは間違いないでしょう。

実際、それがうまくいっているのは9分のシーンです。バスケスとロドリゴが縦スライドでツートップに連動し、モドリッチが上手くカバーしたことによってボールを奪いました、その後ナチョクロースモドリッチですこしコミュニケーション不足がありましたが、ワイドの高めをしっかりとっていたバスケスにつながり、ポジションチェンジをしていたロドリゴとバスケスがディフェンスラインの間から上手く飛び出せました。

続いて10分にもベンゼマが抜け出してのシュートシーンがありました。この前にクロースが一度左大外のアセンシオに振ってからの右サイドでしたので、ゾーンで守るシャフタールのスライドの隙を上手くついたモドリッチの賢いプレーです。

バスケスがドリブルで切れ込んだことによって中盤化し、モドリッチが居なくてよくなったハーフスペースに入り込んでいったことで生まれたコースにモドリッチが顔を出す。これによって前線の3つのゾーンで数的優位を作り出しました。本当に見事な機転です。

20分のシーンもモドリッチが演出したチャンスでした。

陣形がぐちゃグチャグチャですが、モドリッチがハーフスペースに入り込みます。浮き球のボールが出され、収めて前を向いてからのアウトサイドパスという個人技の連続でチャンスを作りかける個の力バーゲンセールです。しかし相変わらず中盤にはモンゴル高原が広がっています。

22分のカウンターのシーンでは、アセンシオが長い距離を持ちあがります。細かいタッチと軽快なフットワークは昔を思い出させましが、サイドに振ってからの動きが素晴らしく、早めのタイミングでしっかりクロスが出ていれば決定機になったでしょう。バスケスの力不足ですね。

ここから、右サイドに攻撃の軸足が移ります。29分のショートカウンターの場面。メンディーまでつないだ後、ウーデゴールとアセンシオがニアサイドに飛び込みます。ふたりで華麗にくずしてアセンシオがシュートまでいきました。左サイドで2人が絡むと面白いなと感じさせるシーンがこの日いくつもありました。

後半、前線二枚の守備強度が落ちて守備が嵌らなくなると、アセンシオのところで数的優位を作られ、そこを糸口にロドリゴが出て行った後の右サイドのスペースを突かれる攻撃を受けるようになってきました。攻撃は相変わらず、右サイドのバスケスにボールが行っては詰まってバックラインにもどり、左サイドに蹴り飛ばすだけです。もはや攻撃といえるかすら怪しい。

これは75分のシーンです。もはや訳が分かりません。2CB間に2ボランチが降りてダウン4を形成、その右にバスケスがいて5バックなのかそうじゃないのかよくわからないですね。

時間が経過して、ウーデゴールが右のハーフレーンに位置取り始めます。明らかに右でボールが詰まってるので何とかしたいと思ったのでしょうね。その結果モドリッチはそれまで入っていたスペースに入れなくなり、バランの横に降りていくことに。その結果生まれたのが、4231から55へ可変するという新たなシステム。世紀の大発明です。しかしその結果、前半ベンゼマの周りを漂っていることでボールロスト時のファーストディフェンダーとして機能し、モンゴル高原手前で食い止めていたウーデゴールが全くその役目を果たせなくなり、中盤に辛うじてとどまっていたモドリッチもバックラインに吸収されて中盤が不毛の大地に。モンゴル高原からサハラ砂漠となりました。

その直後、ジダン監督は三枚替えを発動。ベンゼマ、ウーデゴールをマリアーノ、イスコに変えてロドリゴの代わりにヴィニシウスを投入。アセンシオを代わりに右に置き、空いた左にヴィニシウスを置きました。内外を使い合うアセンシオとのコンビとは対照的に、ヴィニシウスは頑なに外側に張ります。

追加点の真実

81分の失点シーンも、そこが遠因の一つとなります。モドリッチがボールを運んでも、ヴィニシウスが頑なに内側のレーンに顔を出さず、仕方なくメンディーの居る方のスペースにボールを転がして逃がします。その結果、モドリッチが気を利かせてハーフスペースに侵入、メンディーは偽サイドバックのような状態でサポート。ヴィニシウスは理想的なサポートを得て突破を仕掛けます。

イスコがいち早くニアに飛び込み、ファーでマリアーノがポツンと立っていたので、可能性を感じなかったアセンシオはその間に飛び込みました。ですがイスコもマリアーノも何らアクションを起こさなかったので、無駄走りに終わります。

イスコはマイナスを呼び込むことでヴィニシウスが切り込むスペースを開けつつボールをもらえる角度を作るべきでした。ヴィニシウスが切り込んできたのであれば、あそこにいるのはただ邪魔なだけです。受けてもシュートを絶対に打てませんし、そこにいる理由が皆無です。マリアーノもヴィニシウスが抉ってきた時点で、あそこにいる理由はありません。100%パスが来ませんから。イスコが邪魔でポジションを見つけられなかったのかもしれませんが、居ても意味ないのですからせめてマイナスで待つくらいはしなければならないですね。

仮に二人の片方もしくは両方がこの動きを実行できていた場合、アセンシオの動きは極めて有効なものとなる筈でした。アセンシオ自身もそのような予測で、一見強引な飛び込みをしたように思います。これの前にも、一人ゴールを取り返そうとする意志が見え隠れしていましたし。このシーンでも、アセンシオのゴール前でのセンスを感じますね。

その後は見ていただければわかる通り、クロスに合わせられなくても戻っていく人がバスケスしかいませんでした。クロスが上がった時点で画面に映っている選手はシャフタールが9人、マドリーが5人なので、トランジションのタイミングでは人数的にマドリー優位でした。加えて、メンディーとモドリッチはペナルティエリアの手前でリスク回避に動いていましたので、さらに有利な状況でした。すかさずクロースがスライドし、メンディーが詰めて取り囲もうとしましたが、中につけられて抜けられてしまいます。

抜けられないためにどうすべきだったがというと、モドリッチが詰めるのことが必要だったのはその通りですが、モドリッチは後ろに広大なユーラシアステップを抱えていたので、タイトにつけませんでした。メンディーがしっかり内側を切ればよかったと言われればそれまでですが、クロースを含め後ろの人間とモドリッチは、イスコとマリアーノの少なくとも片方が戻ってくれると思っていたでしょう。というか戻らないと無理です。しかしながら相手ボールになってからしばらく、出場間もない2人が歩いています。戻る気なんて微塵もありませんね。仮にイスコが中央のカバーに入った場合、モドリッチは中央を経由させずにつぶしきることが出来ました。

総評

この試合、前線の多くの選手はポジティブに評価できる面が多かったように思います。ベンゼマやウーデゴール、アセンシオ、メンディーは各々がしっかり、与えられたタスクを遂行していました。メンディーやベンゼマはいつも通りでしたが、ウーデゴールやアセンシオは今シーズン中でもかなり評価の高い働きに見えました。

モドリッチはバスケスの守備をカバーしつつも、最後までチームにリズムをもたらそうと獅子奮迅の働きでした。チャンスはほぼモドリッチが生み出しました。

ロドリゴは守備面でチーム戦術のキーとなり、大きく貢献しました。しかし、ワイドに張り続けることによって攻撃の停滞にも大きく貢献しました。

クロース、ナチョ、ヴァランはいずれも、チームの欠陥の上に何もできず、何もしませんでした。相手が1枚しか出てこないのに頑なにアンカー落ちを続けたクロースによって、後ろが重くなってサイドに付けられなくなったナチョや、バスケスの位置取りによって詰まったので調子の悪い(読まれている)サイドチェンジを無理やり蹴らされてしまったヴァランも犠牲者と言えるだろうが、問題点が分かっていながら解決しなかったのも2人でした。

そして一番この試合スタメンの中で最も評価が低いにはクロースとバスケスです。なぜああもアンカー落ちにこだわったのか、バスケスは高い位置を取らなかったのか、真相は分からないが、とにかくこれらの要因がチームを悪循環に陥れていました。

現状イスコ戦力に数えられない存在だと改めて分かりました。攻撃面でも守備面でも、全く味方の助けになれないどころか完全に穴になっているように見えました。移籍云々言う前に、なぜ自分がウーデゴールより序列が低いのか見直さなければ一生主力には戻れないでしょう。完全にあのゴールはイスコのせい以外の何物でもないと言い切れます。

ヴィニシウスに関しては、あの状況で投入されて自分が何をすべきかしっかり理解していたようでした。実際に決定機も創出しています。マリアーノ同様、特にコメントはありません。

いかがだったでしょうか。これがGS敗退危機という悪夢のような状況を生んだ、キエフの夜に起きたことです。もうこんなレアルマドリーは見たくありません。ですが、アセンシオやウーデゴールなど、ポジティブな面もありました。「クライシス」と呼ばれたときに来るビックマッチにはめっぽう強いジダン監督ですので、何かしらの手を打ってくれると信じて待ちます。

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