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わたしたちは、地球の上に生きている。

ウミウシ・うみうし【海牛】
軟体動物の仲間であり、その中でも貝殻を捨てた巻貝の一派。ウミウシという呼称は、頭にある触角が牛の角のように見えることに由来。
英名ではsea slug(海のナメクジ)と書く。

因みに同じ様で違うアメフラシは英名でsea hare(海の野ウサギ)って書くらしいよ。

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男性ブランコのコントライブ『変身東京ウミウシ』そして、『変身大阪ウミウシ』

今回は配信という形で観る運びとなる。
先行でチケットがご用意されず、一度落ち込みサクッと気持ちを切り替えたが、多分前回の『ヘジホジ』に運を使ってしまったのだろうと考えている。
Twitterを眺めていると、どうやらなかなかにチケットが取れなくなってきているようで、そこに関しては「嬉しい」と「何と言って良いやら」という気持ちが混在する。また劇場へ足を運べるよう、日々実直に努めていこうと思う(此レ即チ『徳ヲ積ム』ト謂フ)
だけど、それだけ彼等の面白さを肌で感じてみたいと強く思う人が以前よりも確実に増えたと考えると、純粋に嬉しい気持ちの方が勝る(母数が増えればなんとやらで色々と思うところはありますが)
そして、単独をやる度に配信・アーカイブを残してもらえる事の有難みを改めて感じる。こちらとしても甘えすぎるのは良くないなという気持ちはあれど、もう暫くは大配信時代の恩恵に乗っかっておこうと思う。

今回のキービジュアル、東京・大阪ともに、デザインを担当された川名潤さんが仰っていたように模様と色使いがサイケでこれまたとても素敵。

サイケと聞いて、自分の頭の中の引き出しからスッと出てくるのが、ゆらゆら帝国というバンド…『夜行性の生き物三匹』のMVが大好きすぎてだね。


…秒で話を戻そう。
『夜行性の生き物三匹』について熱く語ろうの回ではない(今後語る機会も多分ない)、『変身東京/大阪ウミウシ』の話だ。

愛すべき変わり者たちが登場する6本(+3本)のコント、シュールな話もありつつ、終わった直後にもう一度再生ボタンをタップしたくなる、クセになる話ばかりだった様に思う、実際におかわりしまくっている。
前回から1ヶ月ほどしか経っていないが、それでも変わらずおかしみ満載。自分の中で『ヘジホジ』はキャッチーな面白さによる満足感が強かった印象があり、内容がすごく頭に入っていた事もあってか、実はアーカイブはあまり観ていなかったりする。
だからと言って今回の『変身ウミウシ』、勿論面白かったし、決して残らなかったわけではないので悪しからず。
そもそも、面白くなかったらこんなに感想書きたいって気持ちにはならんよ…ただ、観終えた直後に、凄く心がフワフワとしていたのと、実はちょっとだけ涙したりした。その理由は後程。
何度も観たくなる気持ちは変わらない、何度も観ようと思わせてくれる何かがあるのだろう。しかも、東京ウミウシで観たコントも大阪では見事な『変身』を遂げ、また違う世界を見た気がする。
そういった所も比較出来るのが、今回2公演のアーカイブの醍醐味にもなっている気がする(特典もあるしね)
自分の中で男性ブランコのコントライブを観ることは、ある意味ビジュアルテーマよろしく、最高のサイケデリック体験なのかもしれない。

スネアの音から始まるOPも、色気ある美しい映像に冒頭からピアノの音色が重なり、それが重厚感を添えてくれて凄く好きだった。前回の可愛らしい雰囲気とは打って変わり、どことなくペーソスな空気も漂う…一瞬映る、河岸(?)に打ち上げられたダブルメガネの姿が目に入り、クスッとする。
幕間VTRで見られる、作家さんが描くとてもキュートなイラストは、毎度の楽しみでもある。今回はウミウシが歌っている様にも見える。OPとは対照的に、観ていて穏やかな気持ちになるウミウシ視点(?)で見る海中の景色と、パステルなウミウシのイラストにほっこりする。緩急大事。


「これから先、僕達二人はキャップスマホで沢山の人々を救うことになる」

何年も先の未来に、彼等の世界でキャップスマホは平和の証になっているという。
「なんてシュールなコントだ…!」というのが第一印象。ハンズフリーにも程がある。
『(帽子の)キャップにスマホを挟み込んで生活をする人』という発想、どんな事してたら思いつくんだろう。突き詰めるとそこに美学さえ感じられるのだろう…じゃないと、あの青年も弟子入り志願なんてしないと思うし。
キムチ鍋のことを表現するのに『辛葉っぱ汁』って言ってるの笑ってしまった。
東京ウミウシから4日しか経ってないのに明らかにブラッシュアップされてて一番ビックリしたコント。


おろしたての真白なシャツを着た時こそ、注意しなければならない事といえば、食事。アツアツの鉄板に乗って運ばれてくるお肉料理やケチャップで味付けされたナポリタンにその他麺類と多種多様。
お寿司だってそうだ。醤油というなかなかに手強い敵が存在する。
[こちら側のどこからでも開けられます]の言葉だって、時にそれを真に受ければ痛い目を見る(納豆のタレとか)
そんな日常で起こりうる“あるある”を凝縮した様なコントが、この【トントン】…なんで真ん中から行こうと思ったんやこの人。
やり場のない怒りと哀しみの投げどころが分からず彷徨った結果、寿司に添えられていたモノに対して難癖つけ始めた時に、「ほんとにやり場なかったんだな〜」感が滲み出ていて思わず笑ってしまう。哀しみと絶望の淵から、友人に当たり散らしてすぐ謝るを繰り返す辺り、本当は友人の優しさを受け入れたいけどモヤモヤしちゃうんだろうなぁなんて思ったり。
あと、「今の僕に、正論は毒だよ」という言葉がすごく残る。日常の会話でもそういう風に思うことがたまにある。
スキップするくらい心がウキウキする、もっと遡れば、彼はそのシャツをお店で手に取った時から心がウキウキしてたんだろうなって考えると、シットコムの観客よろしく「Oh〜…」と思わず声に漏れてしまう。
この【トントン】というコント、男ブラさんのコントの中でも割と珍しいタイプのオチだった様な気がして、それがとても印象に残っている。


大阪ウミウシでのコント【推理】と【手品】、そして【来ました】
「どれか好きなのをひとつだけ選んでください」と差し出されたら、選べずに頭抱えてずっと迷ってしまえるくらい、秀逸な3本だった。
【推理】はドラマでよくある場面なのに実は…な展開が最高だし(挙動をシンクロさせてる所好き)、【手品】もタイトルにもなってる手品の見せ方が凄く素敵だし、急に色々と悲哀を隠せなくなりだす加減が絶妙だし(「ボディタッチ=好き」で良くない?がパワーワードすぎる)、なによりも光明見出せない空気漂うオチが好きだった。
【来ました】も、なんか観ながらずっと笑ってたな〜…諺の擬人化…?擬人化はそんなに興味ないけど、結構こういうの好きよ。こういうおいちゃん、居る居る。盆ちゃん正ちゃんって居そうだしな。

「忙しいっていうこともさぁ、有難ぇことなんじゃねぇの!?そうだろ?忙しいってことも目出度ぇってことなんじゃねぇのかなぁ!?そら大変な時もあるけどよぉ、そうやって暇よりはさぁ、忙しく走り回ってた方が、ある種幸せだと思う人達も居るんじゃねえのかぁ?そうやって、喜びの形は人それぞれ、様々なんじゃねぇのか?俺はそう思うよ」

【来ました】での正ちゃんのセリフ。なんか、御二方のこと言ってるのかなと、ふと思う瞬間だった(妄言失礼しました)
「迷惑なんだよ〜」って言った時の盆ちゃんの手の動きがおじさんのそれで最高だし、最後ちょっと毒があって好きだった。しっかり働きます。


途中、長めな靴下も相まって、既視感ある人物がほんの少し頭を過った気がする【デニム】というコント…あの立ち姿…いつぞやの宇宙人…?
「デニムのロールアップ」と「モノクロだった景色が鮮やかに色づく」事に因果関係を持たせようと思うに至る経緯が気になった、発想が面白いな。
辛い出来事の直後は景色がモノクロになる…とても分かる、色彩が抜け落ちているような感覚、経験がある…割と最近。浦井さんが景色を眺める時の表情、お顔のロールアップで笑顔を作ってはいるけれど、見ようによってはどことなく目が虚というか笑っておらず、光がない様にも見える。
「人の為に行動できる姿」を目にして気持ちが動く、止まっていた心の歯車が再び回り始める様な。
自分も大切に思う誰かに対して、純粋な気持ちでそんな風に動いてあげることが出来るだろうか。大切だと思う誰かの、そんな存在になっていけたら良いんだけどな。
それと「世界って、眼福」ってセリフ、素敵な言葉だ。『美しい」ではなく『眼福』…心の中で唱えてみると、なんだか心がふくふくとする。
「ありがとう」と言われて「その言葉、そっくりそのまま世界に放ちな」と自然に言える様な心を持った人になりたい。
最後のシーンは、何度観ても必ず微笑みながらこのコントを観終えている。そんな人がどのくらい居るだろうと、わたしはふと考えるニム〜。


【闇】は大阪の3本と同じくらい個人的に好きなコント。フォーカスする場所が自分の心の闇とは、見たことある様で無かった気がする(既に誰かがやってるのかもしれないけど)
『闇』の存在を、自分の中にあるセオリーという名のフィルター越しに見ていると、急に頭がバグを起こす。確かに心の中に存在する自分。闇しか居ない事もあるだろうし、闇の存在とはいえ、光の如く時に自分に優しくあっても良いよな。そもそも、内面にある対照的な事象を線引きして、別々のものとして観る視点や考え方自体を変えていかないといけないのかもしれないな(何言ってんだこいつ)
平井さんが跪くと闇の存在が其処に浮き出てくるの良いなぁと思うし、浦井さんのこういう悪い感じ出てる芝居、好きだなぁ。それにしても、心折れてる主を不憫に思ってゲキ飛ばすだなんて、凄く人間くさい闇だ(主は人なのだからそれもそうか)…闇から引き摺り下ろさず引っ張り上げてどうする。

闇と主が言い合いになった時、「闇しか居ないもんだからぁ!」の後に続く「…だから、」という闇の一言で、場の空気が一変する瞬間を見た時、ちょっとシビれてしまった。たった一言、声のトーンひとつだけでテグスをピンと張ったかの如く180°変わるのだから、凄いなと思う。闇がスーッとファスナー下げて光になっていく過程が好き。

それにしてもあの闇の主、諦め早ぇんだよなぁ笑


「ウミウミウミウミウミ…」「ウシウシウシ…」と口にしながらウミウシの頭と胴体をそれぞれに持ち、不規則に動くふたりがやっているのは、【ウミとウシの隔たりを合致させる仕事】

…仕事…?

『おだやかな距離』の中でもあった『アルコールプッシュタイム』を彷彿とさせる。男性ブランコのコントライブで、こういう時間があるの本当に好きすぎる。
Eテレで観た事がある『ニャッキ』を何故か思い出す…多分、可愛いフォルムのウミウシと、ふたりが発する声の所為。コレ、このままEテレの何処かにスッ…と差し込んでもなんの違和感も無いと思う。

因みにこのコント、東京のラストは平井さん、大阪のラストは浦井さんが担う。東京の配信での平井さんはほぼ微動だにしなかったのに、大阪の配信を観てたら、浦井さんがだいぶ自由にやってて「この人天才かな?」と思った。


「 その島」と、タイトルがモニターに映し出された時点で、このコントだけそれまでのコントとは一線を画したものになっている。
1マス空いた部分には何が入るのだろう。人によって違うんだろうな。自称医者の余所者・アズミと島に住む男・カマタの話。
照明の当たり方で日差しの強い島であることが分かる。カマタが発する一発目の「余所者だ!」が、一度観た時と反復して観た時の捉え方が変わってニヤニヤとしてしまう。
話の途中で「あっ!フナムシだ!えぎぃ…!」ってなるの、集中力散漫すぎて思わず笑う。カマタ、島の人とは馴染めないけれど、磯への愛が凄まじい。対してアズミは社交的で物腰柔らか。おばあちゃんとお話してる時の動きがめちゃくちゃ良い。この時のアズミが口にした「よかった〜」って、そういう事だったんだな。
カマタとアズミ、真逆なふたりだけど、ガチャガチャ揉めながらも仲良くやりそうな気がするな。子どもと遊ぶ方がクリエイティブで面白いっていうのは本当にそう…それを分かってるって、カマタはそんな経験があるのかな。そうだよな、あってもおかしくはないよな、35歳の成人男性だもんな(ド偏見にも程がある)
「いいとこ連れてってやるよ」
「いいとこ?キャバクラかい?いいね、腕が鳴るよ(早口)」…俄然ノリノリなの笑ってしまった。

カマタが巨大な二本杉の前で「 その島」で生きる資格を述べていた。
冒頭に書いた『夜行性の生き物三匹』よろしく、“事情は色々で、まして素性なんて分からない”人達の集まりなのだろうけど、
「みんな余所者だから助け合い、みんな余所者だから勇気を出して信じ合い、みんな余所者だから礼儀を重んじ、みんな余所者だからこの島に敬意を持つ」
…なんだか、わたし達にも同じことが言える部分がある様な気がする。

コントの最後に島の全容が明らかになるが、その時に流れてくる映像には、島の形状が描かれるとともにこう記される。

「 その島」
その島は、レモンを横に置いたような形である、
その島の中央には豊かな紫蘇畑が広がっている、
その島の最西端には巨大な杉が2本立っている、
その島は、地球の上に生きている。
「 その島」より

その島は、地球の上に生きている

この一節を見た瞬間、込み上げてくるものがあり、涙がじんわりと零れてしまった。何故なのかは自分でも分からないけれど、何度アーカイブを観返してもここで目頭にグッとなにかが押し寄せる。
描かれた島を見て「そういう事だったんだ…!」って、普通ならなるんだろうけど(勿論なってはいるんだけど)

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余談…ちょっとだけ感じた気のせいだろうと思うことを。
今回の『変身ウミウシ』…登場人物同士で揉める描写が多かった様な印象を受けた。勿論、過去の作品にもそういったコントは存在するのだけど、全体を通して見ると、なんだかそんな場面がいつもより少しだけ多く感じた。
自分の心持ちなのか、はたまた平井さんの中でなにか思うところあったりしたのかなぁとか考えたり…東京ウミウシを観て、わたしがそんな風に感じてしまっただけなのだろうけど、アーカイブを観返してもその気持ちはあまり拭えないままでいる。
でもやっぱり、これはわたしがクソ真面目に考えすぎているだけなのだろう。

「諍い」だったり「平和」について考えたり、そういうことができるのは、「地球の上に生きているから」であり…だからあの一節を目にして感情が動いたのかなと思ったり。
そこに関して平井さんが何を思っているのかは、いつもの様に全て分からなくて良いし、分からないままで良いと思っている。

昨今、『誰も傷つけない笑い』といったような言葉をよく耳にするけれど、そういうことではなく、落ち込んでいる人や、その場に馴染めない人を独りにする事なく、静かにそっと寄り添ってくれる様な優しさを、わたしは男性ブランコのコントからいつも感じている。優しさだけでなく、時折スパイスの様に毒気を放ってくれる事もある、だから彼等のコントが好きなのだろうと思う。人間讃歌的なものを感じてるのかもしれない…ちょっと大袈裟かもしれないけど。
あと、今回は平井さんが女性役を一度もやっていなかったなと思った。それはそれで久しぶりだったこともあり、なかなかに新鮮な感覚になっていた事にも気付く。

前回のエンディングで話していた、
3/3、平井さんの調子が良かったら、4月もコントライブが開催されるかもしれませんね
というのを忘れる事なく、ちゃんと触れてくれた上で次回告知をして下さる御二方がわたしは好きです笑
という事で、既にキービジュアルも出来上がっているというスピーディーさ。でも考えてみれば次回公演まで一ヶ月無いんだな…そう考えると、ウミウシの準備しながら次回のネタ作りに既に着手していた可能性もゼロじゃないわけだ…もしそうだとしたらやばすぎ。

川名さん曰く、ビジュアルテーマに盛り込んだのは『シティ・ポップ』…哀愁漂う立ち姿と横顔に、洗練された都会の空気感が混ざり合っていて凄く良い。男性ブランコは都会の空気がよく似合う。この時点でビジュアルも出来上がっていて、編集版を後日一週間配信をするという試みが既に決まってるだけで嬉しく、凄い事だなと思う。

次回は楽曲使用の関係で、ライブ配信が無いらしく、落胆の声が画面越しに洩れてくる。そして、これを書いている最中、自身も劇場では観られない事が分かり、【トントン】に登場する青年と同じくらいに、やり場のない哀しみを抱えしょんぼりしていたが、大阪ウミウシを観てそんな気持ちなど吹き飛んでしまった(ほんとだよ)
そのくらい『変身東京ウミウシ』『変身大阪ウミウシ』は筆舌に尽くし難い、最高のコントライブだった。次回への期待値も高まってしまう。

最近、ほとんど劇場に行けておらず、配信もほぼ観れていない状態が続いて、ほんの少しだけ落ち込み気味な日々を過ごしているが、配信ではあるものの、久しぶりに純度の高いコントを立て続けに観て、どれだけメディアの露出が増えようとも、やはりわたしはコントに対して真摯に、そして誠実に向き合っている男性ブランコの事が好きなのだなと改めて思う。
終演後に撮られた、舞台袖の写真を平井さんがInstagramにポストしていた。この先も、こんな風にコントを続けながら、凄く良い年齢の重ね方をしていくのだろうなと思うと、彼等の未来が楽しみで仕方がない。その頃には、苦しい闘いから解放されている事をただただ願う。

そして、こんなに毎月面白いコントを作り続ける平井さんと浦井さんに、改めて尊敬の念を禁じ得ない。この人達のこと、わたしは一生好きだと思う。

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