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産声を上げた新しい形に身を委ね、水面に漂いながら書き連ねた雑感

気付けばTwitterでこう呟いていた。

彼等のコントライブを観てきた中で、初めて行き着いた感覚だった。
今までであれば、劇場やオンラインで公演を観た直後に「これは早く感想を書き出して、前頭葉に篭ったこの熱を放出せねば、ただでさえおかしな頭が益々おかしくなる…!」となるところなのだが、配信が終わり「あぁ面白かった…明日も仕事やし準備せなイカンなぁ」と思いつつ、かれこれ2時間近く座っていた椅子から腰を上げることが出来なかった。
結局、仕事終わりに「配信を観終わってからやろう」と考えていた事は何ひとつやる事なく、全てを翌朝以降に持ち越し、床に就いた。

男性ブランコのオンラインコントライブ『トワイライト水族館』(以下『ライブ』と表記する)をリアルタイムで観終えたわたしは、今まで味わった事の無かった大きな余韻に浸っていた。

これが俗に言う『多幸感』というものなのだろうか。

いつもであれば、なんだか心にそっと寄り添ってくれていたり、優しく背中を押してもらったり、彼等のコントライブを観た後はそんな風に前を向ける事が多いのだが、今回に関しては、何も考えること無く只々「面白かったなぁ」というたったひとつの気持ちが、脳天から爪先まで全身を支配していた。前述した様に翌日の準備もせねばならなかったのだが、とにかく「面白かったなぁ」に包まれたまま日を跨いだ。何もしたくなかった。

そんなわけで少し時間を置き、今こうして感想を書くためにキーボードを叩いている。
これはかなりのスルメ(ライブ)である。一度観ただけでも面白かったのに、何度も観る度に旨味が滲み出てくるライブだ。
そのおかげか通常営業なのか定かではないが(おそらく後者)、直後の感想も読み返してみれば、なんともお粗末なものだ。

ちょっとは彼等のコントや水槽の中で展示されていた生き物達にも触れろ。

…とは言ったものの、終盤のある場面で屋外にあった水槽に照明が照らされ、光り輝く水のゆらめきがとても美しかった事が今でも鮮明に残っていたのは、自分の中で揺らぐことのない事実だった。
今回のライブは、本物のサンシャイン水族館を舞台に、男性ブランコが持つ芝居力の高さやコントで見せるシュールな世界観(彼等のシュールさ加減がすごく好き)、そして映像の美しさが凝縮され堪能できる60分となっていた。「水族館でコントをやりたい」というのは平井さんが今年に入り、コンスタントに口にしていた目標のひとつだった。早くもそれが現実のものとなった。

鮮やかだったり、吸い込まれそうなほどに深かったり、様々な青の下地に個性溢れる海の生き物たちが、展示されているとはいえそこに生きている。
それだけなのに美しく、時に優雅に見えてしまうその光景を観ているだけで、心の充足度合は途轍もなかった。

物語のはじまり。サラリーマンと職員のやりとりを観ながら「ドラマだ…」と思った矢先に唐突の【おさかなNEWS】が始まり「コントだ…」と思ったり。
最後までプロの魚師がどういった仕事なのかが全く入って来なくて『語弊』と『よもばあ』という言葉が残る。アナウンサーが澤田の話を聞く時のなんとも言えない表情と、ラストで原稿に手をやる澤田のテレビ慣れしていない素人のおじさん感が好きだった。
そして、おさかなNEWSの内容自体も気になった。蛸の吸盤…。

わたしの中では既にここまで観た時点で、「これは新しいスタイルのEテレだ…」となっていた(新しいスタイルのEテレとは)、序盤も序盤。

浦井さん演じるサラリーマン、入場券を差し出すその時から、どこか憂いの様なものをずっと帯びていたり、クライマックスでそれが解れた時だったり、海月空感の水槽ギリギリまで顔を近づけクラゲを眺めている時だったり、水槽に映りこんでいる部分を含め表情がすごく好きだった。以前話に聞いた浦井さんの『目盛の細かさ』の一端とはこういう部分なのだろうと、ふと思い出す。
平井さん演じる彼をアテンドする男も、不思議な空気を纏った飄々さと一貫した表情、そして掴みどころのない感じ…そんなキャラクターは今までのコントにも登場していたけれど、また新しい側面を観たような気がしている。

コントもさることながら、ブリッジで差し込まれる映像の数々が今回とても自分のツボを突きまくっていた。『映像コントと生配信コントを織り交ぜながら』というのもどんな感じになるか皆目見当がつかず、当日までとてもワクワクしていた。
一瞬だけ「90年代の月9ドラマでたまに観たことがあった、最終回のラストシーンだけ生放送でやる方式でもやるんかな」と思ったりはしたが、すぐさまそれはおそらく違うだろうという考えに至った。なんせ『織り交ぜながら』だから。


映像を見た印象はTwitterのTLと同様に、自分でも思った程度にそこはかとなくEテレ感が漂い、『デザインあ』や『ピタゴラスイッチ』、『シュガー&シュガー』辺りの空気感が割と好きなので、これは本当に堪らなかった。
地味に【カクレんぼ】が最高すぎたな…なかなか見る事ができないバックヤードでやっていた事も個人的には好きだった。
そして観ながら「あぁここはLiveなんだろうな」と思う部分はありつつ、シームレスに物語が展開されていくのも、とても心地が良かった。
お魚のアテレコで
「あーーーーー、あーーーーーー、あぁもうずーっとしょっぱい」
とウツボが急に言い出した時はツボに入り、声を出して笑ってしまった。


アザラシが流線形を保ちながらスーっと泳ぐ映像から、落とし所が掴めぬまま、曲に合わせ御二方が3分42秒をフルに使い舞う、クラゲのダンスもとても好きだった。エンディングのトークで浦井さんがネタバレしていたので書くが、平井さんがだいぶ自由にやってたので、ここはおそらくLiveだろうなとは観ながら思った。
因みに、この時使われていた『九十九折り』という曲をとても気に入ってしまい、サブスクでインストールし現在エンドレスリピートしながらこれを書いている。なんか、とっても、優雅。

そして、ウツボ三兄弟の光景はSNSでもたまに見かけるなぁと、アドリブとはいえちょっと考えさせられる瞬間もあった。


【ペンギンのうた】も、都会的な建物を背景にまるで飛行しているかの如くスイスイ泳ぐペンギンがとても気持ち良さそうで。それを眺めていたら

あなたたちも/なにかやめて/なにかをはじめたら?
たのしいなにかを/はじめたら?

と、平井さんの頭の中から出ている言葉にもかかわらず、本当にペンギン達にそう言われている様な気がした。


「こんなに楽しいなら、もっと早く来れば良かったです」
「早くもなにも、今来てる。それで良いんじゃないですか?」

初めて水族館の楽しさを知った男にそう告げるアテンドのこの言葉がとても印象的だった。
少し脱線するが、男性ブランコのことを知った時は「もっと早くに…」と、自分も似たような気持ちをほんの少しだが抱いたものだ。だけど、一度知ってしまえば目にする未来の景色は皆同じなのだ。
それと、クライマックスでは『偉大な気付き』について話していた。
大袈裟かも知れないが、どんな物事においても、『気付いて知る』ということが人生の中でかけがえのない財産になっていくのだろうと考えている。
この世界はまだ知らないことが多すぎる。
寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』というタイトルの表面を撫でるわけではないが、スマホばかりに目を向けている様では、『シアワセザカナ』は永遠に見つけられないのかもしれない(何言ってるんですか?)

物語の中に出てきていたこの『シアワセザカナ』というものも、おそらく物理的なものとは限らないだろう。サラリーマンをアテンドしていた彼が言っていた様に「みんなの心の中にいるかもしれない」

今からでも、いくつになっても、ゆっくりと。
これから先、そんな“ザカナ”を探すちいさな冒険の一歩を踏み出してもいいじゃないか。また違う形で、多分わたしは気が付けば彼等に背中を押してもらった気がしている。


男性ブランコは、一見お笑いとは縁が遠そうな分野との親和性が高いコンビだと、ARを用いた『テクノコント』と言われるものを映像化した番組を観た時から思っていた。気が付いたら隣りに居るかと思えば、あっという間にパラサイトされていくかの如く、自然と馴染み、彼等のそういう部分をもっと観たくなってしまう。不思議な空気を持った人達だなと改めて思う。

「(今回は)もうオンラインしかないんで…これがたくさんの方に届けば、結構、割と…広がっていくんじゃないかなと思いますね、今後の活動に対して」
Radiotalk  男性ブランコ『浦井の枕もと』#98より

11月3日付で更新された『浦井の枕もと』の中で、浦井さんがこんな事をチラと話していた。配信を観るまで、わたしはこの言葉がずっと残っていた。
そして観た後に「あぁ、これって言葉にするの難しいけど、そういう意味なのかなぁ」となんとなく勝手に思う。

それとは本当に全く関係のない余談だが、このライブの告知がされたのが10月だった。
実は自分の中で色々と逆算してしまったのだが、今年の彼等にとってとても大事な時期に諸々が重なっていたのではないかと少し考えてしまっていた(ちゃんとこっちの思い違いで、落ち着いた後に準備に入っていたならいいのですが)
サンシャイン水族館をはじめ、様々な方のお力がありこの様な試みをやってみようという運びとなり、実現に至った事に対し、終演後も包み隠す事なく謝意をまっすぐに伝える彼等の事が、人としてとても好きだなと思う。
そんな彼等だからこそ、素敵な人達を引き寄せているのだろうとも思う。

そんな波が、この先も彼等からじわりじわりと拡がって、とんでもなく大きな、やさしさ溢れる輪が出来上がっていくことを、これから先もわたしは願っている。
一週間後の彼等がどうなっているかは勿論まだ分からないけれど、今見据えている目標に向かって一歩ずつ、着実に歩みを進めることが出来ているのであれば、わたしはそれで良い。

そんな時間を、これからもわたしは楽しみたい。


最後にひとつ、ここに認(したた)めさせて頂きたく思います。
書いた本人は我に返り後悔して頭抱えてる未来が容易に見えますが、少し重たいものを此処に投げてしまうこと、ご容赦ください。

今年も一年お疲れ様でした。
劇場に足を運ぶだけの身であり、ただただ公演を観て笑い、楽しんで帰るだけだった自分には、毎月コントライブをやっていたあの半年間がどれだけ怒涛であったかは想像もつきませんし、たとえ想像したところで、それを凌駕するほどのものであろうと考えております。
ですが、ひとつのターニングポイントを迎えた2022年初頭以降の自分にとって心の支えとなっていたのは、平井さん・浦井さんをはじめ御二方をサポートしてきたチーム男性ブランコの皆様が創り上げた、そんな半年間のコントライブという名の作品たちでした。おかげで不安だったり苦しかった日々を乗り越えることができ、2022年最後のオンラインコントライブ『トワイライト水族館』を観ながら、今とても穏やかな気持ちでこうしてキーボードを叩くことができております。

ひとつの公演を作っていく過程で大変な事もあるかと思いますが、男性ブランコのコントライブがどんな拡がり方を見せていくのか、これから先とても楽しみです。
2023年も、更なる御活躍・御健勝の程、お祈りしております。

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