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幸福の景色は空腹を促す

はり-ねずみ【針-鼠】
食虫目ハリネズミ科の穂乳類。
体長20〜30センチ、尾はごく短い。体はずんぐりし、背面に鋭い針状の毛が密生。
雑食性で夜に活動する。ヨーロッパ・アフリカ・アジア大陸に分布。
ヨーロッパなどでは幸福のシンボルとされている。

きいろ【黄色】
色名の一つ。
JISの色彩規格では「あざやかな黄」としている。
幸福の象徴として用いられることもある。

全く関係ないけど、サカナクションの『黄色い車』という曲が好き。

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わたしは早々に、今年の運を全て使い果たしてしまったのではないだろうか

2022年1月19日、仕事帰りの電車内でスマホの画面と向き合いながら、内心そう思っていた。2月7日に行われる、男性ブランコのコントライブ『ヘッジホッグホッジグッへ』の劇場チケットがご用意されていたのだ(こう思った理由は他にもあるのだけど)

ただ、ここまでは今までにもあった様な、なんて事の無い光景である。
とはいえ、「あぁご用意されたんや、良かった…」と(常々ご用意されるとは毛頭思っていないので)、ほっと胸を撫で下ろしはしたが。
ところがその後、Twitterを目にし驚いた。かなり高い倍率の中でチケットをご用意して下さったのだと思った。もしくは幸せ色した黄色のハリネズミが、わたしなんぞの為にしっかりと幸福をキャッチしてくれたのだろう…後者はあまりにメルヘンが過ぎるが、いずれにせよ増してしまう有難み。
そして前述した心の内である。これは前回の『てんどん記』同様、大事に大事に(平井節を用いて語るならば、)しかと眼の玉に焼き付けなければなるまい。

しかしそんな最中、時世的に話題を欠かない件のアレの脅威が押し寄せ、劇場で切磋琢磨し踏ん張ってきた11年がようやく実を結び、仕事も増える中で稽古をやらなければならない状況だったであろう御二方は、自宅療養及び自宅待機を余儀なくされる。復帰したのはライブも間近に迫った3日ほど前のこと。幸い症状も軽いようだったのでひと安心…なによりもそれを乗り越え、無事に開催されることが嬉しかった。見えない強い力を感じる…おかえりなさい、男性ブランコ。
(いうて色んな情報見てると、罹患するとまあまあしんどいと聞きますので、感染対策に重きを置きつつ、これからも気を付けていきたいものですね)

平井さん曰く、今回の『ヘッジホッグホッジグッヘ』は、昨年末に行われた『てんどん記』の様に壮大な感じにはならないとのこと。
あんなとんでもないコント公演を観た後は、その反動なのかおバカなコントを観たくなる。配信されている動画だと…『ロッカー』とか…『工事現場』なんかも捨て難い。
あれくらい意味が分からなかったりアホなのが良いだろう(一応言っておきますがめちゃくちゃ褒め言葉ですし好きなコントです)


…閑話休題。
『ヘッジホッグホッジグッヘ』の話に戻ろう。
まず告知ツイートにて解禁されていたビジュアルがまぁオシャレ…いや、お洒落。

∞ホールで行われるコントライブのビジュアルは、作家さんデザインのとてもキュートなモノが多く、それを目にする楽しみもある。今回は『てんどん記』の流れを感じるなと思っていたら、やはり川名潤さんがデザインされていた模様。モノクロの御二方の横顔、黄色一色で彩られたシャツが眩しい、さながら音楽アーティストのアートワークの様にも見える。そのすぐ下には全身に黄色を纏ったハリネズミ…とってもキュート。

「グッへ」にそこはかとなくドイツの空気を感じていたけど、終演後にTwitterを見たらそう感じていた方はどうやらわたし以外にも居たらしい。Kraftwork風味と聞けば腑に落ちる。


時間を飛ばして当日。
劇場に着きチケットを捥ぎってもらう。振り返るとスタッフさんから手渡されたポストカードサイズにカットされた一枚のフライヤーに思わず心も沸き立つ。

客席に着き、じわりと来る嬉しさからか、手に取りしばらくじっと眺めていた。
フライヤー手渡しされたの、こういう世の中になって初めてかもしれない。


今回、客入れ時のBGMがとても良かった。
以前別のライブでも使われていた気がするけど、スタッフさんのどなたかがMONO NO AWARE好きなのだろうか。

開場中。
撮ってる時気が付かなかったけど、右下にほんのりと居たヘッジホッグ。


『視界がパープル』ぶりに観る満席の∞ホール、会場もホームとあってか『てんどん記』の時とは違い和やかな空気が漂っていた気がする。

暗転。

前述したように、前回あんな深く思考を使う壮大なライブを観てしまったものだから、その反動が来ており、(言葉悪いけど)凄くアホなコントが観たくてしょうがなかったのだけど、程良くアホで、でもどのコントも一度観ただけで親しみがわく。
「何度でも観たい、ショートムービーでも観てみたい」という感覚はやはり変わらない。且つ、「何度でも観たい」という感覚がいつにも増している。とにかくどこを切り取っても笑えてしまう。
ビジュアルにも使われたハリネズミ、黄色というモチーフに象徴されているかの如く、とても幸福な気持ちにさせられるライブだった様にも思う。時世的に気分が暗くなってしまいがちだが、そんな中でも腹から声を出し、心から笑える瞬間がある…そんな幸せを、今これを書きながら噛み締めている。

自宅療養・待機期間中にリモートで台本を読み合わせ、復帰後3日間でここまで仕上げたのかと思うと、相当な集中力を要しそうなものだ。ライブの合間などに詰めたと推測するが、長年それを続けている彼等にとってそれは日常茶飯事なのだろう。SNSを無料で嗜むだけの素人目でしかないが、とんでもないことやってるなと思う。

公演の翌日、∞ホールの公式Twitterにて本ライブのダイジェスト映像が公開された。
そこには各コントのタイトルもしっかりと記されている、それを添えながらコントの感想をいつもの様に書いていこうと思う。すでに長いのに長くなってしまったらごめんなさい(アーカイブ延長ならびに配信チケット2000枚超えもそう遠くないところまで来ているなんて、嬉しいしおめでたい)

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【探偵小鳥遊】
男性ブランコのコントで『探偵』と聞いてまず浮かぶのが、いつの日かどこかで、映像でない形で巡り会ってみたいとこのコントを知った時から思っている『道舟院國兎』(「あなたは心の中にゴリラを飼っている」というフレーズが好きすぎて)…今作の探偵は小鳥遊(たかなし)という女性名探偵、いつか道舟院氏と相見え共同戦線を張り、事件を解決していただきたいものだ(どう考えても名探偵コ○ンに引っ張られすぎている脳内思考)

どうやら彼女は京都は祇園出身のお嬢様らしい。「〜ですわ」のイントネーションが急に変わるという類の変化球を投げられた瞬間、唐突に訪れたその違和感に思わず笑ってしまった。
妻の浮気調査を依頼されるも、ヤブ医者の如く「あぁこれ風邪ですね〜」と言わんばかりにさらっとあしらい、うっすらと彼にモーションをかけ、あっさりと謝礼を頂いていく小鳥遊さん、したたかすぎる…絶対狙ってるやん、依頼人医者やし。
事務所を後にする依頼人に告げた最後の台詞とか、後日談で修羅場になるであろう場面が容易に想像できてしまう(こういう時だけ想像力豊かになるのやめたい)

しかし、小鳥遊さんのお召し物がとても上品で可愛らしい。水浅葱色の様なワンピースと、綺麗な黒髪のロングヘアとの相性が良く、とても似合っていた。平井さんが演じる女性、ゴインゴインに美しくなっていってる。始まって早々、擬音のオンパレードなのも最高。
そして浦井さん演じる依頼人、コントの表現に相応しいのか分からないけど、普通すぎるくらいに普通の一般男性に徹していて、小鳥遊さんの魅力的なキャラクターが映えるようなプレーンな芝居がとても良かった。

【OP・幕間VTR】
∞ホールで観る男性ブランコのコントライブといえば、作家さんのセンスがふんだんに盛り込まれたOPと幕間VTR。今回もめちゃくちゃゆるかわで、ゲーム画面を彷彿とさせる場面もあったりして「この時間をぜひエンジョイしてね」と言われているかのようだ。幕間VTRで流れる音楽もポップでキラキラしていて、踊り出したくなってしまう、この日を楽しみにしていたのはわたし達だけではなかったのだなと、ふと思う。
1本目のコントで心に芽生えたワクワク感に水を注がれ、こちらも芽吹く準備が整う。
数秒だけ出てきた『ミノムシの様に包まれたメガネの人』のアニメーションを見て、思わず「なにあれかわいい」と個人的ツボに入り、待ち受け画面にしたくなるくらい気に入ってしまい、アーカイブで何度か見直した…かわいい。
四肢をプラプラするだけ(背景を見るに駆けている?)のハリネズミもゆるくて好きすぎる。あのロード画面めちゃくちゃ欲しい。omatase!(フォロワーさんがツイートしていた『Undertail』感に共感)
余談だけど、転換時のファンクジャズ風のBGMもワクワクな気持ちに拍車をかけてくれた。

【小うどん】
ごはん屋さんでの店員と客という、よくあるシチュエーション。
あのサイズの小うどんがデフォルトって所がアホすぎて好きだったし、浦井さん演じる店員さんもお店のルールに則って動いているのだが、それもなんかアホで好きだった。このコントの時の浦井さん、アホとすっとぼけが前面に出ててほんと好き。
アレ出されたら、いくら小食な人間でも初見でおかしいって思わない方がアレだと思う…店員さんに「警察を呼びますよ」って言われて秒で「ごめんなさい」する素直なお客さんも好き。平井さん演じるお客さんの口調、なんかかわいい人なんだろうなって感じが出てたな。普段あまりこういうこと言わない人なんだろうけど、我慢できなくて勇気を出して指摘したんだろうなって気がする(想像の域は出ない)
オチのセリフ聞いて思わず「えっ?」ってなったけど。

よくよく考えたらあのうどんのサイズ感、どう見ても試食サイズなのだが、お通しとして見たらちょうど良いのかもしれないけど、やっぱりちゃんとしたサイズでおうどん食べたいよね。エッグコンディション最高な親子丼を想像してたら腹の虫が鳴ってしまった、親子丼食べたい。

【スンドゥブ】
ごはんで何を食べるかを話すふたり。
「君が食べたいものを決めて良い」と言ったにもかかわらず、スンドゥブが食べたいと言う男の主張を、鮭定食が食べたい男が手の平の上で転がし翻弄する様が実に滑稽だ。前半の熱さとは裏腹に、後半はあの独特の調子でじわりじわりと笑いに誘われる。エアスンドゥブでそれを食べたいという欲が満たされるなんて、その幸せ名前をつけるならばなんと呼ぼうか。そして、スンドゥブというワードがこんなにツボにハマって面白くなってしまうとは…エアスンドゥブを味わったあの瞬間に流れるトランペットが効いたBGMは最強すぎる。

個人的にとてもツボにハマったコント。寒いこの時期、このコントを観ればあなたもスンドゥブが食べたくなる…結構なお手前でした。

【ストーリーテラー】
あるストーリーテラーとその友人の話…しっかりとした軸がドンと一本ある様にも感じた凄く良いコント、最高だった。
少し間の空いた刹那にストーリーテラーから放たれる低音の「お義兄ちゃん」を聞く度に声を出して笑ってしまう。ええ声すぎる。しっかり整った身なりの男性から出てくるのが「お義兄さん」でなく、「お義兄ちゃん」なのシンプルにズルい。笑わずにいられるわけがない。

物語の主人公になれない存在なのかもしれない。でも、そんなのどうだって良くないか?誰かが誰かを幸せにするのに、役名なんて必要ないよ

そもそもストーリーっていうのは、誰かが考えた気まぐれの産物にすぎない。だったら我々も気まぐれに生きたら良いんだよ

モモハラがストーリーテラーに対し言ったこのセリフが印象に残っている。
ストーリーは誰かが考えた気まぐれの産物」…最近、気持ちが落ち込む日が続いていたが、なんだかそのセリフを聞いて、自分の心が少し救われた気もする。でも、オチを見ていると元々そういう算段だった様な気もして、モモハラも悪い男だねと少しだけ思いながらも、ストーリーテラーの隣りでチョケる姿に笑ってしまった。

「(浦井さんは)居るだけでフリができている」と言われたことがあるというのを過去にラジオで耳にした事があるが、ストーリーテラーはそれを余すことなく堪能できるキャラクターな気がしている。今年一年を通して、この物語のふたりには何度となく会ってみたいと思っている自分が既に顔を出している。

【つけ麺屋さん】
冒頭の会話を耳にした時、一瞬『てんどん記』のあの兄弟かと思った。
エコ→エゴ→おこの観点で見る兄弟の小競り合い。
ただただ胸倉掴まれては振り払い、紙エプロンという名の胸倉が用意される無限ループ…胸倉を掴む弟を身体全体で振り払い、淡々と兄者の後ろポケットから出てくる紙エプロンという、GIF動画の様な構図が面白すぎる。どんだけ出てくるんだよと、笑いながら思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
色違いのお揃いジャージ着てるなんて絶対仲が良いのが分かるかわいらしい兄弟。兄弟揃ってダブルピースした瞬間、兄者の紙エプロンがハラリと落ちたのがジワジワ来る。
だけど、見えていないところでつけ麺屋の店主は、店前で小競り合いしてる兄弟の様を訝しげに見ていたのかもしれないな…などと、今は意味の分からない想像をしている。

【親子】
パッと見、反抗期の息子と父親。
この年頃で父親に対し、山積みになった死活問題を赤裸々に告白するという真っ直ぐな青さを持ちながら、父を気遣う息子のやさしく繊細な一面を羨ましく思う。
小説のくだりの平井さんが好きすぎた、めちゃくちゃ叩きつけるやん……情緒……(この時、芝居なのかどうなのかは分からないけど浦井さんが半笑いだったのなんか面白かった)

「息子よよく聞け。友達っていうのはな、一生の宝なんや。せやけどな、今の友達が居ない期間も人生の宝なんや(中略)……今の間に、そのひとりの時間を楽しんどけ

このセリフに救われる人は少なからず居るのではないだろうか。男性ブランコのコントは時折、悩みを抱える誰かに対し、静かに、そしてやさしく寄り添ってくれる様な気がする。
やさしく包み込まれたかの様な錯覚に陥った直後に観る、まさかの展開からのオチ、そして徐々暗転によりフェードアウトしていく際のやりとりに爆笑してしまった。
変なところでワード止めないでよお父さん、それはこわいよ笑

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ショートショートな【エピローグ】が終わりエンディングへ…ハリネズミ痛そう。

∞ホールの公式Twitterで「エンディングで大事なお知らせがあります」という旨のツイートがされていた。蓋を開けてみれば、それはなんとも嬉しいお知らせだった。

次回コントライブ、来月開催が決定。
ただし、今回はそれだけではない。

「蓋を開けてみれば『なんだ…』という事もあるかもしれませんが」と御二方は仰っていたが、これが本当に嬉しかった。大阪凱旋(…と言って良いのかな?)、まっこと喜ばしいお知らせ。
今まで東京だけで開催されていたコントライブが昔はホームだった大阪でも生で堪能できるというのがなんとも嬉しい…大袈裟かもしれないし、まだまだ気が早い話なのかもしれないが、この大阪公演が、目下の目標として彼らが掲げている全国ツアー実現への足掛かりとなっていくのならば、これほど嬉しいことはない。
ただ、1ヶ月後…?とはなったけど。平井さんの事だから、しっかりと台本を書き上げるんだろうけど。彼の脳内は一体どうなってるんだろう本当に…もはや一般的に見る美容院に行くペースを優に超えているのだが。
いずれにせよ、『視界がパープル』以上にサイケ味漂うビジュアルとにらめっこしながら、『変身東京《大阪》ウミウシ』の開催を心待ちにしようと思う。

これからも沢山の人が、男性ブランコの存在を見つけ、彼等のコントを生で観て、笑顔溢れる瞬間を共有できる、そんな場所が少しずつ全国に拡がっていく事を祈って。
(Twitterのフォロワーさん、西の方も結構いらっしゃるので、皆様の喜びの声が聞けると良いなと願いながら、この記事を締めたいと思います)

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