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すべてはパラレルワールドの中に

おろ‐ち〔をろ‐〕【大=蛇】
《「ち」は霊威あるものの意》
非常に大きな蛇。うわばみ(一般に大蛇とよばれる大形のヘビの、古くからの俗称)。だいじゃ。

たん-かん【単館】
一つの映画館。特にミニシアターなど、映画配給会社の系列でない映画館の一つ一つ。
コトバンクより

『おろち』で画像検索かけたら、シド・ミードが描いた車じゃないが、そんなクラシックと近未来の融合を感じさせる様なフォルムの車が出てきた(2014年に生産終了しているらしい、見てみたかった)


男性ブランコのコントライブ『ごまたのおろち』…今月、本当に楽しみにしていたライブ。

前回の『トコトコGOGOタツノオトシGO』もそれはそれは素晴らしいライブであった。そして干支にちなんだタイトルのコントライブは今回が最後…にしてあのキービジュアル、単館映画で(あくまで主観)上映されていそうな特撮映画作品を模したビジュアル…擽られないわけがない…フルサイズのポスターが最高に良すぎる件。

思わず故郷・北九州の小倉にある昭和館という老舗ミニシアターや、新宿のミニシアターでとある往年の女優さんが若かりし頃に主役を演じた映画作品を観たことを思い出してしまった。そういう場所に掲示されていそうなポスター、堪らなく最高。

全く関係ないけど、
小倉にある昭和館の電飾看板。風情。

ミニシアター系の映画館から出てる空気感って、なんか良いよねぇ…。

……そんなことを書きたいんじゃあない。
『ごまたのおろち』の感想を書きたいんだ。


ーー正直言って、平井さんのことがいい意味でまた少し怖くなってしまったコントライブだった。
昨年のキングオブコント以降、メディアの露出も増えたなかで、半年の間に毎月6本のコントを書いていた平井さん。いくらそれを生業にしているといえど、それだけの数のコントを書き上げて公演を行うだけでも単純に凄いことだと思うのだが、且つそれが純度の高いコントばかりで。
平井さんも人間なのだから、見せないだけであって当然の如くあるのだろうとは思うのだが、創り手になれば一度は必ず訪れると思われる「産みの苦しみ」というのを、この人は味わうことがないんじゃないかと、思わず勘繰ってしまう(そんな事はないとは思うのだけど)

そして、キービジュアルの物々しさに相反して、転換時のBGMと共に「なんと平和な世界…」と思ってしまうコントばかりだった気もする。

次回ライブ公演の情報を目にし、ひとしきり興奮した後、改めてアーカイブをすぐさま見直した。なんなん次回のスタイリッシュなあの最高キービジュアル……今回も各コントの感想をいつもの様に書いていこうと思う。

こんなヤツの感想でも見たいという酔狂な方はどうぞ。


人間、目的のためなら俊敏に動けるんだなと痛感した。
ライブ配信が始まるまでの間に、定時で仕事を終えて家に帰り、お風呂に入って、晩ごはんを食べ、片付けまでを終えることができるのだから。

そんなわけで、準備万端でライブ配信を起動する。
始まる直前、劇場のザワザワとした空気感がイヤホンから耳に入ってくるあの瞬間が好きだ。
今回は劇場での観劇に関する注意喚起が、映画館のオマージュ的形式で掲示されていた。これも堪らなく良い…おかげ様で彼等の世界観に没入できる準備は万全です。

ごまたのおろちが、いよいよ始まる。


…おや、既視感…そう思った。
いつぞやの“あの親子”…のようだが、今回は装いがちょっと違う。『てんどん記』の【夜ふかし】をリライトしたものか、はたまた彼等のまた別の日のエピソードなのか。
コントのタイトルも同じ【夜ふかし】であるということはそういう事か。陽美お母ちゃん大好きだった身としては、また会えたのが嬉しかった…強い言葉っ。
日本舞踊らしき舞をやっていると知り、陽美お母ちゃんのあの動きにはすごく納得がいく…死にかけのセミという表現、強い言葉はどうやら遺伝の様で。
お父ちゃん、明緒が幼い頃に居なくなってしまったのだろうかとしんみりしてしまうかと思いきや、陽美さんの口から出てくる悪口のオンパレード…BGMのタイミングが秀逸。「『横頬蹴り上げる』は強い言葉やなぁ」…などと思っていたら、自覚あったんだねと思わず笑ってしまう。

普通だったら、陽美のあのセリフで暗転しても良さそうな気もしたけど、それでももう一声欲しいなと思っていたら、そこから親子で舞い始めるのはやはり血筋なのだろう、明緒ならお父ちゃんを超えられそうな気がする。

しかしこの親子、いつもちゃんと眠れているのだろうかと、今回はさすがに少し心配になった。


拍手笑いで沸いた熱を落ち着かせるが如く、心に凪が生まれるようなBGMから始まるOP。妖艶ともまた違う、それでいて美しく…不思議な世界に迷い込んだかの様な感覚を味わう。映像的にはごまたのおろちという存在の如く、今までで一番掴めない世界観で想像がつかない分、この後どんなコント、キャラクター達に会えるだろうと期待値が高まり、これはこれでまた良かった。波間のモノクロ映像、綺麗だったな。
今回のダブルメガネは回転寿司の上に…ふたりの個性がよく出ている。タイトルの前に映し出される蛇が描く、緩やかな曲線の美しさに色気を感じ、一瞬ゾクっとする。

コントに出てきたモチーフと入れ替わりに『幕間』とドンと出るのも思い切りが良くて好き。建物の中をエスカレーターで昇っていくメガネをかけた人物。百貨店などで目線をやるとよく見かける広告の掲示板の様なものが流れてくる。「なんだろな」と思いながらそこを見ていたら、青大将から始まり、ボールパイソン、キングコブラ、最終的にはごまたのおろちに辿り着く。ヒトとの比較もされており、どれだけのスケール感なのかが可視化されている…ごまたのおろちは大体イメージできるけど、キングコブラってそんなデカいの…?
いつになく動きが少なめな幕間VTRではあったが、生息分布や外皮の柄、毒性の有無までがきちんと説明されていたり、階層とコントの本数をリンクさせたりしていて、作りが相変わらず細かくて好きだった。この建物は、蛇のみを取り扱っているのだろうか。


とある居酒屋だろうか。【刺身の盛り合わせ】の説明から始まったかと思いきや、壮大な話に展開していく店長。それが響いているとは思えないくらい豪快に刺身を食べるお客さんの温度差が面白かった…ただでさえ疲れていたのに、話聞いて疲れちゃったのだろうか。店長さんの説明の中ではお皿とテーブルの対比が好き。
稀に店員さんから説明を受けた時に、すぐ離れるのが名残惜しいのか「自分ここまで頑張ってきたんすよ」感を出して話しかけてくるお店の方に遭遇する機会があるのだが、こういう店長さんだったら、なんかちょっとだけだけれど面白そうだなと思う…遭遇したいかどうかは別として。
でも経営が軌道に乗るまでは気苦労が絶えないだろうから、なかなかそういう店長さんにも出会えないだろうなとも思う。
YouTubeで惑星の比較図の様な動画を観てゾクゾクするという感覚をたまに味わってしまう時があるのだが(個人的にはあの系統の動画は感覚的にちょっとした怖さを感じる)、このコントを観ているとそれを思い出す。


先ず言わせて欲しい…最初から最後までずっと好き。
悪魔と思しき二人組、ゲルルとヘッコスの【ヘルクッキング】…これが彼等の日常なのだと思うが、自分の中で一瞬かの有名なホットケーキを生み出した二匹の野ねずみが浮かんだ。
悪魔とはいえ、ゲルルの出立ちと寸胴鍋で作る煮込み料理を組み合わせてしまったら、もう平和な世界になるだろうことが容易に想像できる。ゲルル、悪魔のツノのカチューシャで前髪をつん立てることで、ちょっと悪魔っぽくなってるの面白い。
お久しぶりに見るお手製感溢れる小道具たちの醸し出すフォルムが、彼等の空気感にマッチしていてまた良かった。ゲルルが作っている料理、味見の感想が「おもしろい」らしいので一度味わってみたいとも思うが、毒玉ねぎの毒性は悪魔でさえも気が飛びそうになるらしい…我々人間は手をつけるのは止めておいた方が良さそうだ。そして、出来上がる料理がわたし達の世界でも身近すぎるし、悪魔合体もあるあるならぬ、やるやるなヤツである。
ゲボカスマッシュルームとか絶対に食べたくない…あとこの世界、シンプルにリンゴあるんや。

因みに家で配信を観ていたが、このコントでゲルルが禍々しくなって以降の展開と二人の動きが面白すぎて、笑い声を出すのを我慢していたが耐え切れず爆笑してしまった。抑えていたつもりではあるが、時間も時間だったので近所迷惑になっていなかったかだけが心配である。
最初のコントでもそうだが、「男性ブランコは動きで笑いをとるコンビ」と誰かが言っていたのを思い出し、本当にそうなのかもしれないなと改めて思う。

悪魔という設定の中にも、身近な生活あるあるが入っていてとても好きなコントだった。またこのふたりに何処かで会いたい。

※耳が良くないのか、何度聞き直してもゲルルがゲルグに聞こえてしまっていて、投稿当初はゲルグと記載してましたが、修正しておきました。


物件の【内見】だろうか。不動産の人らしき人物、ちょいちょい言動がおかしいなと思っていたら、なるほどなと…平井さんの体幹が強すぎる(違う、そうじゃないんだけど、実際そう)…じゃなくて、フルカワがすぐに風呂場に向かわなかったのはそういう事。その後のあからさまに驚きを隠せないフルカワのコミカルな動きが面白すぎた。

あの…いつの、どの、キツネですか?

正直に言ってしまうと、はじめはフルカワが言ったこのセリフの意味が分からなかった。どういうことだろうと考えていたら、そんなことあるの?と思ってしまう展開があまりに突飛で、思わず笑ってしまった。
彼は能力者か何かなのだろうか…というところまでは分かりかねるが、多分だけど彼が纏っている温和な優しい空気感が、困ったキツネ達を引き寄せているのかもしれない。そんなことを考えながら物語を見守っていると…これはやられた。
一瞬、呆気に取られてしまったが、何故こんなにもフルカワという男に温和な空気感が出ていたのかという部分にも、合点がいった気がした。

フルカワの芝居、本当に優しそうで穏やかそうな人、という空気感が出てたのが凄かったな。どう言ったらいいか分からないけれど、頭の中でイメージした人物が浦井さんというフォーマットを介して顔を出している…という様な、よく分からない表現でモノを言ってるとは自分でも思うが、なんだか役作り的なそういう部分を垣間見た様にも感じる…それにしても、穏やかな熊だった。
他のキツネと自分の恩返しを比較して一喜一憂したり、契約成立した瞬間に某レゲエグループのタオルよろしく、尻尾ぶん回すキツネかわいい。

落語の演目『たぬき』の風味をほんのりと感じたコントでもあった。このふたりにも、またどこかで会えたら嬉しい。


夜の公園、ベンチに座る青年と年老いた男性。
男性ブランコのコントの登場人物には、たまにこのコントに登場する青年のような難儀なキャラクターが存在する。よく分かっていないけれど、その難儀な性質を持ったキャラクターというマイノリティと、世間一般的なマジョリティを掛け合わせた際の、ちぐはぐな感覚を面白可笑しく描くことによって成立するのが、コントというものなのかもしれないなと、最近はなんとなくだが感じている(頭パッパラパーな上に感覚で物を見ているし、理解しているのもなんとなくな人間なので人としてもうダメです)

誰かの為を思って送られる言葉というのは、とてもやさしくて、とても美しい
自分で発したこの言葉さえ残らないとは。

このコント。
※先に書いておくが、この後に続く感想に関しては、少し失礼な言い方になってしまうかもしれない。あくまでわたし個人の感想だということを踏まえて、そこはご容赦願いたく思う。
とても好きなコントではあったが、初見で思った事を真っ直ぐに書いている。しかし、これは他の方が抱いた感想とは少し違う様な気がしたので、あえて記しておく。

ーー男性ブランコのコントの強みのひとつとも言える、【心に残る言葉】のオンパレードであるはずなのに、その言葉の数々が何ひとつ残らなかった珍しいコントだったなと思った。
ものすごく歪んだ考え方にはなるけれど、名言になりうる言葉の数々が普段と比べて残らなかったと感じたのには、このコントにある種のアンチテーゼ的なものを自分が感じてしまったからなのかもしれないと思った。もしくは、捻くれ者なので、タイトルにドンと据え置きされ、カリギュラ効果的な現象が自分の中で起こり、逆に残らなかった…そのどちらかだと思う。ただ、わたしの中では逆にそれが面白いなと思った。
平井さんはきっと、そんなことまで考えてこのコントを書いているとは思っていないし、思えないし、これはあくまでも自分はそう感じた…というだけの話なので異論は認める。だけど、決して怒らないで欲しい。

心に残る言葉のボーダーラインが分かるのはちょっと嫌だけど、そのおかげで自信が芽生える人も、この年老いた男性の様にこの先も出てくるだろう。
もしかすると、青年は感覚的な人なのかもしれないなとも思う。言葉は残らずとも、心では感じることができている。何も感情のないロボットの様な人間ではない。彼には生きづらい世界かもしれないけれど、それを理解してくれる人は公園で出会った彼のように、全く居ないわけではないと思うから、青年は自分の人生を諦めないで欲しいと思う。
それはさておき、とても純粋なお願いごとをした青年とは対照的に、年老いた男の内にあった欲の塊が露わになった瞬間が好きすぎた。やさしい青年。

また出会えたらいいな、このふたりにも。
今回のコントライブは、自分の中でこう思える作品が一際多かった気がする。


キービジュアルに沿ったコント。
平井さん唐揚げ落とすの上手いなぁ。5秒ルール懐かしい…唐揚げを軸にしたふたりの目線の動きや間が面白かった。
そして、【ごまたのおろち襲来】に、特撮大好き浦井さんがまさかのそういう展開…そこにスッ…と過ぎっていくエヴァ的な匂い。だけど、そこはコント。

頑張れ!頑張れ!頑張れ!」に対する
頑張ってるわーーーーー!!!!」ってなる気持ち、わかる。

それを受けて「よくやってるーーー!!!」って言葉を選んだサラリーマン、唐揚げはドンマイだけど、貴方もよくやってる。

今回のコントライブだけ7本目があった。2022年、干支をモチーフにしたタイトルの新ネタコントライブを締めくくる、最後のコント。真のエピローグとでも書いておこうか。
アルバイトの面接に来た様子のおかしな学生。また蛇が変化でもしたのだろうかと思いきや、「パラレルワールドから来てなーーーい!?!?!?!?
…浦井さんの動きがどんどん大きくなっていく様が面白すぎたな。

このコントで出てきた「パラレルワールド」というワード、今年2月から毎月やってきたコントライブ全てのコントに対する答えでもあったのかなと感じている。
以前、『NETAMI』という番組に御二方が出演されていた際、その中で平井さんが「コントの世界=パラレルワールドと捉えている」と仰っていたことを思い出した。当時その言葉を聞いて、彼等のコントの世界観や、登場するキャラクターの突飛さや難儀ぶりに対し、ものすごく腑に落ちたことを今でも憶えている。
異世界からの交換留学生ということは、この世の何処かに異次元の扉があるのかもしれない。だけど、そんな想像さえも、パラレルワールドの世界での話に対する、わたし自身が抱いたイメージの産物にすぎない。

彼等が纏う物腰が柔らかく温和な雰囲気や、やさしさとは裏腹に、ドライでリアリストな部分も根底に持ち合わせている人達なのかもしれないと、最近なんとなくだけど考えている。
多分、そういう人じゃないとこういうネタは書けない気もする…想像の域を出ることはないけれど。


半年間、毎月開催。
何事も大事なく、コントライブ公演を走り抜けられたこと…ご時世的なこともあり、ただそれに限らず、ひとつの終着地点に辿り着けた事は、改めて本当にすごい事だなと思う。
ひとまずは、お疲れ様でした。

そして冒頭にも書いた次回開催のフェイバリットコントライブのキービジュアルが最高に良すぎて、自分のTwitterのタイムラインは沸きに沸いた(一番沸いていたのはわたし自身かもしれない)

「干支の後半はちゃんと回収する」と、以前から平井さんは公言していた。
それはその通りに、34年という年齢を重ねたふたりのお笑い芸人に内在する色気が放たれたビジュアルの中で、あまりにもスタイリッシュな形で本当に回収されていた。
そして、干支と同時にタイトルのしりとりも最後の平仮名は「ん」、そしてエピローグコントの中で出てきたパラレルワールドの7つ目の干支は『き』

…う〜ん、考えた人天才。

「これはお笑い芸人がやるライブのフライヤーです」と、彼等の存在をまだ知らない見ず知らずの人にこれを見せて、信じてくれる人がどのくらい居るだろうかと思ってしまうほどに、最高にクールで最高に素晴らしい。unpisさんデザインの、シンプルな線で描かれたキメラのイラストもなんだかクセになる。
デザインを担当された川名潤さんのコンセプトイメージはKーPOPだそうで、いつになく男性的な格好良さが前面に出ているなという印象を抱いたことにもなんだか納得がいった。
カメラマンの斉藤葵さんが撮影時、どの様な指示を出して御二方のこの様にスマートかつ妖艶な(特に平井さんの)表情を引き出したのかがとても気になった。

それから、これも以前から公言されていたように、次回公演の配信はないとの事…これに関しては色々なところでずっと仰っていたし、そういう時期なのだから、まぁそれもそうだろうな、とだけ思う。
その大事な時間の中で、彼等の未来に光明が差し、自らの前に聳え立つ壁をぶち破る、そんなひとつの転機となることをわたしは祈っている。

ビジュアルに添えられていた英文の翻訳
海外の方にも、彼等に興味を持ってもらえる日がいつか来るといいな、と勝手に思う。

もうすぐヒリつくほどに熱い、彼等の夏が始まる。
勝負事はどうなるか分からないからこそ面白くはあるけれど、早く解放されて伸びやかな気持ちでコントをずっとやり続けて欲しいという気持ちもある。
毎月コントライブはそこから解放される為に取り組んだ策のひとつだったに過ぎないとしても、ほんと…御二方ともよくやってる。
だけどまだまだ気が抜けない…本番はここからなのだから。

2022年後半の男性ブランコ、これからも変わらず応援しております。
くれぐれもお身体だけは、どうかお気を付けて。

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