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誰かと飲む味噌汁は、空気と心を解す味

三度目の緊急事態宣言が発出された直後の2021年4月26日、男性ブランコのコントライブ「ユニヴァーサル味噌汁」が開催された。

ただし、今回はオンラインによる無観客有料配信…劇場で観られたなら泣いていたかもしれないなぁと思うコントライブだった(めちゃくちゃグッと来るけど我慢しちゃうタイプ)
タイトルにも掲げられた「味噌汁」を軸に繰り広げられる5本のコントは、短編映画を観ているかの様な、そしてギスギスした空気や心を解してくれる様な温かい内容で、前作「栗鼠のセンチメンタル」とはまた違う形で心に残るコントライブになった。2021年に入ってまだ1/3も経っていないのに、心のスクラップブックをバンバン埋めていってくれる様なライブを短いスパンで作っていくこの人たち、恐ろしいなと時々思う。

電子台本も早々に購入したので(表紙のイラストがめちゃくちゃ可愛い)、アーカイブを見つつゴールデンウィークを堪能しようじゃないか。アーカイブというものは本当に便利だ。何時でも、(通信環境が良ければ)何処でも、何度だって視聴することが出来る。そういう意味では素晴らしい進歩だ。

ここからはいつもの様に各コントの感想でも書いていこうかなと思う。
今回もアーカイブが一週間あるので、具体的な内容はガッツリ書かない様にはするつもり(書いてしもてるなら、もうすまんなとしか言えんが)

【5/3付で加筆あり】

『二人のあまのじゃく』
展開も相まって、のり夫から発せられた「嫌いだ」という言葉を聞いて、こんなに息が出来なくなるとは思わなかった。最近、口にする事がなかった分「嫌い」という言葉って、こんなに心に来るしんどい言葉なんだと実感する(アーカイブで観ても息が止まった)
だけど、それが実は本心じゃないと分かると、心は軽くなっていくものだ。
「クレイジーホモサピエンス」と「ぴえん」を掛けたり、「あまのうちじゃくちょう」みたいな言葉あそび、本当に好きだなぁ。ただ、気になることがひとつだけ…ことわざの対義語がなぜそれなのだ…。
今回は今まで見たことの無かったエピローグという流れが出てきて、それがとてもほっとするし構成的にも面白かった。

【馬の耳に念仏】…馬にありがたい念仏を聞かせても無駄である。いくら意見をしても全く効き目のないことのたとえ。馬の耳に風。馬耳東風。

河童の皿 ↔︎ 馬の耳、カルボナーラ ↔︎ 念仏…はぁ?…全く以て謎理論である。
後半の展開を観ると、改めて平井さんはちょっと変な人でもありロマンチストでもあるなぁと思う。

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【映像】
今回もOP・幕間VTRが素敵すぎた。OP映像は今までで一番清らかさを感じた様な気がする。途中、映像の中で流れる英文が気になったので書き出してみたら、味噌汁の起源というか、ルーツの様な内容が書かれている感じだろうかと推測している。以下英文。

Miso soup is made by cooking ingredients 
such asbeancurd and kelp in a broth made 
from dried kelp or dried bonito flakes, 
and then mixing miso into it.
Soup in a Japanese cuisine/meal can be 
generally divided into two types ;
Osuimono and Omisoshiru.
It is said that miso soup appeared 
on the common people’s tables from the 
Muromachi period.

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『雇われスナイパー』
スナイパー・棗の冒頭の芝居が個人的に最高に好きすぎた。なかなかああいう役どころを観る機会が無いから尚更なんだと思う。
俊(俊足の俊?)の変わり者の能力者な佇まいも好み。「撃って」と言われた後にライフルを撃った後の棗の芝居が自然に見えて好きだったなぁ。

「あなたがあたしに、いつだって自由だって言ってくれたように、あなたもいつだって自由なんよ。あなたが望めば、そうなんよ。」っていう俊の言葉がグッと刺さる。

そういえば、エピローグで出てきた味噌汁が入っていた水筒…小学校の頃によく親が運動会に持ってきてたタイプのヤツ…。


冒頭から観てるとそうじゃないってのは分かるんだけど、舞台照明がスコープ越しに見る棗側の視点にも見えて好き。スローモーションの所で、浦井さんのちゃんとスローモーションな芝居も好きなんだけど、ちゃんと後ろに下がりながら弾丸止めようとしてる平井さんの芝居もじわじわ来る。エピローグ前のフェードアウトも好き。
俊が今に至るまでの人生で色々あったと仮定して、その中で棗に出会い、おばああちゃんお手製の味噌汁を飲み交わす関係性を築けた事を考えると、少し切ない部分が見える話に変わってくる気もする。個人的にはショートムービーとしても観たくなったくらい好きなコント。

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『るすでん』
ライブを観て台本を購入し、このコントのタイトルを見て思わずクスッとしたし、納得した。
まりこが抱く思春期特有の複雑な心模様が見えるお芝居、お父さんがさちえさんの背中を撫でるシーンが凄く良かった。最後にやらかしちまう所、ちょっと抜けたお父さん感あって可愛くて好き。
さちえさんの事を「新しいお母さん」ではなく「新しい家族」という、むしろ心が温かくなる言葉で迎え入れようとしたり、エピローグで愛情こもった味噌汁をごくごく飲むまりこちゃんはきっといい子。

ブリッジのイラストで親子が読んでいた本、物語の繋がりを考えると『まりこノート』だったりしてな…とか思わず考えてしまった。味噌汁が美味しかったのか、さちえさんの愛が届いたのか、味噌汁をごくごく飲むまりこの様子を見て安心したようなお父さんの表情も良い。

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『マンネリ友達』
わたしはこういうシチュエーションの会話劇を観るのが大好きだ。空気感だろうか…理由は分からないが、昔からずっと好きなのだ。なのでこのコントは観ながらちょっとワクワクしていた。
田中に対しては「幻聴でも聞こえてるのかな…」と途中まで思ってたけど、会話するって大事だよなと思う。中の人は相手と対峙すると言葉の引き出しから全てポーンと捨てられたが如く言葉が出なくなる人間であり、且つあまり会話という会話をする機会が少ない分、尚更に会話の大事さを最近は痛感している(多分Twitterはその反動と思われる、フォロワーさんいつもすみません)
「日常にユニークは不可欠」…年齢を重ねていくと、そういう場面が減っていく気がする(そうじゃない人も居るとは思うが)、男性ブランコのコントは自分が欠如しているそんな所に気付かせてくれる。
最後にふたりで味噌汁を飲むシーン、意図しているかは分からないけど、段々とカメラが近付いていくのが、ふたりの距離感が解れ近くなっていく感じがしてとても良い。

このコントだけ平井さんのnoteにも書かれていたが、このコントのみエピローグに続くあの味噌汁映像は無く、シームレスにエピローグへと繋がる。Twitterにも書いた勝手な推測だが、家族や血縁関係でないこと(友人関係)とか、場所がファミレス(スナイパーも何処かの屋上ではあるけれど、味噌汁はおばあちゃんのお手製だし)というのも関係しているのだろうか。あと、色違いのお揃いシャツ着てるの田中と佐藤がかわいいのと、“前歯オンリーの人“みたいなワードが出てくる平井さん、ちょっとこわい。

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『引越しの日』
ものすごく好きなコント。
幸司が出てきた時、足元を見て「ん?」と思ったけど、終盤で「そういう事だったか…」と。
「あのさ」以降のやりとりから、エンドロールが流れ、そしてコントが終わる最後までの演出が最高すぎて、エンディングで御二方が話している間もずっと目頭が熱かった。家族を題材にした映像を観ると、やはり自分も家族と重ねてしまう。あれだけ怒られた記憶しか残って無いのに、自分は父親のことが好きやったんやなぁ…とか。気付かぬうちに自分と重ねては目頭が熱くなってしまう。わたしが両親と同じ歳になるのは、まだまだ先の話だが。
エンドロール後の幸司の仕草と、暗転前の明宏の仕草のリンクをアーカイブで見返した時に発見してハッとしたりなんかして、初見では気が付かない所に気が付いたりと、細部まで楽しませてくれてることを再確認できる。まだ気が付いてない所がありそうな気がしている。

「思い出はお風呂みたいなもの」…こちとら追い焚きばかりの人生だぜ。
お父さん想いなダメ男の、ちょっとアホな所とパァァ…っとした笑顔が愛らしい。

エンドロール後、明宏の背後を幸司が光の道を歩いていくけど、あれは天国への階段に続く道だったのかな。通り過ぎたらスッと消えたしな…明宏が生前の自分と同じ歳になるまで成長を見届けるという目的を達成して、安心して任せられるって感じになったんかな。
「お前にバトンを渡したってことやな」ってのは、多分そういうことなんやろな…比喩のバトンでマジで走るような息子やけど、大丈夫か?

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実は、リアルタイムで配信を観ていた時、ジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』を思い出していた。
11本のオムニバスになっている映画作品。その中でコーヒーとタバコが全てのエピソードに出てくる作品。俯瞰で見るコーヒーとタバコが置かれたテーブルに、さまざまな人間模様が見えたりはするが、事件が起きるわけでもなく淡々とした会話劇である。テイストは違うが、コーヒーとタバコ、味噌汁という軸があるという共通点があった故に思い出したのかもしれない。
全く関係無いけどコント台本の表紙イラスト、御二方が味噌汁の中に浸かっている感じが可愛くてすごくツボ。

そういえば配信の前日、味噌汁片手に視聴しようと思い、丁度休みなこともあって当日に作る味噌汁の具材をどうしようか決めかねていた。
結果、「実家でよく食べてた、だご汁食いてぇな」という事で落ち着いた(本記事・サムネ参照)…久々に作ったが、正直作りすぎたので、アーカイブ期間はしばらく味噌汁が食卓に並ぶことになりそうではあるものの、ひと口飲んだ瞬間にほっとしたし、言わずもがなだが美味しかった。味噌は偉大である。

そして次回の単独も決まっているという事で、タイトルも『視界がパープル』と「語感だけで決めた(平井さん談)」というサイケ味漂うタイトルだが、果たしてどんな内容になるのだろうか。

やはり激ヤバ…いや、激バヤな男性ブランコから、わたしはまだしばらく目が離せそうにない。

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