恐竜元年:始まってからの二日間の物語

11:ラプトル

明るい夜だな。
オイラ達の群れは、いつもの狩場とは違う茂みからここに出てみた。
縄張りのギリギリの外、別の奴らとぶつかるかもしれないけれど、来るしかなかった。
だって、今日は絶対に獲物を持って帰ろうって、そう決めていたから。
すると思った通りだ、臭いがする。これは、あのニ本足のものだ。
どうやら美味く無い方のが二匹、走っている。
といってもオイラの速さには全く敵わないものなので問題無い。
リーダーに目配せすると、リーダーも感づいていて、動く尾羽が合図する。
行こう!
行こう!
行こう!
狩りが始まるのだ。
狩りだ。久しぶりの獲物、久しぶりの狩りだ!
手筈をもう一度、繰り返しておこう。失敗しちゃもったいないからな。
オイラが先に出ていつものダンス、リーダーは自分に気を取られた獲物の側面を鍵爪で攻撃する。
リーダーは一番大きいが特に身体が柔らかく速いので、大概は獲物を爪の一撃で倒せるし、場合によってはオイラが噛むこともできる。
大丈夫、きっと大丈夫だ、今日は獲物が手に入る、きっと大丈夫!
最近は獲物が無く、毎日腹ペコだった。
ここの所、本当に獲物がいないのだ。
小さな二本足はそこそこ食えるが、やはり物足りない。
美味しいのと美味しくないのとの差も激しいし。
それに、だいたい、オイラ達にはオイラ達の食い物、獲物というものがあるはずだった、あいつらが来るまでは。
あいつら、小さな二本足はとても硬い巣の中に篭って、その中に獲物を持って行って全部独り占めにしてしまう。
小さいくせに大食らいで何でも食べるから、自分達には何も回ってこない。
自分たちが内臓を食べ、小さいのが皮を食べ、顎の強い物が骨を食べ、残ったものは土が食べる、そんな簡単な理屈さえ判っていない馬鹿なやつら。
だが、こうして巣から出てくる分は大切な獲物、遠慮なく食わせてもらう。
このところ雨が降らず、水場も減っていて、なにより、獲物がいない。
ヤバい。
今年生まれたチビ達は痩せてしまっているし、ずいぶん数が減っている。
卵はいつもの通りなのに、卵から孵らない、仕方ないから食うけど、不味い、本当に不味い。
だったら、他の奴らの卵なら食えるかと思ったら、そいつらも不味くて食えたもんじゃない。酷いよな。
今日の飯は、同じ群れの死んだチビで、腹の足しにもならなかった。骨と皮しかなくって、内臓もカスカスで。
だが、オイラ達は生きている限り、生きていく。
生きていくために、食う。
食うために、狩る。
だから、今、オイラ達は、この匂いの二本足を、あいつらを狩って、食って、生きていく。

二本足がオイラに気づいた。
こっちを見ている。
ひさしぶりの獲物だ、狩りだ、食える、その思いで口の中に唾液が溢れてこぼれ始める。
オイラは身を低くして二本足の前に出た。
大きく身体を揺らし、尻尾を振って脅してみる。足を踏み、精一杯、惹きつける。
でも相手はそんなオイラに驚くでなく、なにかを手に持っていた。
あいつらは手に変な痛いのをもっていて、オイラ達を傷つける事ができる、気をつけなくてはいけない。
よく見ると片方、小さい方は何も持っていない! こいつからだ!
オイラが口をあけ、そいつに牙をむいた瞬間、何かが眩しく動いた。
何なのか、よく判らない、しかし、それを考える前に、腹が、痛い。
あれ?
オイラ、今、地面にいる。
イタイ。
腹が、裂けている。
初めて見たオイラの中身は、色とりどりで柔らかく、大好きな臭い。
その視界の端で、仲間が倒れていくのが、見える。
土に血が、中身が広がっていく、混じっていく。
何、ヤバい、これ、ヤバい。
怖い、痛い、ああ、なのに、良い臭い。
なんて美味そうな臭いなんだろう。
鼻がひくひくする、食べたい。
オイラが食べたい、それ、オイラのだけど、食いたい、食いたい! 
オイラにも食わせろ!
こいつら、オイラ達を食うんだろうか? 食うよな、食うはずだよな。
今までオイラが食べてきたように、こいつらが、仲間が、小さいのが、大きいのが、土がオイラを食う、その時がきっと、来たんだよな、そうだよな。
食われる時が、来たんだよな。
オイラの目の前で、ドゥとリーダーが、倒れた。
え? まだ食うの? オイラ達じゃ足りないの? って、逃げてるやつまで狩るの? 群れ全部食うの? 足りないの? ヤバいよ、それ、ヘンだよ、腹減り過ぎだよ? 食えるだけ狩って食うんだろ? 食わないんなら狩らないだろ? なんだそれ? お前ら、そんなに食うの? 小さいくせにどんだけ食うんだよ! ヤバいよ!

毀れているリーダーの中身、もう死んじゃっててリーダーだったモノだけど、やっぱり大きいなぁ。
美味そうだし、何より綺麗だし……美しい。
綺麗? 美しい? 何? それ?
キレイ、ウツクシイ。これって何? なんか、美味しいもの?
オイラが食っても良いもの? ってか、オイラ、今から食われるんだった、そうだった。
キレイって美味いの?
ウツクシイって食えるの?

あの、蒼い小さな二本足、森にいるデカ角と一緒のアレなら、それを知っているのか、な?

ん?

あれ?

オイラを、食わないの?
何、見てるだけなの?
何、持って行かないの?
食わないの?

あれ?
なんで?
なんで食わないの?

食うんじゃ無いの?
ねえ!、食うよね?

オイラは、食われるために、死ぬん、だよね?
死ぬ、よね?

なら、良いんだよ、そのときが、来た、んだから。

でも、食われないで死ぬのは、違うんじゃね?

ねぇ、答えなよ

応えろよ!


なぜオイラ達はお前に「殺される」んだ?

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