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【トピックスレポート:第15回】サンプリングとテクノロジー

こんにちは!B.O.Mの竹内です。

B.O.M(ボム)は音楽ストリーミングサービスの楽曲URLなどを一つのリンクで管理・分析できるサービスです。

B.O.Mのnoteでは、月に2本程度音楽やマーケティングについてのトピックスを紹介しています。

第15回は「サンプリングとテクノロジー」です。

既存の楽曲の一部を再利用する「サンプリング」という制作手法はレゲエやヒップホップの領域において発展を遂げ、現在ではジャンルや用途に問わず数多くのヒット楽曲でも用いられるものとなっています。

サンプリングを用いた楽曲の例

DTMの普及に伴い、PCやスマートフォン、タブレットなどがあればサンプリングは今や誰しもがカジュアルに実践できるものとなりましたが、他人の既存の楽曲を引用して自身の楽曲に組み込む行為であるため、リリースに関してはいまだに著作権についてのさまざまな問題が発生することも少なくありません

しかし、サンプリングという行為自体、本来テープ録音、ターンテーブル、ミキサー、サンプラー…とその時々の最先端の技術を採用し続けてきたものであり、常に新しく、より良い形へと変革を試みる人々によって発展してきました。
そこで、今回はサンプリングという行為をテクノロジーを用いてよりトラブルの少ない形で、身近に楽しめるものにしようとする試みにフォーカスし、紹介していきます。

2023年現在、そしてこれからの未来においてサンプリングを取り巻く技術はどのようになっているのでしょうか。

サンプリングとは

制作手法として

サンプリングとは楽曲制作におけるテクニック、技法のひとつであり、既存の音源を用いて新たに楽曲を構成していく行為のことを指しています。

音楽におけるサンプリング: sampling)は、過去の曲や音源の一部を流用し、再構築して新たな楽曲を製作する音楽製作法・表現技法のこと。または楽器音や自然の音をサンプラーで録音し、楽曲の中に組み入れることである。

Wikipediaより

音源の一部を抜き出し加工して制作を行うというその手法がゆえ、サンプラーと呼ばれる機材やDTM(デスクトップ・ミュージック)などのテクノロジーの進歩とともに発展してきました。

技術の進歩とサンプリング

Dabryeは2001年に黎明期のDTMソフトウェアを用いてサンプルをエディットすることで、ミニマルでありながらも表情豊かなビートを作り上げました。同時期に活動を始めたPrefuse 73らと共にインストゥルメンタル・ヒップホップにおけるイノベーターの一人にも数えられます。

J DillaはAKAI MPCを用い、リズムを矯正する技術である「クオンタイズ」をあえて用いない「ヨレた」ビートを広め、ヒップホップのみでなく、ジャズ、ソウルシーンのリズムにも多大な影響を与えました。

このように、サンプリングは常に時代ごとに最新のテクノロジーを柔軟に取り入れて進歩・発展を遂げてきました。

起こりうる問題

一方で、サンプリングという行為はそもそも他人の楽曲を自分の作品に引用するという行為である以上さまざまな問題がリリースに際して発生するおそれがあります。
De La Soulのケースから実際に起こった問題を見ていきましょう。

De La Soulのケース
De La Soulによる初期のヒップホップ・クラシックとされる作品群は長い間ファンからストリーミングでの配信を待ち望まれていたにもかかわらず、2023年の春までその解禁を待たなくてはなりませんでした。
なぜなら、原盤権を持っていたレーベルとの交渉の後、彼らが改めて自分たちで配信するためにはイチから権利者にサンプリングの許諾を取り直す必要があったのです。

このことによってストリーミング解禁には長大な時間がかかり、世界的ヒットを記録した『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のエンディングテーマに楽曲が使用されている時にさえもその音源の配信を行うことは叶いませんでした。

現代のサンプリング

上記のような問題はありますが、クリエイターやコレクターの中にはそれでもサンプリングを用いて制作される音楽を愛好する人々が数多く存在しています。そうした人々によって、サンプリングを取り囲む環境は今にも少しずつ変化してきています。さまざまな技術を活用してサンプリングをより身近に、より簡単に実践できるものにしようとする興味深い試みをいくつか見ていきましょう。

Tracklib

YouTubeチャンネル『Tracklib』の、サンプリングソースを特定して再構築していく企画は頻繁にネット上でディグを行なっているリスナーなら一度は目にしたことがあるかもしれません。

しかしTracklibは単なるYouTubeチャンネルではなく、その本体はサンプリングにおける権利問題をこれまでよりもはるかに縮小できる可能性を持ったサービスです。

Tracklibが実現したのは、サンプリングされる側とサンプリングを行う側の間での許諾、クレジット、収入の配分といったやりとりをサイト内で行うことができるという機能です。これまでは事務所、または権利者間のプロフェッショナルなやりとりが必要だったなか、同サービスは比較的小規模なアマチュアミュージシャンでも安心してサンプリングを用いた制作を進めていくことができるようにしました。
サンプリングという行為が極めて身近なものとなった現代のアーティストたちにとって願ってもないサポートを与えてくれる存在であると言えるでしょう。

Splice

多くのプロデューサーやアーティストがサンプリングによる法的な問題の回避を図ってきた中で生まれたものの一つが、サンプリング専用の音源でした。一般的にサンプリングされることが多いような音源を模倣したループなどが収められており、ジャンルや用途ごとに分けて売られています。

しかし、楽曲制作において頻繁にサンプリングを行いたい場合、CDなどで買い切りのサンプリング専用音源を都度入手するのは効率が悪くなってしまうことがありました。そこで現在多くのクリエイターが活用を始めているのが、「Splice Sounds」などに代表されるサブスクリプション型音源販売サービスです。ここではループ音源やMIDIデータなどが楽曲制作のために販売されており、支払いを行って入手した音源は許諾のもとで自由に楽曲内で利用ができるようになっています。

Whosampled

サンプリングを愛好するのはクリエイターのみではありません。リスナーの中にも楽曲のサンプル元や同一のサンプルを用いた楽曲などのディグを楽しむ人々が多数存在しています。そうした彼らにとってなくてはならないプラットフォームとなっているのがWhoSampledです。

https://www.whosampled.com/

WhoSampledは2008年にサービスを開始した、楽曲のサンプル元、またはその曲をサンプリングした曲、カバー、リプレイ(弾き直し)、リミックス、クレジット、制作にまつわるエピソードなどといった情報をユーザー投稿によって収集していくプラットフォームです。

おわりに

今回はサンプリングとテクノロジーの関わりについてのレポートを行いました。
本稿では現代のネット上のサービスに焦点を当てていましたが、サンプリングに用いられるハードウェアや録音技術の進歩もその技法の発展に大きく寄与してきたものであり、省略して語ることはできません。
サンプリングの歴史にはダブ・プレートの流通やMPC-2000の誕生、TR-808との出会いなど、半世紀を超えるとても深い背景が広がっています。本稿を通じてそうした歴史にも少しでも興味を持っていただけましたら幸いです!

今後もB.O.Mのnoteでは、本件のような音楽・マーケティング業界におけるトピックスについての発信を行っていく予定ですので、ぜひフォローしていただけますと幸いです!
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おまけ

サンプリングを用いているおすすめの楽曲(竹内選)

A Tribe Called Quest - Bonita Applebum

Sample Source:
RAMP - Daylight
Rotary Connection - Memory Band
Little Feat - Fool Yourself

Q-Tipによる桁違いのディグ力と「ゴールデンエイジ」を彩った才気あふれるコンポジションを存分に感じられる大名曲です。

The xx - On Hold

Sample Source:
Daryl Hall & John Oates - I Can’t Go for That (No Can Do)

ポスト・ダブステップ、グライム、IDM…。数々のシーンに触れてきたJamie xxの底知れない教養と磨き抜かれたサンプリングセンスが極めて高い純度で現れている一曲です!

Esta. - WhateverUNeed (feat. JBIRD)

Sample Source:
Jodeci - My Heart Belongs to U (Touchdown Working Remix)

サンプル元もループ使いもピッチチェンジの味わいも、Soundcloudと接触し始めた10年代前半の西海岸の煌びやかなビートシーンの感覚が凝縮されています。

KEYAH/BLU - Til bliss

Sample Source:
不明

音質とフレーズの雰囲気からおそらくサンプルは00年代前半のR&Bかと推測されますが詳細は不明。そんなところまで含めて”サンクラ以降”という感じのインディペンデントヒップホップの空気感が存分に感じられます!

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