百句:第六回芝不器男俳句新人賞城戸朱里奨励賞受賞作品

「Prometheus」

火を消して一身体の一世界
眼奥の昏きを隔ち羽音くる
優曇華の忘れを不二の辻に置く
夜藍の大花野より魔女二人
海百合の頸吊の木のえくれえる
唯一のこの青空やKARASHINAや
盲目の馬の進むや大枯野
くちなわの口より双の犬生れる
霞より出でる腕に鹿滅ぶ
神でないものが祈りを聞きにけり
遠雷や時間に棲まる雀蜂
接続に無があれば飛ぶ垂直の鳥
表象の眠りどこまでも象の皮膚
ここに茸あそこに茸のくらい夢
梟の調停ガラスの森を呼ぶ
蜜垂らす蛇を解剖けば割れ鏡
真夜中を透けつつ歩く哲学の鳥
六番の獅子の落下によく光る
移らじは重力にある詩歌の虎
王権をふたなりの鹿走り過ぎ
移気の空木の不死の少女性
有限なれば枯野も炎月二つ
酷暑日の石を葡萄にする造語
造語として織られた襞に住む
冬眠を覚めずidéeの窓を開け
古遊戯や廻る花天のrivière
虎杖は斃れば火星の永遠廻り
破局、その昇りに生まるほととぎす
天上火忌の北天を廻りそむ
天上火忌を滑りだし桃に満ち
天上火忌のみず水を躊躇わす
天上火忌や蜂は飛ぶラテン語へ
天上火忌よ遊泳ようまのやみ
モル状の蝶に天上火忌増えよ
蟲泳ぐ天上火忌を言語とし
一行の痛覚はらい天上火忌
雀蜂忌濡れる真理に毛立つ夢
雀蜂忌その属性に帆を張って
天上も花鳥に捨てよ人語解
風月とならず天上火忌に揺れ
始点にして真円pommeがhommeを曳く
簒奪にして流麗ètoileを並ぶhistoire
赤はグラネロを垂れて牡牛座のAとなり
手淫の上昇を帰して観音は・・・・・・開く!
文語に降り来るものの遊牧とその回転
陵墓の虚空に南中の繭[コクーン]を置こう
青薔薇、盃の閏にさかしまは止まってゐる
森林を老夫におけば半月が遅れ
蜜蜂telepathこおりの星は鎖骨あたり
一角獣の偽史にふたなりを末裔する
比喩の火を踊るくらげが阻んでいよう
風の化石は羊歯を通れば顕生代が透ける
博物は冷酷を成す 白色のガレオン!
膣の楕円に沈めば月桂樹[ローリエ]が勃つ
夜汽車よおまえは眠りから想像まで貝を運ぶ
白樺が象徴のうしろに直線円の感性
女陰の忌erectはelectに満ち干きを牽く
舞台の真円軌道には歪みが答えよう
目玉の忌惑星を閉じその反復の詩
一つ天文接続の毛布に蒸気船くる
黒・・・・・・に火遊びの神は純粋の犬を解く
外在する(遠雷、ヴードゥーの蜂は這い回る<色>)自我
夜汽車やソルボンヌに昇る歌劇のsūtra
芸術論の出来をアウシュヴィッツの林檎が隔つ
沛艾のイコンや閉鎖病棟に蟲の遊泳
光線消失火に向う老犬が非時の躍動へ帰る
天文の森には白狐が非ユークリッドを降ろす
谷間の墜落に添える薔薇décréationは視てゐた
いまわの火に鶴は延びフォーマルハウトを成る
地衣類の鼓動に明ける犬戎の暮れ
赦されざる(氷片にspermaは南中する)赦しを!
ソクラテスのidに一滴の<神>を落とす
宇宙飛行士はタンゴに亜時間を立てる
果実にAliceを追いLilithの天気雨
倒木のergoに降れば昇る伊奘冉
半球体の眠りを脱ぎ言葉の椅子に棲む
仙人掌に扉を吸い啓く千二十四畳
レオナルドの微笑をうつろぶねに流す
天使は斥力を凝視するひたすらのくれなゐ
幾何学の飛行に塔のでんぷん質が飢える
夏痩せて嫌ふべきものなお愛す
「季語ここに眠る(ページは変えないでください)」
おまへのゾンビ信仰を蟹が横切るよ
風鈴を売る風鈴売りを売るおまへかな
落ちる(風鈴の闇に手足や寝るをんな)襤褸
不具に書く自意識に書く星月夜
昇らないその七をどこに隠すのか
嫌ひだおまへが(とにかく)嫌ひだ(眠い)おまへが
数字の服を剥ぎ取れば八つ足の葉
だが会わねばならぬ灰の無き定型
水脈となり我が風月よ英雄よ
気嵐や浮力のままに大白鳥
綴ぢられて白光にまだ重き画家
大河その美の痛覚の距離[ディスタンス]
落陽にただ肉体の沛艾や
連峰を回帰を菫ただ一つ
凍てる風凍てる唐檜に滅びつつ
雄鹿やや動き千歳の森動く
漏沙[すなどけい]未だ凍っていた背後
花鳥書の棲む両岸や炎、我が

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