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4-01「唸れ!ドラゴンブレスショットガン!」


7人の読書好きによる、連想ゲームふう作文企画「杣道(そまみち)」。 週替わりのリレー形式で文章を執筆します。前回は沖田正誤「『作者』を編集する ―J.G.バラードの『自伝三部作』」でした。

【杣道に関して】
https://note.com/somamichi_center/n/nade6c4e8b18e

【前回までの杣道】

3-07「ミナミのマリリン・モンロー」/屋上屋稔
https://note.com/qkomainu/n/n389816f1a666

3-08「『作者』を編集する ―J.G.バラードの『自伝三部作』」/沖田正誤https://note.com/donkeys__ears/n/n8e6df640cd71?magazine_key=me545d5dc684e



「木材で出来た建築や、木、草など、炎が移るようなオブジェクトに撃つと燃やすことができる。木造建築で籠もっている敵などにかなり有効だ!」(ゲーム攻略サイト「Game With」ドラゴンブレスショットガン解説ページより)

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Fortniteというゲームは、2017年から開始したバトロワゲーである。一つの巨大な無人島に100人のプレイヤーたちが放たれて、生き残りをめぐって戦いぬく。ゲームの形式でいえば、TPS(三人称視点のガンゲーム)である。例えば「APEX」や「COD」といったFPS(一人称視点のガンゲーム)とは「視点」の点でゲームプレイに違いがあるが、何よりも他のゲームとの差異を強調しているのは、「建築」と言われる要素である。

以下の二枚は、ゲームの舞台の一つとなる街「ミスティ・メドウズ」を同じ地点から撮ったゲーム内写真であるが、右のゴチャゴチャした様相はまさに、この「建築」というスキルをフルに発揮した後の光景である。

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「建築」の役割は複雑で、最も素朴には敵からの攻撃を防ぐこと、あるいは、敵から身を隠すことというのが挙げられるだろうが、上級者になれば、身を隠しながら移動したり、敵を閉じ込めてしまったり、などの使い方もありうる。こうした要素がゲームプレイ全体の5.6割を占め、作業量や注意する事の多さが、新規参入者がハマりにくい原因ともなっている。建築はこのゲームにとって「薬」でもあり「毒」でもある。

Fortniteを生み出したEPICという会社が先鋭的たる所以は、この素晴らしく複雑なゲームを生み出したこと以上に、ゲーム制作用のプラグイン「Unreal Engine(以下UE)」を開発したことにある。3DCGによるゲーム制作ソフトであり、1998年から2020年までの間にUEによって制作されたゲームは無数にある。最も新しく話題に上がったゲームとしては、FF7のリメイクが挙げられよう。UEが驚くべきなのは、それが無料で、環境さえあれば誰もが使用できる点だ。低予算でゲーム制作が行えるようになったという以上に、ゲーム的な世界象を誰もが生み出せるようになった、という事実がなによりも意味がある(2021年2月から新たに開始するツール「Meta Human Creator」は、デジタル人間の作成がものの数分で行えるという驚異的なものである)。

EPICには明確な思想がある。すなわち「現実のルールを改変すること」、使い古されたSF映画のテーマのように聞こえるが、EpicがAppleに対して行った2020年8月の訴訟やそれをめぐる一連のプロパガンダを思えば納得できるだろう(Apple Storeでアプリを販売する際にかかる3割の手数料を不服とし、訴えをおこした)。専門知識が乏しいので大枠を描くにとどめるが、この反乱の構造は、旧来のプラットフォームと新たなプラットフォームとの対決であるように思われる。現実のモノや出来事の流通に際し、GAFAの提供する旧来のプラットフォームは世界共通のルールであった。このルールに対して、「ゲーム的リアリズム」という新たなルールを上書きし、それによって現実を更新するのが彼らの目的である。はたして、ゲームは現実とどのように関係をもつのか?

トランプ政権を陰で支えた「Q anon」というカルト集団の行動原理は、「代替現実ゲーム ARG」という現実と交差した形式のゲームに由来しているという。政治はこれもまた複雑で歴史的・専門的なルールの集合であると言えるが、トランプ的世界あるいはポスト・トゥルースと呼ばれる現在の状況はどこか、伝統的で旧来の政治思想、すなわち、アテナイに起源があるとされる政治理論を頼って解決できる問題とは別の何かなのではないのかと、考えてしまう。嫌になるまでゲームをプレイして、ネット上に流れている夥しい数のミームを見て孤独に笑顔になり、SNSのトラブルで人間不信になる。こういう感性の持ち主たちをかなり具体的に想像することが、いよいよ政治の問題になっているのではないか。Q anonとトランプ支持者の関係を見ていて、そのように思う。

現実が模倣しやすい「ゲーム的な要素」は、ヴィジュアル・表象的なものよりも「ルール」や「システム」である。ゲームプレイの快楽は、ゲームグラフィックや物語と戯れているその下で、ルールという鎖に繋がれ、たえず一方方向へと誘導されている運動から得られるように思われる。ゲーム的な上部構造と下部構造、決してどちらか一方のみではなく、その相互作用によって、戯れつつ誘導されることによって私たちはゲームに快楽を得ている。現実も(本来はもっと、自由な選択と結果である、と信じつつも)似たような力がはたらいていて、ゲームと親和性があるのではないだろうか。

EPICは現実のルール(法や慣習、人間同士の有意識・無意識の契約)がゲーム的なルールに取って変わられることを見越し、また、そうなる事を人々が欲望していることも理解している。訴訟の勝率が低くとも、人間の欲望のこうしたポテンシャルを高く見積もっていたからこそ、強行したのではなかろうか。

さて、Fortniteは、こうしたEPICの思想を色濃く反映させたゲームであると言える。プレイヤーはこのゲーム世界の本当の目的は知らされず、ひたすら「100人の中から生き残れ」という単純なルールに従って、銃を取り、撃ち合いを演じる。冒頭で紹介したように、「建築」によって舞台となる村や街の姿を壊し、蹂躙しながら戦いに興じる。「建築」はさしずめ、元々のルールを壊し、新しいルールを押し付ける技術、つまり、UEによってEPICが現実に行おうとしている事とあまりにも親和性がある。

2020年12月から始まったシーズン5において(シーズンはだいたい、3ヶ月で変わる)冒頭で紹介した「ドラゴンブレス・ショットガン」なる新武器が導入された。至近距離で放てば一撃で敵を倒せるほどの火力をもつが、リロード(弾丸を込める時間)がかかることから多くのプレイヤーは敬遠しがちである。この武器の最大の魅力は、建築を焼き尽くして一気に破壊することができる性能であり、別の武器との組み合わせ方次第ではとても重要な役割を持つことになる。なによりも愉快なのは、「建築破壊」という性能をEPICがFortniteの世界に落としたことだ。彼らの思想に最も象徴的な「建築」を破壊する武器を、である。ドラゴンブレスショットガンは、ゲームに新たな魅力を与える「薬」であると同時に、彼らの思想を内側から破壊する「毒」でもある、すなわちEPICにとってのφάρμακονなのであるs。


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