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第3回:暑くなればなるほど企業は損をする


暑さ寒さも気候次第

 ここ数年、夏になると猛暑、猛暑と騒いでいるものの、本当に猛暑は昔に比べて増えているのだろうか。今回はこの素朴な疑問への答えを探ることから始めよう。猛暑日とは気象用語の定義で「日中の最高気温が35℃以上の日のこと。1910年~1939年の猛暑日の平均日数は0.8日、1993年~2022年は約2.7日なので約3.5倍だ。この数字だけを見ても、明らかに増えていることが分かる。
 これに加え、各都市で発生するヒートアイランド現象が暑さをパワーアップする。都市部はコンクリートビルだらけで緑がほとんどなく、おまけに企業や家庭、そして膨大な数の自動車や鉄道、地下街を冷やすエアコンからの排熱もあって気温は上昇する一方だ。冷やせば冷やすほど空気が熱くなる。いわば暑さと冷房のいたちごっこの世界なのだ。都会でパワーアップされた熱は、郊外の山に囲まれた街や村などにも押し寄せて二次被害を与えているから困りものだ。
 人体への影響はどうなんだろうか? 総務省消防庁によると2023年7月31日~8月6日までの1週間に熱中症で病院に運ばれた人は全国で1万810人で、去年の同じ時期と比べて約1.38倍とのこと。特に高齢者や子供、体調の弱い人々がリスクにさらされており、重症のケースも増加している。国や自治体では、気温上昇に伴う健康リスクに対処するため、熱中症に関する情報の提供や、適切な水分補給やクーラーの使用を奨励しているのだが、これからさらに暑くなったら、どうなることやら…。

生活・観光・消費にも影響が出ている

 気候変動による猛暑は、さまざまな側面で私たちの生活、観光、レジャー、ショッピング、消費に影響を及ぼしている。例えば生活一般への影響としては、電気代がある。猛暑日が続くと冷房などの冷却設備の使用が増加し、電力需要をひっ迫させる。これは家計や会社の光熱費の負担を増やす。また、猛暑は乾燥化や水不足を引き起こし、農作物にも影響を与える。収穫量が激減すれば、食品価格に上昇圧力がかかることはすでに経験済みであろう。
 「観光やレジャー」への影響はどうだろうか。猛暑の日々は観光業にとっては"もろ刃の剣"と言ってよいものだ。夏季の観光需要が増加する側面がある一方で、高温で屋外アクティビティが制限され、観光名所や野外イベントに影響を及ぼすからだ。海岸では暑さをしのぐために海水浴客が増える反面、あまりの暑さに海水浴客が減少したり、登山やハイキングでは熱ストレスによる救助要請も増えているのが実態だ。
 「ショッピングや消費」への影響では、猛暑の季節には冷たい飲みもの、軽くて涼しい夏服、日傘、冷感グッズなどの需要が増加する。これは小売業者にとってはチャンスとなる。今後はさらに気温が上昇し、涼しい季節よりも暑い季節が増えていく傾向にあるから、エアコンや扇風機などの需要が年々高まり、これらの電化製品市場は好調な時代を維持するだろう。

猛暑による企業への影響は歴然

 世界の異常気象が企業収益に及ぼす影響を調べたロイター企業調査(2023年9月14日付)によると、猛暑の影響は「既に出ている」、「今後、出る」と回答した企業は合わせて6割超に上り、製造現場や営業外回りなどを担う人手の確保や暑さ対策の費用増加などが課題になっているという。
 具体的な影響としては「夏場の外回り営業を嫌う社員の増加」(機械)や「製造(鋳造)現場の環境改善には限界があり、人員採用に苦労」(輸送用機器)などの声があり、人手の確保が難しくなっている様子がうかがえる。暑さ対策費用が増加し、経営の負担になっていること、コスト高の要因になっていることも課題だ。食品を扱う卸売業からは「食品によっては生産量低下や産地変更などの影響が出てくる」との意見も。 
 一方、アメリカの大学その他の研究機関の調査によると、1992年~2013年の期間、気候変動がもたらしたと考えられる熱波で、世界各国は平均16兆ドル(約2277兆円)の損失が発生したと言われている。こうした損失は今後さらに大きくなる可能性があるらしい。また、EU圏の環境機関の発表によると、欧州連合(EU)では1980年から2021年の間の異常気象によって600兆ドル(約8京5484兆円)以上の損失が出ており、その13%は熱波によるものだったと報じている。
 猛暑の影響は、日本、海外を問わず世界中で顕在化しており、必然的に経済的な損失を伴うことが明らかとなっている。今後温暖化がさらに進行するのは目に見えているから、猛暑がさらなるダメージを経済に与えることは必至と考えておかなくてはならない。

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