夜更け

眠れない。 

昼まで寝ていたわけではない。むしろ早く起きた。 
ずっとゴロゴロしていたわけでもない。今日は灼熱の外を歩き回ったし、頭も使った。 
熱中症なのか、具合だって悪くなったのに。 
これっぽっちも眠れない。 

こうなると、もはやいつもどう寝ていたのかわからなくなる。 クーラーの室外機の起動音と、鈴虫の音色。音が大きすぎて部屋の中に忍び込んだのかと疑うくらいだ。 

海外の軍隊や自衛隊ではすぐ眠れるように訓練するらしい。指先に意識を集中させるとかなんとか。 やってみたけれど、指から派生して私の想像はどんどん膨らむ。副交感神経どころか自律神経の主張が激しくなってくる。 

こうなるともう止められない。将来への不安やら眠れないことへの不満やらでイライラしてくる。衝動的に剥がしたくなってくる。具体的には爪とか。 

人生ってなんだ。幸せってなんだ。 そういえば、今日の映画で主人公の古くからの合唱仲間が、 『私、おばあさんだけど、未だに幸せってなんだかわからないの。』 と、言っていた。 

えー、そうなの。歳を重ねてもわからないものなの。とびっくりしてしまった。 だって、世の中の人は、これがいかにも幸せですって顔して生きてるじゃない。 

む、難しすぎやしないか、人生。 

夜食の簡易卵スープを啜り、鈴虫の声に包まれながら、夜はどんどん私を置いて老けていくのであった。

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