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上田で『表現する』ということ

本記事は、おいでよ上田さん主催の企画 「#上田アドベント2020」に12月21日枠として寄稿したものです。

注・本記事は筆者個人の見解です。


私は九州筑後地方で生まれ育ち、現在、長野県上田市で表現をしています。
具体的には、イラストレーター、役者、ポートレートモデル、漫画家、キャラクターのアテンドなどなど。

これらの活動をやっているのには、もちろん私自身がやってみたい、やっていて楽しいと感じるからということのほかにも様々な理由があります。

そのひとつが、『地方で表現することは、その地方の町おこし・地域おこしにつながるかもしれない』と考えているから です。

そう考えている理由を、以下に綴っていきます。


●上田と私をつないでくれたもの

九州で生まれ育った私が長野県上田市の存在を知ったのは、小学生の時でした。

弟が遊んでいた戦国ゲームを一緒にやってみて、一目惚れしたキャラクターが「真田幸村」でした。

ユキムラというのは、もちろん戦国武将・真田幸村の名前ですが、同時に私の家族の名前でもありました。
家族と同じ名前、しかもすごくかっこいい、このキャラクターは一体何者なの?実在の人なの?

私は真田幸村という存在に釘付けになり、たくさんたくさん調べました。
そうして調べていくうちに、真田幸村という戦国武将は長野県で生まれ育った人物らしい、ということを知り、今度は長野県に行って真田幸村のいた場所を見てみたい、という気持ちを抱き、父に頼み込んで念願の初・長野県旅行に連れて行ってもらいました。

初めて足を運んだ上田で、思いっきり真田家の空気を堪能して楽しんだことを覚えています。

その後、大学進学のために九州から上京し、長野県との物理的な距離が近くなったことで、それはもう通いまくりました。

そして大学卒業を機に上田に引っ越し、今でも上田で生活しています。

九州で生まれ育ち、長野県に親戚も友達も知り合いも誰もいない、何の縁もなかった私が上田を知り、上田を好きになり、上田に住むことができたのは、すべて、ゲームのキャラクターである「真田幸村」という一つのきっかけが、私をつないでくれたから始まったことでした。


●上田と創作物

上田には、関連する創作物がたくさんあります。

前項でもあげた『真田幸村(真田家)』。
町中いたるところに真田の家紋・六文銭の旗がひらめいていたり、真田十勇士の像があったりと、上田全体が真田推しの印象を受けます。上田城ではおもてなし武将隊の皆さんのおもてなしとパフォーマンスに、とても楽しませていただいています。

スタジオ地図・細田守監督作品の『サマーウォーズ』。
私が初めて上田に来たときはまだサマーウォーズ公開前だったので、大学生になってから上田に来た時は、サマーウォーズの自動販売機が設置されていたり、グッズがたくさん販売されていて驚いた記憶があります。作中の建物や場所と上田の実際の場所がぴったりで、聖地巡礼もとても楽しいです。

ほかにも、柳町をロケ地とした『犬神家の一族』や大泉洋さん主演の『晴天の霹靂』など、上田にはそこを舞台とする作品や、ロケ地として撮影された作品がたくさんあります。

注目すべき点は、当たり前のことではありますが、これらの作品それぞれにそれぞれのファンがいること、そしてこれらの作品の熱烈なファンが、上田に通いつめたり移住している率が高い(と私は思っている)ことです。
特に大河ドラマ『真田丸』ファンの方々は毎週上田にいるんじゃないかというくらい、いつもTwitterのTLで上田にいる投稿や実際の街中で見かけています。

聖地巡礼と称して作品の舞台やロケ地に行くことはよくあることですが、熱烈なファンが作品の空気を感じるために上田に足を運び、リピーターになり、いつの間にか上田というまちそのものが好きになっていることって、案外多いのではないかと思っています。言うなれば私もその一人です。


●表現するということ

(『てくてく上田』 2020.12.19)

表現するということは、もともとあるものを自らのフィルターを通して翻訳することだと考えています。(*1)

現在、舞台やポートレートモデルのほかに、2020年から新たに上田に関連する創作物として、インターネット上で主に『てくてく上田(連作イラスト作品)』、『ここがわからんばい!信州(漫画)』を制作・連載しています。

これらの表現をするのは、もちろん私自身がやりたい、やっていて楽しいという理由もありますが、ほかにも理由があります。

地方で表現するということは、その地方の町おこし・地域おこしにつながるかもしれないから』です。


上田に移住してしばらくたった時、ぼんやりと考えたことがあります。

『仙台や神戸はそれだけで通じるのに、上田は”上田”だけでは世間に通じない』

この理由もちろん、これらのまちが、観光地としても経済的にもとても大きなまちであるから、というのはわかります。
でも、上田は頭に”長野県”や”信州”をつけないと通じない。それを、上田だけで通じるようにしたい。そう考えました。

さらに上田は、長野県第3の地方都市であるとはいえ、年々人口は減少傾向にあり、現在の人口流出に歯止めがかからない場合、20年後には現在の7割前後になるという試算があります。(*2)
もしかしたら、これが続いていくと将来的に長野県上田市というまちはこの世からなくなってしまうかもしれないのです。

せっかくご縁があって好きになれたまちなのに、行く果てがそんな未来なのは悲しい。
そんな未来を少しでも良い方向に変えることはできないか?上田がもっと良くなるために、何かできないか?

しかし同時に、上田のことを知らない人に、どうやって上田のことを知って、そこに住んでもらうの?仕事なんかで行かない限り、一生足を運ぶ機会はないのでは?という疑問がわき、頭を抱えました。

このまちを知ってほしい。好きになってほしい。移住の選択肢に入れてほしい。でも、ただの一人の市民である私にはそんな力がない。
それでも何か行動を起こさなければならない。

じゃあ上田のためにって具体的に何をするの?
何が達成されたらそれが実現したことになるの?
そもそも私は、本当に上田のために何かできているの?今のままでいていいの?

と、心には『上田のために何かしたい』という気持ちが確実にありながら、その隣には迷いと葛藤もあり、いつの間にか自問自答の無限ループから逃れられなくなっていました。

そんな中、以前舞台を観に来て下さった関東の方が、こんなお手紙を送ってくれました。(※掲載許可取得済み/個人情報保護のため、許可を得たうえで一部改変・抜粋しています)

”高坂さんの出演する舞台を観たくて長野県に来ました。せっかくなので、行き当たりばったりでしたが別所線に乗って別所温泉まで足を伸ばし、とても良い温泉巡りの旅ができました。出不精な私がこうやって遠出するきっかけを作ってくれてありがとうございます。”

私にとって、上田のために何かをするとはいったい何なのか、何を目標・目的として活動を続けるのか、そのために具体的にどんな行動をとるのか…ぼんやりとして掴めないでいた輪郭が、このお手紙のおかげで、はっきりとした形になっていくのを感じることができました。

こうして上田に足を運んでくださった方が一人でもいるのだから、その一人を二人に、二人を三人に、三人をもっともっと、もっといろいろな人に知ってもらえるように続けていこう。
そうしたら、今度はそのまちを好きになってくれて、好きになってくれた人の中から、移り住んでくれる人が出てきてくれるかもしれない。

そのために、もともとある上田の魅力を、表現=自分のフィルターを通して翻訳すればいいのではないかと。
きっと、それまでやってきた舞台の活動も、舞台上で「私」というフィルターを通して、上田の魅力を伝えるほんの小さなひとかけらになってくれていたのだと思います。

私が表現を続ける目的のひとつは、
『まだ上田のことを知らない誰かが、知るきっかけを作りたい』
これを達成したいからです。


●表現の切り口

(『ここがわからんばい!信州』 第1話 2020.11.29)

では、なぜイラスト、漫画、舞台などたくさんのジャンルの違う表現を同時にするのか?と疑問に思われるかもしれません。

私も以前は、どれか一本に絞ってそれだけに打ち込んだほうがいいのではないかと悩んでいました。器用貧乏(器用というよりは、やりたいことが多すぎるがための一点集中不可能状態)であることは昔から自覚しています。

それでもジャンルの違う表現を続けることを決めたのは、表現の切り口によって、見てくれる人が違うからです。

私が舞台に立つとき、観に来てくださるお客様は、私が描くイラストや漫画を絶対好きになってくれるかというと、決してそうとは限らないと思っています。

イラストにはイラストの、漫画には漫画の、舞台には舞台のと、人にはそれぞれ好きになる切り口が違うと考えているからです。

ここが興味深いなあと思うところで、例えば私がイラストや漫画を一切描かず、ただ舞台の活動だけをひたすらに続けても、舞台に全く興味のない人は、絶対に私を通して上田の存在を知ることはないのです。(※何か一本に絞った活動をすることがいけないというわけではありません)

つまり、私はその人にはどんなに頑張っても上田のことを知るきっかけを作ることができません。

でも、もしその人が漫画が好きで、日ごろから漫画を読む習慣があったとしたら…
私が描いた漫画を読んでくれる可能性があります。
読んでくれるということは、上田を知ってくれる可能性も高まります。

『このイラストや漫画の絵柄、私はあまり好きではない』という感想を持たれたとしても、結果的に上田の存在を知ってもらえたら、私には大成功です。上田を知るきっかけを作るという目的は達成されているからです。

漫画やイラスト作品の発表は、一昔前なら出版社に何度も作品を持ち込んで自分を売り込み、やっとのことで新人作家としてデビューし、それからも努力を重ねて連載を勝ち取り、出版する…という、ごく一部の限られた人しかできないことだったかもしれませんが、今はスマートフォンやパソコン1台あれば、いつでもどこでも、誰でも作品を発表できる時代です。これを生かさない手はありませんでした。

いろいろな表現をしていれば、それぞれに違う層の人が見に来てくれます。
イラストにはイラストの、漫画には漫画の、それぞれに見る人が来てくれます。とてもありがたいことです。いつも見てくださる・読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。

上田にゆかりのある名作と私の作品を一緒に語るのはすごくおこがましいことだと自覚していますが、私がいろいろなジャンルの表現を続けることによって、たくさんの入り口のようなものをつくって、それが一人でも上田のことを知る、好きになるきっかけを作れたらいいな。そう思っています。


●上田のたくさんの表現者

今、この長野県上田市には、表現をしているクリエイターさんがたくさんいます。
ライター、モデル、シンガーソングライター、小説家、カメラマン、劇団、ご当地ヒーロー、YouTuber…などなど。ここには語り切れないくらい、たくさんの方がいます。

そんなたくさんのクリエイターさんが感じた上田の魅力を、それぞれクリエイターさんのフィルターを通して表現し、創作物として作り上げ、発表する。その創作物を見た方が、上田のことを知り、興味を持ち、実際に足を運んでみる。
これはとてもすごいことだと思っています。

上田在住である私も、クリエイターさんの作品やステージを見るたびに、上田への懐かしさや愛おしさを思い起こし、ますます上田を好きになっていきます。

私自身も、そんなたくさんの上田の表現者、クリエイターの一人でありたいと願っています。


これらのことが、私が表現を続ける目的のひとつ。
地方で表現することは、その地方の町おこし・地域おこしにつながるかもしれない』と考えている理由です。


私は、上田が好きです。

このまちの景色が、歴史が、人が好きです。

私は、私が好きなこのまちを、まだ知らない誰かにも好きになってもらいたい。


もしかしたら、私の表現を通して上田のことを知ってくれる人は、一人もいないかもしれません。

好きになってくれる人も、移住の選択肢に入れてくれる人も、一生かかっても現れないかもしれません。

それでも、私は上田で表現を続けます。

未来の、たった一人だけであったとしても、好きになってくれるかもしれないあなたに届くように。



≪出典・参考≫

(1)もぎりのやぎちゃん(やぎかなこ)『翻訳する(上田市アンソロを作ってみたいと思った理由)』(https://note.com/g0hvpn/n/n37a72446b325) 2020年12月19日閲覧
(2)日本創生会議『全国市区町村別「20~39歳女性」の将来推計人口』(http://www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03_2_1.pdf)2020年12月18日閲覧


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高坂梓(イラストレーター.漫画家.役者/長野県上田市在住)
Twitter:https://twitter.com/KousakaAzusa
Instagram:https://www.instagram.com/kousakaazusa

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