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しろの種

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スケノアズサが絵を、近藤望未が言葉をお届けするアカウント「しろの種」を、はじめました。 まっしろな紙を前に、ぱっと頭にひらめいたこと。その一つ一つを「種」にして、日常の中で ちょ… もっと読む
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記事一覧

物語からはじまるショートショート 〜第十二回「キッチン」より〜

キッチンに立つのは、数週間ぶりのことだった。 そのせいか、 調理台も流しも妙につるんとと…

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物語からはじまるショートショート〜第十一回『お話をはこんだ馬』より〜

あなたに手紙を書くのは、ずいぶん久しぶりのような気がします。桜も新緑もすぎ、気づけばもう…

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しろの種 こぼれ話④

*ここまでのお話は、以下をご覧ください* 「しろの種 こぼれ話」では、制作に至るまでのエ…

物語からはじまるショートショート〜第十回『マシューのゆめ』〜

ぼくは、正真正銘のひとりぼっちになった。 学校の人たちは、すこしも理解してくれようとしな…

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物語からはじまるショートショート〜第九回『荒野の呼び声』より〜

夜の海って、黒い。 マユミは、目の前に広がる波を見て、率直にそう思った。 海を、それも、夜…

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物語からはじまるショートショート〜第八回 『いつも だれかが…』より〜

暑い暑い夏が、今年もやってきましたね。 久しぶりに長い休みを取れたので、じりじりと照りつ…

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物語からはじまるショートショート〜第七回 『森の絵本』より 後編〜

森はだんだん深まっているはずなのに、山下青年は少しも不安ではなかった。  また、木ばかりの平たい道に出た。風は止んでいたが、さっきより空気が冷たい。彼は少し疲れたので、倒木を見つけて腰かけることにした。  木が高く、葉を繁らせているので、太陽の姿が見えない。間接的な光で、道は見えるけれど青っぽい。ここまで来ると当然、人の気配もなく、気づくとあの声もしなくなっていた。  彼はただ、遠く深く、永遠のように続く森を、じっと見つめた。黒いような、緑のようなぼんやりが、どこまでも

物語からはじまるショートショート 〜第六回『森の絵本』より〜 前編

「森に…」山下老人は、少しかすれた声で語り始めた。 「森に、呼ばれたことがあるんです」 …

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物語からはじまるショートショート 〜第五回「ねぎを刻む」より〜

ざっ…ざっ、ざっ…ざっ……  アパートの廊下を通ると、また、あの音が聞こえてきた。換気扇…

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物語からはじまるショートショート 第四回 『ふくろうくん』より

夕方、急に降り始めた雨は、だんだんと強まっていた。私は、水びたしの町をとぼとぼと歩き、家…

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しろの種 こぼれ話③

*ここまでのお話は、以下をご覧ください* 「しろの種 こぼれ話」では、制作に至るまでのエ…

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物語からはじまるショートショート 〜第三回檸檬より〜

 彼女は八百屋を目にした途端、足がすくんで、うまく息ができなくなった。  軒先にりんごや…

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物語からはじまるショートショート〜第二回『チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏…

そこは、日当たりが良くて、窓の大きな部屋だった。日に日に濃さを増す青空に、綿あめのような…

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物語からはじまるショートショート 〜第一回 『あおのじかん』より〜

近藤望未さんが言葉を紡ぎ、スケノアズサ が挿絵を描いている『しろの種』。 今月から新しいシリーズ『物語からはじまるショートショート』が始まります。 『ダレカさんへ』とはまた違ったテイストです。 近藤望未さんの物語は胸にすーっと入ってきて、なんとも心地よいのです。  彼女がその本を読み終えたのは、夕方五時のことだった。 暖かさと寒さがかわるがわる訪れる、二月の後半。身体が季節に振り回され、気づくと、熱を帯びたまぶた任せに眠っていた。目が覚めてすぐ、なんとなく手に取ったのが、『