個人的な備忘録として、メジャーリーガーが球団と締結する契約の雛型を紹介する。MLBが、選手会との間で締結している基本合意書(2022年から2026年までのもの)の付録として含まれている内容を翻訳にかけただけである。
翻訳はDeepLを利用し、少し加工した程度であるので、訳抜け、誤訳、表記揺れが多いと思われるが、ご了承いただき、正確には原文を当たられたい。
基本合意書では以下のとおり、この雛型を使用しなければならず、球団(クラブ)とプレーヤーとの間で特殊な合意をしても、選手会との契約内容が優先されるとされる。そのため、実務上、多くのプレーヤーは、雛型をそのまま利用し、「特別条項」の箇所に追加合意を加筆するという形で契約を行っていると思われる。
第 3 条 - 統一プレーヤー契約
クラブとプレーヤーの間の統一プレーヤー契約の書式は、付録 A として本合意書に添付されており、参照により本明細書に組み込まれ、本明細書の一部となる。
本契約の期間中、他の形式の統一プレーヤー契約を利用してはならない。個々のプレーヤーといずれかのクラブとの間の契約の条項が本合意書の条項と矛盾する場合、本合意書の条項が適用されるものとする。以下の第 IV 条に定める制限を条件として、本契約のいかなる内容も、本契約の規定と矛盾しない方法で提供される範囲内で、クラブおよびプレーヤーが特別条項を締結する権利を制限するものではない。本契約の終了は、個々のプレーヤーとクラブとの間の契約に基づくクラブまたはプレーヤーの権利および義務を損なったり、制限したり、終了させたりするものではない。
雛型として複数年契約が可能であるが、原則として、プレーシーズンのみの契約、ワイルドカードのみの契約、ワールドシリーズのみの契約といった内容は想定されていないことがわかる。
6条A(1)のメジャー契約における最低支払率は、年ごとに異なるが、例えば2023年の場合、1シーズン当たり720,000米ドルである。
6条A(2)のマイナー契約における最低支払率は、2023年の場合、1シーズン当たり117,400米ドルである。
6条A(3)のメジャー経験のないマイナー契約における最低支払率は、2023年の場合、1シーズンあたり58,800米ドルである。
つまり、ドラフト後のルーキーのマイナー最低年俸は、1ドル140円として、約820万円である。
野球プレーヤーとして信義誠実に業務を遂行すること。
クラブのプロモーションへの参加も義務づけられる。SNSなどで、サイン会や握手会、病院への慰問訪問等のスケジュールを見ることがある。
スポンサー契約には球団の同意を要する。
米国法準拠のため、衡平法の救済に加えて、他の球団でプレーすることの差止請求権が規定されている。行使されたことはあるのだろうか。勝手にスポンサー契約しないといった内容に差止請求権を付した方が利便性が高そうな気がする。
故障していないという表明保証条項である。もっとも。実際に、故障していたことを知っていたという立証を球団側が行うことは困難が伴うと思われる。当然、球団は契約前にメディカルチェックを行っている。
他のクラブのシェアを保有していたりすると、利益相反が生じてしまうためであろう。
メジャーリーグ規則12(b)は、ポストシーズン後、次のシーズンまでの間に、許可なくエキシビジョンゲームに出場することを禁じている。
どこまでのスポーツが「その他人身傷害の重大な危険を伴うスポーツの試合」に該当するのか興味深い。卓球はどうだろうか。なお、メジャーではフットボールと両立した選手(例えばボー・ジャクソン)もいるようである。
メジャーの醍醐味、シーズン中のトレードを可能にする条項である。ノートレード条項を設けても良いことにも言及されている。
トレードされた先のクラブは、プレーヤーのメディカル情報を見ることができる。
トレードにより給与が減額されることはない。
トレードが成立した場合、プレーヤーから譲渡先クラブへの報告義務があるようである。既に譲渡先のクラブは移籍に合意しておりその事実を知っているであろうし、一方で、プレーヤーは試合中にトレード成立を知らされることもあるから、この条項は趣旨がよく分からない。とにかく急いで次のクラブの為に動け!ということなのだろうか。
トレード前後でのクラブの支払の分担が定められている。例えば、トレード成立後に発生したインセンティブは、全て譲渡先が支払う必要がある。
本項は、トレードされた場合の手当を受け取るという条項である。基本契約書7条(E)は、例えばマイナーからメジャークラブに移籍したような場合に、追加ボーナスを貰えることを規定している。移籍先は、一流ホテルへの宿泊や食費を提供することなど、細かく規定されている。基本合意書8条は移動の旅費の提供を定めている。
トレード先に対しても本契約が適用されるという条項である。
解除条件の条項である。プレーヤーからは、支払等がなされなかった場合に催告解除ができる。クラブ側からは、契約違反に加えて、プレイヤーの能力不足(つまり期待された成績を示さないこと)により解除可能とされているが、後述するWaiver手続きを経なければ契約解除ができない。
クラブ側からプレイヤーの解除を申し出る場合、本条のWaiver手続きを経る必要がある。他のクラブに契約の放棄を通知し、他のクラブは契約の譲渡を請求できることとされている。
プレイヤーには、譲渡を拒否して契約を解除する権利が与えられているが、譲渡されれば年俸は保証されるから、譲渡の拒否の可能性は低いと思われる。
規定は後述する。
メジャーリーグ規約等を遵守すること等が規定されている。
基本合意書で、苦情処理手続きが定められている。内容については、機会があれば紹介する。
クラブには、情報の公表権が与えられている。
FA権が行使されない限り、クラブはプレーヤーを保持可能であり、契約条件について合意できない場合、同一条件で1年間契約を更新可能である。
コロナの際には、クラブと選手会との間で試合数に比例した年俸減が合意されているが、本条は運用されたのであろうか。
完全合意条項である。
クラブとプレイヤーとの間で合意した特則を盛り込む部分。
上記の統一契約8条で言及されている規定を以下に紹介する。
規定
プレーシーズンは事務局が決定する。
プレーヤーは、治療を義務づけられ、クラブは、傷害により支払を拒否できない。
ユニフォームとシューズの準備について規定されている。ユニフォームは二着貰えるが、シューズは自前である。
基本合意書に定められた費用手当が(プレーヤーとクラブとの間の債権債務関係として)確認されている。
契約違反の場合に、罰金、出場停止又はその両方を併科できる。
シーズン前のキャンプ参加等についての条項である。
契約6条(d)のトレードの際の譲渡先への報告義務について、通知後72時間以内に報告することが定められている。
エキシビジョンゲームへの参加手続が詳細に定められている。クラブの許可を得なければならないことは勿論、許可を得た場合でも、同一クラブから3名以上を同一チームに所属させることはできず、ワールドシリーズ参加者から3名以上を同じ試合に出さないなどの制限がある。例えばWBCアメリカチームを編成するに当たって、各クラブから3名以内ずつ参加させて編成する必要があり、特定球団に偏ることはできない。
生命保険告知・同意書
クラブは生命保険に契約し、プレーヤー死亡時の負担をリスクヘッジしている。これはそのための同意書である。
保険金額は、年俸に比例して増加するが、3700万ドル以下とされている。
以下は、同意書のフォーマットである。