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喪失感と向き合う、亡くなった母のこと

1月19日、二年半近く癌闘病をしていた母が亡くなった。
亡くなってから3週間が過ぎ、少しずつ思いを文字にしていけるようになってきた。
葬儀が終わって数日は、母について覚えていることはどんな些細なことでも全部書き残したいと思っていた。
亡くなるまでの事、交わした会話、感じたこと、どれも忘れたくなかった。
でも、東京に帰って、少しずつ日常を取り戻していく中で考え方は自然と変化していった。
忘れることは悪いことじゃない。
むしろ悲しみが大きすぎて、あれもこれも全部覚えていたら、この先生きていくのが大変になる。
だから、覚えていること、ふと思い出したこと、心に浮かんだことを書き残していこうと思う。

亡くなったという現実

こんなに涙が出るのかと思うほど、母が亡くなってから数日は泣きっぱなしだった。
母を思い出して泣き、妹たちと話しては泣き、喪主として葬儀でのあいさつを考えながら泣いた。
それでも、母が亡くなったという事実を身近な人に電話で報告したり、葬儀までの数日順番に母に会いに来てくれた方々に話しながら「これが現実なんだ」と思うようになっていった。

母の最期

緩和ケア病棟で最期を迎えたのだが、母の弟に当たる叔父と祖母が病院に会いに行けた。
東京に住んでいる私、神戸に住んでいる次女、名古屋に住んでいる三女が三人そろったその日の夜、母は息を引き取った。
病院から電話があった30分後には、二人の妹たちと母の傍に駆けつけることができた。
去年の秋、使える抗がん剤がもうないと分かったとき、電話で私が
「お母さんの残りの人生、どうやったら幸せにいられるか一緒に考えよう」
と言うと、母は
「私が一番幸せなのは今やわ。あんたら三人とそれぞれのだんなさんたち、四人の孫たち。この家族がいる今が一番幸せやわ」
と言っていた。
亡くなった直後に看護師さんから教えてもらったのだが
「娘さんたちに何か言い残すことはありませんか?」
と聞かれた母は
「ないです!いっぱい話したからもういいです。3人生んでおいてよかったぁ。それぞれに役割があってね、しっかり者もいれば、ムードメーカーもいてね」
と言ったのだとか。
思わず
「私はもっと話したかったな」
とつぶやいた。
でも、母がこんな風に思ってくれていたことは大きな心の支えになっている。
四人の孫たちを本当に大切に思ってくれていた母。
直接お礼を言うことは出来なかったけど、四人の孫たちそれぞれに高校入学までのお祝いがきっちり祝い袋に入って一言メッセージと共に用意されていた。
一番下の孫、三女の子供は3月に二歳になる。
小学校入学用にはちゃんとひらがなで書いてあった。
直接手渡すことは出来ないと分かり、どんな気持ちでこれを準備したのだろう。

「喪失感と向き合う」

亡くなって二週間ほどは、何をしていてももう会えないこと、もう話せないことが常に頭の中にあった。
音楽を聞けば歌の歌詞全てが母のことを歌っているように聞こえ、ご飯を作れば全部母の思い出と重なった。
頭の別の部分で、何をしていても特定の人が離れない感覚をこれまでにも経験したことがあるなと考えていた。
「そうや!失恋や!」
と一人納得していた。
悲しい気持ちを抱えながらも、もう一人の私が冷静に心の動きを捕えようとしていた。
母を失った喪失から立ち直るため、悲しい中でもこの経験を無駄にしたくなかった。
ある程度「別れの準備」が出来ていたこと、闘病や看取りから葬儀にかけて、妹たちと一緒に出来ることは全部やり切ったという気持ちも大きいと思う。
今でもふと「もう会えない、話せない」というのが心に浮かぶことがある。
外を歩いていたり、仕事中だったり、いつその感覚がやってくるかは予測できず、心に浮かぶ日が今も続いている。

支えになった言葉

母の癌が分かった時、夫にこんなことを話した。
夫も7年ほど前に義父を癌のため自宅看取りをしている。
「どれだけやっても、もっとこうしとけばよかったって後悔するんやろな」
と言うと、普段はあまり頭から否定しない夫がこう答えた。
「それは違うよ。最初から後悔すると思って関わるのと、やれることは全部やると決めて関わるのでは、その後の気持ちが全然違う。
60点かもしれんなと思ってるのと、100点目指すのは全然違う」
と言っていた。
夫もこう思って義父の最後を支えたのだろうと思う。
この言葉がずっと私の支えの一つになった。

今は、母が亡くなってから何週間と数えているけど、今秋金曜日で1カ月になる。
そこからは四十九日があり、数える単位も月ごとになっていくのだろうと思う。
さらに年単位へと時間は流れていく。
今の思いだからこそ書けること、数年後になるからこそ書けることはきっとある。
ふと浮かんだとき、これからも母のことを思い出し、書いて、自分を癒していきたい。

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