【南アルプス市ふるさと文化伝承館】テーマ展「身だしなみの民具展」を見に行く
はじめに
南アルプス市ふるさと文化伝承館については、前回、常設展示の内容を紹介しました。今回は、同時に開催していた「身だしなみの民具展」(2024.1.26~4.17)を紹介いたします。
この展示は明治から昭和時代に使われた身だしなみに関する民具を紹介しています。また、展示スペースを共用している常設展示の民俗資料も併せて紹介いたします。(続きましたが、これでひとまず終わりです。)
常設展示(考古関係、水との闘い)の模様はこちらをご覧ください。
身だしなみの民具展
テーマ展は、常設展示の一画にて年に数回入れ替えて行う展示です。
テーマ展「身だしなみの民具展」(2024.1.26~4.17)では、明治から昭和にかけての人々が身だしなみ、特に女性が使ってきた髪や衣服に関する民具を紹介しています。こちらは令和5年度の後半(第2回)の展示ということになります。
展示の一画にはポスターとともに市民から寄せられた古写真が並んでいます。写真が貴重な時代は、何かの機会にしっかり身だしなみを整えて撮影していたことでしょう。
髪に関わる民具
まず、こちらの展示ケースは女性の髪(日本髪)に関するものです。
赤い敷き物の上に柄のついたおおきな鏡があります。「柄鏡」です。こうした柄のついた鏡は古くは室町時代に出現したといいます。
「柄鏡」の隣の黒い敷き物にあるのは髪結って整えるための道具です。
「鬢櫛」は、日本髪を結ったり髪をすいたりするのに使われる先の長い櫛で、材料はツゲがよく使われました。
「手柄」は、鬢に巻き付けて飾る布です。
「根掛け」は、明治時代に流行した鬢の根本につけて飾るものといいます。
後方にある箱のようなものは、「化粧油小売用函」で「かをりよき、千代花香油」と書いてあります。昭和初期のもので南アルプス市内の商店に置かれていたものといいます。
古くは鬢付け油といった女性用ヘアオイルを量り売りしていた当時のもので、隣には容器と漏斗、柄杓などもあります。
婚礼に関する民具
続いて、婚礼に関するものがあります。
こちらは、大正時代の婚礼衣装です。目を引く見事な「打掛け」は田方と呼ばれた東南湖地区の有泉家で使用されたものといいます。蓬莱山にさまざまな吉祥模様が刺繍されてます。
足元には花嫁の履いた「重ね草履」といって三枚重ねの草履があります。
こちらの写真は展示室内にあった昭和時代の花嫁の写真です。
続いて、「花嫁の簪」と「角隠し」です。
簪は昭和時代のもので、江戸時代のべっ甲の簪を当時出回っていたセルロイドの素材で再現しているといいます。
また、花嫁衣裳といえば「角隠し」です。角隠しは花嫁の髪に巻く白い帯状布で、後ろで2本のピン「おとめもんはり」で留めています。附属の箸は「おほうしばし」といって形を整えるために使用するといいます。
こちらのケースには挙式で使う盃などです。
中央の「雄蝶・雌蝶」は盃を交わすときに使う飾りのついた銚子です。
「重ね盃」は三々九度に使うは漆塗りの三組の盃です。これに「雄蝶・雌蝶」にて酒を注ぎ盃を交わします。
「筥迫」は着物の胸元に入れるポーチです。鏡、白粉、紅、懐紙などを入れます。
常設展示の行灯の隣に「鏡台」があります。「鏡台」も嫁入り道具のひとつで身だしなみの民具でした。
「柄鏡」や「簪」など奥のケースも日本髪に使用した物を展示しています。
「笄」は髪をもとめて留めるための道具で、頭がかゆいときに掻いたりもしました。次第に装飾に用途に変わっていったといいます。
また、赤い生地に載ったものはべっ甲で出来た笄で虫食い跡があります。べっ甲にも衣服のように虫食いがおきるのだといいます。
「挿櫛」は髷の元に指す櫛で、髪留めや飾りに用います。べっ甲の他に、螺鈿、蒔絵など施した漆塗りなど装飾的な要素の大きいものです。
「簪」です。髷の形を髪型を保持するともに、髪飾りに用います。デザインも多種多様で流行もあったといいます。
服飾
「手回しミシン」と「手作りワンピース」があります。昭和40年代くらいまでは子供服やワンピースなどはスタイルブックを見て型紙から起こしてミシンで自作する主婦が多かったといいます。
壁側には着物を展示しています。下に写真が添えられていて市民からの提供と分かります。
子どもがお参りなどに来た着物です。「背守り」の糸がついているものがあるといいます。背守りとは子どもの着物の背に沿って縫い目を入れる魔除けの風習です。
少し面白いのは、「かいまき布団」といって着物のようですが中に綿を入れた寝具です(下記画像左下)。掛け布団として使用します。東北など寒い地方にて使用され袖を通して寝たともいいます。山梨でもかつてはよく使われていました。
常設の民俗資料
テーマ展示と一緒になってしまっていますが、常設の民俗資料の展示です。
こちらの棚には、達磨、とっくり、行灯、黒電話、まくら、アイロン、あんかなど特にまとまったテーマで置いてあるようには思えませんが、日常のわりと生活水準のよい家庭あったもののようです。こちらにある民具類も市民からの提供ではないでしょうか。
箱に納めた皿などは、結婚式や葬式など自宅に人を呼ぶことに備えてのものだと思います。
台の上にはすり潰す道具が置いてあります。石臼のほか、台所にあるすり鉢、漢方薬などをすり潰す「薬研」もあります。薬研は唐辛子の調合のほか、火薬の作成などにも使用されたといいます。
隣には、家庭で麺を打つための、めん棒、面切り包丁などです。出来上がった麺の見本は白く幅があるので、「ほうとう」でしょうか。
別の棚には食事や台所に関する道具になります。釜、御櫃、オーブン、鉄瓶などがあります。
隣には、かまど、火吹き棒、飯櫃があります。ちょっと後ろの日本人形がこわいです。
隣には氷を入れて使用する冷蔵庫と、その上には食事棚式の蝿帳があります。蝿帳は、ハエなど虫がつかないように後から食べる人の食事を入れておくものです。
土間で食事の支度をする女性の写真とともに割烹着もありました。
ほかにも洗濯板と桶など、生活の道具がありましたが、撮影を失念しました。
おわりに
テーマ展と常設の民俗資料の紹介でした。
「身だしなみの民具」といいながら、婚礼やワンピースなどハレの日に関する内容が印象的な展示でした。もう少し日常的な身だしなみに焦点をあててほしかったと感じました。それでもこうした、テーマ展を通年継続して作っていることは伝承館として機能していると思います。無料で公開しているのもありがたいです。縄文が充実していますが、ほかの展示からも発見がある資料館です。