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【笛吹川石和鵜飼】現存唯一の徒歩鵜(2023.7.29)

はじめに

 山梨の夏の風物詩のひとつに笛吹川の鵜飼うかいがあります。この鵜飼は、笛吹川石和鵜飼(2023.7.20~8.17)として期間中の週4日、20時から地元の笛吹川石和鵜飼保存会により実演が行われます。
 また、この鵜飼は全国唯一となった徒歩鵜かちうという鵜匠が舟に依らず川へ直接入る特徴のある鵜飼です。


徒歩鵜

 鵜飼と言えば長良川の鵜飼が有名ですが、現在全国では12カ所で鵜飼が行われているそうです。
 笛吹川の鵜飼は、鵜匠が川を歩いて鵜を操る徒歩鵜かちうと呼ばれる漁法です。徒歩鵜が残るのは笛吹川の鵜飼だけです。
 笛吹川の鵜飼も、一度途絶えていましたが1976年(昭和51年)から漁業協同組合の協力により復活され現在まで続いています。平成の合併により笛吹市が発足したのを機に2005年(平成17年)から笛吹川石和鵜飼保存会が結成され現在は保存会による実演が行われています。

鵜飼と花火大会の観光チラシ

鵜飼伝承

 鵜飼が行われる笛吹川の会場から徒歩数分のところにその名も鵜飼山遠妙寺という日蓮宗の寺があります。笛吹川の鵜飼は平安時代から続く800有余年の歴史があり、この寺に鵜飼の伝承があります。謡曲「鵜飼」にたいへんよく似た伝承です。

鵜飼山遠妙寺 出典 : 山梨の歴史を旅するサイト

 その内容は、源平合戦に負けた大納言平時忠たいらのときただは平家が壇ノ浦に滅びた後、石和へ逃れ来て住み着き「鵜飼」 を生業としていました。しかし、殺生禁止の触れに反することとなり、簀巻きにされ川に流され処刑されました。その後、殺された時忠の亡霊が出るようになり人々を悩ませていました。亡霊の噂を弟子より聞きつけた日蓮は法華経の経文の文字69,690余を一字ずつ小石に書き笛吹川に沈めたところ時忠の亡霊は出なくったといいます。

 鵜飼山遠妙寺はその時忠を供養した塚が淵源だといいます。遠妙寺は江戸初期に山号を「鵜飼山」に改めていたと考えられるそうで、平時忠が石和に落ち延びたとか、日蓮が石和に来たとか荒唐無稽な伝承ではありますが、そうした伝承があることも地域で鵜飼が親しまれていたからでしょう。
 史料による記録としては、江戸幕府の甲府勤番士・野田市左衛門成方のだいちざえもんしげかたが30年近く甲斐国で見聞したことを書き残した『裏見寒話』に記録があります。江戸時代の甲斐では、笛吹川のほか荒川、釜無川で鵜飼が行われていたと記録があります。

昼の笛吹川

 会場は笛吹市役所本館前の笛吹川です。駐車場は市役所の駐車場が利用できます。石和の温泉街は少し離れたところにあります。
 会場周辺の様子を当日の昼撮影してきました。炎天下のため道路を走行する車のほかに人は誰もいません。猛暑の甲府盆地では昼の無理な外出は危険です。

駐車場として利用できる笛吹市役所本館
堤防が階段状になっています

 笛吹川の流れがきれいです。県下有数の花火大会のひとつ石和の花火大会もこの場所で行われます。感染症対策により2年間中止のあと昨年からは日数を分散して混雑緩和により行っています。

見える橋はその名も鵜飼橋

鵜飼

 定刻である20時の15分前に到着しました。駐車場も余裕があり、鵜匠が川を歩く範囲には提灯で灯りがついていますので、着席位置は分かりやすいです。
 意外に見物客は少ないと思っていると20時になるとどこからともなくあっという間に階段状の堤防が埋め尽くされます。近くの石和温泉郷の宿泊客がやってくるのです。徒歩あるいはホテルから送迎で来るのでしょうか。

到着時はまだちらほら
かがり火で雰囲気を盛り上げます

鵜匠のいでたち

 徒歩鵜では鵜匠が直接川に入り鵜を操ります。そのため鵜匠は「腰蓑」を付けていますが、徒歩鵜では歩きやすいようほかの地域の鵜飼に比べると丈が短くなっています。また鵜匠はウエットスーツを着込んでいますが、50分間を川に入るの結構な重労働だといいます。

公衆トイレの壁に解説パネル

 鵜匠のいでたちですが、頭には「風折烏帽子かざおれえぼし」という頭巾をかぶり、かがり火の火の粉から髪を守ります。風に吹かれて折れているように見えることからその名があります。
 「漁服」は木綿製で夏場のため単衣ひとえになっています。
漁服の上から「胸あて」をしますが、たいまつの火の粉や松脂から守る働きがあります。
 保存会の全員が社会人であり、それぞれ仕事をもっていることから、 鵜飼実演に全員が参加することが出来ないのが現実のようです。

徒歩鵜が始まった

 筆者は川面に近いところに陣取りました。20時定刻になると鵜匠4人が順番に川に入ります。
 鵜匠の隣にはたいまつ持ちが付きます。たいまつ持ちは地元笛吹高校の生徒たちです。この中から将来の鵜飼保存会のメンバーとしてつなげていくことが期待されています。
 1人目鵜匠とたいまつ持ち、2人目の鵜匠が川に入りました。2人目の鵜匠にはたいまつ持ちはいません。何かの事情でしょうか。

1人目と2人目の鵜匠が歩いてくる

 その後3人目、4人目と鵜匠が入ります。それぞれ隣にたいまつ持ちがいます。

4組の鵜匠たち

 川の離れたところにカメラマンが入っています。広報用撮影でしょうか。

1人目の鵜匠が保存会の会長
2組目の鵜匠は女性

 上流に向かい鵜をあやつりながら少しずつ進みます。鵜は川の中をすいすいと泳ぎますが紐の長さいっぱいになると引き戻されてしまいます。

ピントが合ってませんが水中を泳ぐ鵜

 獲物を捕まえたると客席から拍手がわきます。吐き出させた鮎には鵜のクチバシで傷つけた跡があるそうです。

鵜から吐き出させています

 鵜は茨城県日立市のウミウだそうです。全国どの鵜飼でも現在は茨城県日立市の鵜を使用しているそうです。

3人目の鵜匠も獲物をとらえました
4人目の鵜匠が通過していきます

 川に入り歩いて上がるまでおよそ20分でした。50分間の実演時間のため1度目が終わると陸に上がり、戻り2度目に入りますが、場内アナウンスにより上がってきた鵜匠にインタビューがあったり、実際に鵜と捕獲した鮎をアナウンス席の近くで見ることができます。捕獲した鮎は漁が目的ではないので、このあと鵜に食べさせてあげるそうです。
 鵜ですが、1回目と2回目で交代させます。鵜飼は、鵜にとっても大変な重労働だからです。

鵜匠体験

 笛吹川の鵜飼いでは、全国でも珍しい鵜匠体験ができます。毎回2名の方が保存会の鵜匠について鵜匠体験をします。この日は都内のご夫婦が体験参加されているとアナウンスされていました。
 つまり4組の鵜匠の後ろにもうひと組の鵜匠たちがいてそれが鵜飼体験のグループです。

アドバイスする鵜匠さんと紐を操るご主人

石和温泉鵜飼花火

 鵜飼は20時50分までで終わります。そのあと10分間は川の中州から花火が打ち上げられます。
 毎年石和温泉花火大会が8月下旬にあります、そちらは県内有数の花火大会のひとつでした。ただし感染症対策として2年間は中止となり、昨年、本年と混雑緩和のため数日に分けた分散開催となっています。

打ち上げ場所が近く意外と迫力
鵜飼と花火で夏の風情が楽しめます
クライマックスは連発

おわりに

 笛吹川石和鵜飼は週4日開催され、時間に来れば気軽に観覧できる鵜飼です。鵜匠との距離も近く鵜の様子もよく分かります。
 猛暑の甲府盆地も夜になり川の近くでは涼しい風が吹きます。花火も見られて夕涼みには最適です。

ひとこと

 noteを始めて1年が過ぎました。このnote記事が99回目となります。100回目となる次回はどこを紹介するか思案中・・・。あまり特別なことは考えずこ素敵な場所を紹介したいと考えています。


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