現実と仮想を越境し、小説を書く —— 小説家 VTuber は新たな時代の物語の織り手となるか

この記事は、株式会社ワクワーク「第二期アニメライター育成講座」http://wakuwork.net/info/1224/ の課題として執筆されたものです。
講座でのフィードバック等を受けて改稿した記事が、新たに公開される可能性があります​。

フィクションの存在でありながら、動画の視聴者と交流し、現実と地続きの存在であると感じさせる VTuber (バーチャル Youtuber)。では、「2次元」と「3次元」のあわいに居る VTuber が、更なるフィクションを生み出したとき、その物語はいったいどの次元にあるものなのだろうか?

『くちぶえカルテット』(実業之日本社文庫)で2020年10月に小説家デビューを果たした小説家VTuber「モノカキ・アエル」を先頭に[1]、VTuber たちが小説家として活動する動きが生まれている。以前から文筆業を行ってきたVTuber「届木ウカ」は、同年12月発売『SFマガジン』(早川書房)の「百合特集2021」において、『貴女が私を人間にしてくれた』で小説家デビューを果たした[2]。

本記事では、『グッバイ現実世界〈リアルワールド〉 ハッキングから始まる異世界改変』(HJ文庫)で2021年7月に小説家デビューを果たしたVTuber「電波ちゃん∞」に注目したい[3]。同作はVTuber としての経験を盛り込んだと思われる描写が随所に見られるVR ファンタジー小説。「世界を構成するプログラミング言語を解き明かすことで、より強力な魔法(世界改変)が使えるようになる」という設定そのものの魅力もさることながら、「どこかで聞いたような」用語が取り入れられているため、VTuber に詳しかったりプログラミングを囓っていたりする人ならニヤリとできるだろう。「バーチャル」の観点から、LGBTQに関するものなど社会的な課題にも切り込んでおり、VTuber である筆者ならではの「バーチャルと現実」へのアプローチに興味を惹かれる作品だ。

さらに特筆すべきは、本作に関する打ち合わせやキャラクターデザイン作業などの過程をYouTube チャンネル「電波チャンネル」で配信していることだ。どんな検討を経て作品が作り上げられたかなど、ライトノベル作家を志す人にとっては興味深い内容だろう。「モノカキ・アエル」も「アエルちゃんねる」で打ち合わせを動画として公開しており、小説家 VTuber だからこその魅力的なコンテンツ作りと言えそうだ。

さて、仮想のキャラクターを「小説家」とし、彼/彼女が手掛けた作品を実際に出版する、という取り組み。筆者が想起するのは、2014年に株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンがライトノベル分野への参入と合わせて発表した、「NOVELiDOL(ノベライドル)」だ。「アイドルで、小説家」というキャラクターの「ふみのん」こと「文野はじめ」が作品を執筆し、実際に書店で書籍を発売するという試みで、「架空のキャラクターがまるで実在する人間のように、SNSを通じたファンとの交流やプロモーションを行い、店舗の店内放送や等身大の立ちパネルなどの展開をする」としていた[4]。現在は残念ながら同社内の公式ページは閉鎖されてしまっているようだが、小説やシナリオの投稿サイト「ノベラボ」で彼女の姿を見ることができる。

仮想の存在として生み出され、技術によって現実とフィクションを越境する VTuber たち。動画などを通して現実と繋がってきた彼ら・彼女らが、今度は小説を執筆することで更なるフィクションへと世界を広げている。チャットノベルなどの登場で「小説」のかたちが広がりつつあるいま、VTuber による小説は、もしかすると「VTuber ノベル」とでも呼ぶべき、新たなムーブメントになるかもしれない。


(参考文献)
ウェブサイトはいずれも2021年7月8日に閲覧。

[1] 「史上初!バーチャルYoutuber「モノカキ・アエル」が商業文芸にて小説家デビュー!」, PR TIMES, 2020年10月1日,
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000066682.html

[2] 「『SFマガジン』2年ぶり百合特集 VTuber届木ウカが小説家デビュー」, Yugaming, KAI—YOU, 2020年12月14日, https://kai-you.net/article/79081

[3] Vtuber「電波ちゃん∞」Twitterアカウント, 2021年6月15日,
https://twitter.com/denpachannel/status/1404742780354588672?s=20

[4] 「ライトノベル業界初、キャラクターが“執筆活動”する新レーベル創刊」, ORICON NEWS, 2014年12月20日,
https://www.oricon.co.jp/news/2046242/full/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?