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【‘‘Circulation’’】


Ⅰ.投影/『グレート・サークル』

作品と書き手の存在が、ふと重なる時がある。
マギー・シプステッドが記した『グレート・サークル』という物語にはそのような性格があると感じられました。
グレート・サークルというワードに注目すると、その大円には二人の女性の姿、人生というものが照らし出されると考えられます。
物語の軸となる女性パイロットのマリアン・グレイヴスと若手女優のハドリー・バクスターの存在。
様々な角度から、視点を変えて語られる物語には彼女たちの生きた証の教示であると感じられるし、作者のマギー・シプステッドは、それを意図した目的を持って描いていることが窺えます。
キーワードとなる、航空日誌、円やスケールは『グレート・サークル』を描く上で必要不可欠な要素があるもので、物語の平行線の続く先にはアイデンティティ、恋愛観、心理描写などが絡められており、重層的な構成として成り立つ、巧みな物語だと考えさせられるものがありました。
価値観や時代を越えたその先の現代へと辿り着くまで、私たち読者は、彼女たちの人生賛歌を感ずることができ、投影された女性パイロットのマリアン・グレイヴスと若手女優のハドリー・バクスターの存在はマギー・シプステッドの投影体とも考えられ、彼女たちの生きる世界、景色、言葉すらも全てを含められているものだとそう実感させられる読後感であったことを今でも記憶しています。


Ⅱ.面影/『フランツ・シュテルンバルトの遍歴』

芸術というのは、非常に観念的であり、抽象的でもあって難解な印象があります。
芸術と文学の融合、その卓越した文学の持つ力を考えさせられた作品として、ルートヴィヒ・ティークが描いた『フランツ・シュテルンバルトの遍歴』という作品があります。
物語は、主人公のシュテルンバルドの視点を通してルネサンス時代に生きる偉大な芸術家や作品から自らの芸術性を磨き成長していくものであり、読む角度を変えれば、青春小説とも呼べる作品だということも感じられました。
読んだ感想としましては、ギッシングの『ヘンリ・ライクロフトの私記』を彷彿とさせるものがあり、物語の内容も含めて、重厚で精巧さは圧巻だと思いました。
作者のティークによる宗教観や芸術観によるものはシュテルンバルトに投影されていることは理解でき、思想そのものが全面的に作品に表れていることが感じられました。
ドイツのロマン主義における時代性や社会的背景はユーモアに描かれ、ポップで教養小説よりも、例えるなら青春ものでエンタメの要素さえも内在する作品であると痛感させられるものがありました。


Ⅲ.混成の末より

人と思想、それ以外にも、いくつもの要素が投影されていることに注目すれば『グレート・サークル』や『フランツ・シュテルンバルトの遍歴』にも通じるものがあると考えさせられるものがありました。
外面的に見ればつくりは違って見えるかもしれない。
最初はよく分からずに感覚的にどちらも何か特別な共通項目があるのではないかという不確かな自信と実感がありました。
ですが、物語を深掘りすれば、曖昧だったものが確かなものへと変わることがありました。
混成することによって、投影と面影にみる人格と心象はあるものを生みだすことを本作から感じられました。


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