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【『方丈記』の魅力について】

ー鴨長明『方丈記』からみる、無常観についてー

鴨長明が記した、『方丈記』という作品には、長明自身の人間像というものが顕著に表れている作品だと私は考えています。

『方丈記』には、長明が自ら体験した安元の大火、治承の辻風や都遷り、養和の飢饉、元歴の大地震での災厄、日野での隠居生活などの全てが人生観というものに色濃く反映されています。

長明が過去に体験した、都での生活の不安、煩わしさ、そして閑居生活での豊かさというものを対比する事により、当時の災厄がよりリアリティを増すような感覚を『方丈記』を読んでいると痛感させられます。

これは、『方丈記』による長明の感情的で、感覚的なものが無意識的に反映されているという事ではなく、長明自らが意識的に世のはかなさを描く事、または広く世の無常を説く為の意識的な感性と倫理性というものが上手く絡まり、込められているものだと私は感じます。

『方丈記』にて、描かれる五大災厄には悲惨さというものが生々しく描写され、その災厄が規則正しく記述されている長明の表現方法による、型というものに注目してみると、とても興味深いものがあります。

この長明が描く表現の型というものは、災厄での記述内容に関して、論理的で形式的な、自然災害での惨状は長明自らが目で見た光景を記憶と感覚を頼りに記しているという事を着目したいと思います。

当時の事件を頭の中で整理し、自己で捉えた長明の潜在的な表現として『方丈記』では描かれている。

つまり、長明の論理的思考力と感覚的思考力が内在された記述こそが、五大災厄に描かれていると私は思います。

この事から、表現者としての長明には、事件性を規則的に記す表現の型、感情的、感覚的なものを記す表現の型の2つのパターンが叙述から読み取れるのではないだろうかと考えられます。

そして、長明が日野で方丈の菴を結び、隠居生活するまでになる後半部分では、『方丈記』の最大のテーマである、無常観というものが表れています。

無常観というものが反映されているもの、それは長明の住意識によるものだと感じます。

住意識とは、すなわち生活スタイルであり、方丈菴で過ごした長明の無常観と密接な関係性があるものだと考えられます。

住む行為というのは、感情的なもの、思考までも内包されたものであると捉えられます。

長明にとっての住むこと、住意識には精神の営み、理想実現に向けての願望が内在されており、こうした生活そのものは『方丈記』を書き記す為の長明自身の創作への原動力にもなるものになったのではないかと考えられます。

苦渋に満ちた長明の心の傷、草菴での精神活動での『方丈記』によって描かれた対比というものは、長明自らの体験が無常観を描く為の役割となっている事が理解出来るのではないかと思われます。

最後に、長明が記した『方丈記』には長明の全ての思いが込められた素晴らしい作品だと私は感じます。

私にとって、この作品は人生観を見つめ直す上でとても、影響を受けた作品だと思っています。

これからも、長明の『方丈記』を大切に、また読み返して、新しい発見と気付き、そして学びを得たいと心から痛感しました。

『方丈記』は、私の座右の書でもある特別な一冊です。


【参考文献】
『新訂 方丈記』市古貞治 注 岩波文庫
『方丈記(全)』鴨長明 武田友宏 編 角川ソフィア文庫
『方丈記』鴨長明 蜂飼耳 訳 光文社古典新訳文庫
『方丈記 全訳注』安良岡康作 講談社学術文庫
『鴨長明』三木紀人 講談社学術文庫
『方丈記を読む』馬場あき子・松田修 講談社学術文庫
『マンガ 古典文学 方丈記』水木しげる 小学館文庫
『新潮日本古典集成 方丈記 発心集』三木紀人 校注
新潮社
『鴨長明伝の周辺・方丈記』細野鉄雄 笠間書院
『鴨長明研究』簗瀬一雄 加藤中道館
『方丈記』鴨長明 校訂/訳 浅見和彦 ちくま学芸文庫

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