黒髪乙女のおばあちゃん

今日、大学から帰るバスで一人のおばあちゃんと出会った。

そのおばあちゃんは私の隣に座ってきた。よく見ると腕時計と腕の間にバスの乗車券を挟んでいて、とても面白いなと思った。

なんだか声をかけたくなってどうしようかなと思っていたら、途中のバス停から鮮やかなオレンジ色の髪色をした若者が乗ってきた。それにおばあちゃんは目を丸くしていて、あまりにもその姿が可愛かったので笑ってしまったらおばあちゃんの方から声をかけて来てくれた。

「昔はね、真っ黒の黒髪が美人の象徴やったんよ。私、どうやったら綺麗な黒髪になるかずっと考えてた」

やはり黒髪は乙女の命と言われていたのは本当のようだ。

その一言をきっかけに30分ほど会話は弾んだ。
とてもハキハキと話される方で70代後半かと思っていたらなんと92歳だというからとても驚いた。

そのあばあちゃんは60歳まで学校の先生をされていたそうで、なぜ教師の道を選んだのかと聞くと
「私の母に『女が普通の職についても男の人ほどお給料はもらえない。だから教師になりなさい。そうすれば性別関係なくお給料をもらえるからね』」と言われたことがきっかけで猛勉強して学校に行ったんよ」と話してくれた。
教師の仕事もとても楽しかったそうで、当時はとても厳しい先生で有名だったそう。

おばあちゃんは戦時中の話もしてくれた。「戦時中、風の噂で別府は戦火に見舞われないから別府にいたら安全だという話を聞いた」と。
なぜそんな噂が回ったのかというと、戦争が終わってからアメリカ軍が別府の温泉地を保養所にしようと考えているからだという。
さすがにおばあちゃんもその噂を信じてはいなかったが、「もしかしたら本当だったのかもね」と声を出して大きく笑ったおばあちゃんの笑顔がとても素敵だった。

ふとおばあちゃんが黙ったと思えば突然、「今の人はいいよ。本当にいいよ。想い人がいてもいつでも会えるんだから。しかも電話だってすぐできる。私の時なんて想い合っていても2、3ヶ月で戦争に行ってしまったからね。」と話し出した。
おばあちゃんの少し俯いた顔をしっかりと見ることはできなかったが、私は涙をこらえるので必死だった。
今の自分は本当に恵まれている。好きなことを自由にできて、虐げられるものも何もない。今の現状のありがたさに改めて感謝しなければと思った。

その言葉に何と返そうかと悩んでいたら少し大きな声で「もうねー!この歳になったら色々よだきい!!!」とおばあちゃんは言い出した。
突拍子も無いことを言い出したので笑いながら「どうしたんですか」と聞くと「もうね、色々しゃーしいよ。もういいかなって思うよ。」と笑いながら言ってきた。でもそのおばあちゃんの目はキラキラ輝いていた。

話しながら別府の街を進むバスの中からおばあちゃんは外の建物を指差して「あそこには昔小学校があって、私はそこで教師をしてたの」とか「あんな建物なかったのよー」とバスガイドのように話してくれた。

あっという間に目的地に着いてしまい、少し名残惜しかったがおばあちゃんとお別れした。
「おかあさん、今日も暑いから気をつけてね!」というと「あんたも気をつけるんよ!」と大きく手を振ってくれた。

いつもはスマホの画面ばかり見ていた通学時間がとても有意義なものになった。
これからも出会う人とのご縁を大切にしていきたい。

おばあちゃん!これからもお元気でね!

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