見出し画像

今こそ語りたい『妖幻の血』

妖幻の血』とは2001年 ~ 2002年の間に月刊少年ガンガンで連載されていた漫画である。
全4巻+FANZA同人にて5巻が発売されている。
現在は長期休載中であり、約18年間新刊が出ていない状態にある。
(既刊は絶版状態にあり、電子書籍化もされていない)
様々な不幸が重なることによって作品は未完となっているが、魅力的な要素が多い作品なのでここで語りたいと思う。

1.耽美な画風

まずは以下の単行本の表紙を見てもらいたい。
どこか悲しげな表情を浮かべたキャクターが彼岸花をバックに描かれている。(1巻)
当時高校生だった自分はこの表紙に惹かれて、初めて漫画をジャケ買いした。

画像1

キャラクター造形としては、作者自身が尊敬していると冬目景、沙村広明に似ており、初期の絵柄は『羊のうた』の冬目景を連想させる。
(特に吊り目系キャラ)
ちなみに私は『妖幻の血』を読むまで冬目景・沙村広明のことはよく知らず、この作品をきっかけに両名の漫画を読むようになった。

全体の画風としては、景色や建物の陰を濃く書いており、画面の光量が常に不足気味である。
そして、この雰囲気にキャラクターとストーリーが見事にマッチしており、和風ホラーファンタジーとしての空気感を際立たせている。

以下は私のお気に入りの単行本の挿絵。
夕暮れ時の薬屋の気だるい生活感が出ていて良い。

画像2
画像3

2.陰鬱なストーリー

主人公は薬屋を営む消極的な青年である。
身体には「蛇血」と呼ばれる双頭の大蛇を飼っており、使役することができる。※『NARUTO』で云うところの九尾的存在。
強力な力を持っているが、争いを好まない性格のため、ひっそりと生活してたが吸血人形のばらと知り合うことにより争いの世界へと巻き込まれていく。

大まかなあらすじは上記のような感じである。
昭和初期の混沌とした世界観をベースに、ブラックマーケット、人身売買、キメラを用いた人体実験等、厨二病を重篤化させるワードが乱立する。

また、登場人物達は倫理観が特殊であり、作中でも「ヘタレ」扱いされている主人公が1番正常なバランス感覚を持っている。
そして、不思議なことに主人公がキャラ立ちしていないことが、周りのキャラの魅力を引き立てている。

例を挙げるとするならば、第1話に登場する主人公の大学の先輩である杉浦秋彦という人物。
彼は本作のヒロインの一人であるぼたんの旦那なのだが、死期が近いということで妻(ぼたん)を実験体にしている。
その結果、ぼたんは生肉を欲する肉吸人形と化してしまったが、彼から後悔の念は感じない。
そして、いきなりアクセル全開の発言が飛び出す。

画像4
画像5

死体として股の間から取り出されたものに手を加えたにすぎんよ
まさかの死産した自分の子どもを改造してキメラにしていたという展開。
※つまり、ぼたんとの子ども。

『鋼の錬金術師』と同時期の連載とはいえ、1話目からこの展開を少年誌でやるのには驚いた。
しかも、作者の赤美潤一郎は女性作家。
荒川弘先生と言い、この時期の女性漫画家は後退のネジが外れている。
(良い意味で)

ただ、勘違いしないで欲しいのは『妖幻の血』はストーリ上必要であるからグロ要素を盛り込んでいるのであって、グロさを売りにしている昨今のマンガとは違うということだ。
本作品の登場人物は自分達の論理の元に行動をしているので、行動と言動に不一致が生じず、読んでいても不快感がない。

3.魅力的なキャラクター

次に作者の個性が現れている本作の登場人物を紹介していく。

画像6

中谷柳之介(主人公):通称『ヘタレメガネ』25歳。
名門呪術師の次男坊。双頭の大蛇を使役し、作中でも最強クラスの能力者。
争いは好まず、薬屋を経営しながらのんびりと生活していたが、1話目の冒頭から尊敬する大学の先輩夫婦に殺されかけ、その後は吸血人形と肉吸人形と同居しつつ、日々精力を奪われながら生きていく。
本人は特に悪いことはしていないのだが、知り合いの薬問屋に毒を盛られたり、ブラックマーケットの競売商品にされたりと、不遇な目に遭い続ける。

画像7

のばら:本作のヒロイン。自立思考型吸血人形。
人の血液を動力エネルギーとして動く人形。詳しい原理は不明。
主人公は長い事のばらを探していたようだが、探していた理由は不明。
のばらと主人公が邂逅するところから話が始まる。
気の強いタイプで、主人公を尻に敷いている。
連載当時は女性読者層に人気があったらしい。
確かに今読んでも魅力的なキャラクター。
自分も人気投票するなら、のばらに一票入れる。

画像8

ぼたん:主人公の尊敬する先輩の奥さん。17歳。
1話目で主人公が先輩を殺害してしまうので、いきなり未亡人となる。
延命治療のため、色々な実験を施した結果IQが大幅にダウンした肉吸人形となる。吐くチビ人。
肉を吸うというのが、どういうことなのかは良くわからないが、常に
にく…」と言いながら肉のことばかりを考えている。
作者の性癖のヤバさが良い具合に漂ってくる良キャラクター。
陰鬱とした世界観にある種の癒やしを与えている。

画像9

佐伯さん:主人公の薬屋に卸をしている薬種問屋。19歳。
未成年なのに、年増と呼ばれることを気にしている。
1巻で早々に主人公に痺れ薬を飲ませる過激派。
巨大な犬を使役する。
主人公の敵側陣営に居るのだが、主人公を手助けすることもある。
ちょっとミステリアスでエロティックなおねえさんキャラ。

画像10

幽戸:細目の強キャラ。職業不明。
佐伯さんと一緒に住んでいる。
悪いことを沢山していると思うので、多分ラスボス。
作中には出てこなかったが、恐らく狐を使役する。
作品が未完のため、何が目的で動いているか結局わからなかった。
護廷十三隊 三番隊隊長に似ている。

4.独特なユーモアのセンス

全体的に陰鬱な作品なのだが、時折挟むギャグセンスは高い。
特に4巻の巻末に収録された『恋は肉の味』はかなりの傑作。
画風も良い感じに作者の個性が出てきた頃なので、キャラクターの表情も最高に生き生きとしている。(単行本的に掲載された最後の話)
あとは、ガンガン名物の単行本裏の4コマ漫画も、作者の趣味が覗き見れて面白い。

画像11
画像12
画像13

5.まとめ・余談

名作になりうる可能性を秘めたまま、連載が終了した『妖幻の血』。
数年前には作者のTwitter上で「いくつかの商業誌から連載再開のオファー」をもらっているという話もあがっていた。
このニュースを聞いたときは「連載再開YATAA!」と小躍りしたのだが、結局この話は立ち消えになってしまったようだ。
そして、現在作者のTwitterは鍵が掛かって閲覧できないようになっている。

画像14

元々病弱で何度も入退院を繰り返している方なので、健康上の理由で話が頓挫した可能性は高い。
ファンとしては復活の希望を捨てきれないが、現実的には難しいと思われる。
※作者にとって元々の不幸は13年前に書かれた記事を読めば詳しく理解できる。

また、数年以上前から骰子というページで同人活動を行っていたが、コチラも閉鎖状態になっている。
赤美潤一郎フォロワーとして十年以上活動を見守ってきたが、そろそろ諦めの境地が見えてきたので今回の記事を書かせてもらった。

あと、togetterにアシスタントが行方不明のまとめがあった。
8年前の記事なのだが、この時期に復活予定はあったらしい。
生活が困窮+体調不良+アシスタント裏切りのトリプルパンチ。
不運要素が重なり過ぎている。

最後に超余談なのだが、最近流行りの『鬼滅の刃』で禰豆子が木箱を蹴り開ける場面。

画像15
画像16

路地裏で木箱を背負った主人公が戦うシチュエーションが被っていたので、このシーンを思い出した。ちなみにこのシーンは読み切り版。
(Twitterで同じ指摘をしている人がいて驚いた)

作者の亜峠呼世晴は現在30歳前後なので、18年前の中学生の頃に『妖幻の血』をどこかで読んだ可能性は高い。
完全な妄想なのだが、どこかで同じ妖幻ファンであることを願っている(笑)

6.追記

/*2021.09.18 追記*/
作者様にようやくフォロー許可をして頂きました。
『妖幻の血』2021年以内に連載再開予定です。
1話目から始めるそうです。(完全な焼き直しではない)
数年前にも同じような報告があったので期待半分ですが、嬉しいニュースです。
なお、ツイッター上で「私が今まで描いた作品の中で一番好みの絵柄のコマを教えて下さい」という募集をかけていましたので、

スクリーンショット 2021-09-17 21.36.42

中期頃の、のばらを上げました。
赤美先生は現在、連載に向けて画力の調整を図っているようです。
病弱な方なので商業誌は体力的に心配ですが、もう一度書店で『妖幻の血』が見れる日が来たらテンション上がりますね。

/*2022.05.23 追記*/
「赤美先生、続報ないし『妖幻の血』春まで連載は厳しいかもしれないな」
と呟いたら先生にブロックされました。

Twitter

何気なく呟いだけですが、エゴサで逆鱗に触れた模様。
作者さんが繊細なのは知っていていましたが、これだけでアウトとは。
10年来のファンなだけに残念。
どこかで続報が出るのを待ちます。
※2022年6月現在も再開のニュースは入っていません。
2022年8月現在、著者のTwitterを調べても出てこないのは、削除したため?

この記事が参加している募集

今こそ読みたい神マンガ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?