今こそビジネスマンは『おぢいさんのランプ』を読むべきかもしれない
『ごんぎつね』『手袋を買いに』で有名な新美南吉の作品。
多くの人は教科書でしか読む機会のない作家だと思う。
(自分もそうだった)
自分はたまたまSNS上でこの作品を知り、読むに至った。
80年前の作品だが、物事の本質を突いた作品なので紹介したい。
この先はネタバレありで書評をしてきたいと思う。
1.未知との遭遇
この話は、技術の進歩によって職を失う人間の心情をリアルに描いている。
巳之助(主人公)は、町でランプの存在を知り、行燈の時代が終わることを知る。
文明開花を肌で感じたシーンが、印象深い。
暗闇に接する機会が少ない現代人では味わえない感覚である。
ただ、技術の進歩を肌で感じる瞬間は自分達でもあると思う。
ランプの存在を知った巳之助は、ランプ屋を始めることを決意する。
2.無料サンプルで良さを分かってもらう
ランプの良さを分かってもらうために、無料でランプを使ってもらう。
化粧品の無料お試しセットのようなものだろう。
商売の本質は80年前から変わらないことが分かる。
ここから段々と商売が大きくなっていき、孤児の巳之助にも家族が持てるようになるところは、サクセスストーリーである。
3.イノベーションによる既得権益の破壊
電気が町に引かれるようになり、職を失う未来が見えてきた巳之助。
先見の明があった彼も徐々に判断力を失っていく。
村に電燈を引く会議の際も、屁理屈を言って反対する。
完全に自分の職を守るための理論である。
会社でも新しいシステムの導入に反対する人はいるが、同じ気持ちだろう。
この後、巳之助は区長さん(町のトップ)の家に放火することを決意する。
しかし、家にマッチを忘れたため、火打ち石を使う。
自分の考えが既に時代遅れになってたことに気づく名シーン。
ちなみに区長さんは、文字の読めなかった巳之助に1年間文字を教えてくれた恩師。
恩師すら手にかけようとするほど追い詰められていたのだ。
この後、ランプ屋を廃業することを決めた巳之助は、商売道具のランプを破壊する。
巳之助は半田池の木に吊るしたランプに石を投げて割っていく。
(半田池は今は埋め立てられている)
夜中の池に反射するランプの灯りが幻想的なシーンである。
自分の商売に別れを告げるため、商売道具を破壊する描写が悲しい。
しかし、覚悟の決まった男の描写である。
4.新たなる希望
巳之助はランプ屋を廃業し、本屋を開業する。
そして、その本屋は今も続いている。
文字の読めなかった巳之助が、本屋で生計を立てているところが良い。
これは実はランプのお陰である。
巳之助は毎晩、区長さんのところで文字を教わっていたのである。
(ランプが来るまで村では夜中に文字を読めなかった)
自分の商売が結果的に自分を助けるという伏線回収がアツい。
5.まとめ
古いものに捉われず未来に目を向けよ。
この作品は、サラリーマンが読むべき作品だと思う。
同じようなテーマで『チーズはどこへ消えた?』という累計2800万部を突破したビジネス本があるが、『おぢいさんのランプ』の方が話としてはコンパクトで、文学性も上である。
正直、この作品の知名度が低いの納得いかない。
教科書に載せても良い作品である。
技術によって職が失われる恐怖というのは、時代が変わっても必ず存在する。
巳之助が始めた本屋も、今の日本では急速に姿を消している。
自分もこの作品はKindle(電子書籍)で読んだ。
便利なものに逆らうことはできない。
この30年で、日本の多くの企業がランプ屋さんと同じ状態になった。
昭和を代表した白物家電メーカーは、かつての栄光から抜け出せず、無理やり商売を続けている。
みんながダメになっているのに気づいても止められない。
自分の商売を手放すのは涙を流すほどツラいからである。
ちなみに、新美南吉の故郷である愛知ではTOYOTAが有名であるが、
時代はガソリンから電気へと変わりつつある。
80年経って再び電気の脅威がやってきている。
個人の商売と異なり、メーカーの廃業は犠牲が大きい。
自分も巳之助と同じ感覚を持たなくては、潰れるだけだろう。
最後に締めのセリフを引用したい。
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