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『マインドコントロール』書籍まとめ(後編)

前半に引き続き、マインドコントロールについて要約していく。
後半は主に技術的な説明にスポットライトを当てている。
中身が複雑になってしまったので、別の記事で簡易にまとめたいと思う。

4.無意識を操作する技術

  1. 催眠を医学的に用いたアントン・メスメル
    メスメルは催眠状態に導入するためには、施術者と被験者との間に、ある種の信頼関係(ラポール)が必要であることを発見した。
    メスメルの催眠は心因性の疾患には有効であっても、器質性の疾患には効果はなかった。

  2. 自己暗示療法を確立したエミール・クーエ
    クーエは患者を励まし、前向きで肯定的な発言や考え方を指導し、症状がよくなるという暗示を与えた。
    クーエの暗示」として知られる言葉を、自宅でも毎日唱えるように言った。
    それは「日々に、あらゆる面で、私はますますよくなってゆきます
    というものだった。
    暗示療法については、大人よりも子ども、都会人よりも田舎で暮す人に、より顕著な効果を生んだ。

  3. 催眠療法を用いらなかったフロイト
    催眠的暗示法は、症状が一時的に改善しても、時間が経つと元に戻ってしまう。
    フロイトには、他人が勝手に潜在意識を操作することで症状の改善を得るのではなく、 その人自身が問題に向き合い、それを意識化し言語化することこそ、本当 の変化をもたらすという信念があった。
    しかし、治療を進めるうちにフロイトは厄介な問題に直面することになった。
    それは、症状が良くなってきたかと思えた時に、患者は治療者に対して過度な理想化を示して執着したり(陽性転移)、恋愛感情を抱いたり、逆に反発してネガティブな感情(陰性転移)を抱いたりするようになったのである。
    彼は、この現象を「転移」と呼んだ。

  4. 転移の虜となったユング
    ユングは、自分の患者だった複数の女性と、一線を越えた関係をもち、そのうちの何人かは、彼の愛人となった。
    彼は魅力的な人物を巧みに演じていたが、内面は非常に不安定な人であった。
    自分自身を支えるためには、自分の絶対的な崇拝者や帰依者を必要としたのである。

  5. 催眠によって銀行強盗を行わせたニールセン
    ニールセンは催眠術にかかりやすい体質のハードラップを利用して銀行強盗を行わせた。
    ハードラップが精神的な不安を抱え、救いを求めていることに気づくと、自分は東洋の神秘思想に通じていて、ヨガや瞑想にも詳しいからと、その手ほどきを行った。
    ハードラップはすっかりニールセンを信用し、彼の弟子となって一緒に瞑想し、呼吸法を実践するようになった。
    洗脳されたハードラップはニールセンの命令通りに結婚し、稼いだお金を彼に渡していた。

    この事件は世間のみならず専門家をも驚かせた。
    そして、裁判の中で2つの事実が明らかになった。

    1つ目は、催眠状態ではなく催眠後の覚醒状態であっても、催眠中に与えられた指示によって、行動がコントロールされるということである
    そして、その効果は長期間持続した。

    2つ目は、本人にとって道徳的、信条的に望まない行為であっても、巧みに操ることによって、その壁を突破することができるということである。

  6. CIAのグルと呼ばれたモース・アレン
    CIAのブルーバード計画の責任者を務めていたモース・アレンは催眠の腕にかけてはグルとも言える域に達し、数々の伝説を生み出した人物である。
    彼は指を鳴らしただけで、秘書たちを催眠状態に導入することができた。
    アレンの実験によって2つの事実が分かった。

    1つ目は、催眠状態におかれると、被験者は込み入った指示や膨大なデータを苦もなく記憶し、一字一句たがわずに思い出すことができたという点である。(しかも、かなり長期間保持された)
    しかし、本人は、自分がそうした記憶をもっていることすら気づいていない。
    再び催眠状態になったときだけ、その記憶を取り出すことができるのだ。合言葉を決めて鍵をかけておけば、それを知る者だけが、その情報にアクセスできる。
    さらに、合言葉を口にするのは、必ずしもアレン自身でなくてもよかった。

    2つ目は、催眠状態にあっても、一見すると通常と何ら変わりなく行動することができる人が少数存在するということだ
    このタイプの人たちは、催眠がかかったままであるにもかかわらず、普通にやり取りし、一見普通に行動をすることができた。
    そのため、その人がトランス状態にあることには誰も気づかない。

  7. 悪用される天才(エリクソン)の技法
    エリクソンは精神科医であったが、天才的な催眠療法家でもあった。
    しかも、彼の天才は、催眠という狭い方法にとらわれることなく、もっと幅広く無意識を動かす技法を生み出した。
    イエスセットも彼の発明)
    ダブルバインドは、彼が生み出した技法の1つである。
    人間の心は不思議なもので、何かをするように直接言われると、命令されたと受けとり、心に抵抗を生じてしまう。
    しかし、間接的に 仄めかされたり、それを前提に話されたりすると、抵抗が生じない。
    たとえば、エリクソンは、催眠においても、通常使われる「瞼が重くなります」といった断定的な言い方はせずに、「あなたはトランス状態に入っていくこともできる」とか「だんだん深く入っていくでしょう」という具合に、他の可能性も許容する言い方を好んで用いた。
    相手がノーと答えるのを極力避けるようにしたのだ。

  8. 補足 フロイトとユングの違いについて

  • フロイト=厳しい修行と禁欲を自らに課した道元(大乗仏教)

  • ユング=人間の弱さや欲望を素直に受けいれようとした親鸞(小乗仏教)

治療者との関係を支えにして問題に向き合い、それを解決できたとき、その人と治療者との関係は終わってしまう。
しかし、もしその人が、本当に求めていたものが、家族のように半永久的につながりつづける存在を手に入れることだとしたら、問題解決は本当の目的に反するということになる。
問題をぶり返すか、別の問題を持ち出すか、もっと根源的な空虚を自覚するようになるだけである。

マインドコントロール

人はなぜマインドコントロール(転移)の罠に陥るのか。
人々はつながりを求めようとする根源的な欲求をもっている。
カルト教団にしろ、反社会的集団にしろ、それらが疑似家族として機能していることは、必然的なことだと言える。
現実の家族から離反し、グルや教団に対して、理想的な親や家族を求めるのである。

5.マインドコントロールと行動心理学

  1. パブロフと条件付け
    パブロフは、犬に餌を与える前にベルを鳴らしていると、ベルを鳴らしただけで、犬は涎を垂らすようになるという条件反射を発見した。
    条件付けを行うと、元来生理的には無関係な刺激(ベルの音)によって、生理的に関係する刺激(餌)に対するのと同じような反応が起こるようになる。
    これが、今日、古典的条件付けと呼ばれる行動の操作技法である。

    【条件反射の消し方】
    条件反射を消す方法は、まったくの予期しない出来事によってもたらされた。
    1924年、レニングラードは大洪水に見舞われ、パブロフの実験室も被害を免れなかった。
    大量の水が流れ込み、実験用に飼われていた犬たちも、機材や飼育カゴも浸水し、犬たちは逃げることもできず、溺れかけたのである。
    洪水が収まって、実験を再開しようとしたとき、パブロフたちは奇妙な事態が起きていることに気づいた。
    ベルの音を聞いても、犬たちは反応しなくなり、一旦獲得した条件反射が消えていたのだ。
    水に溺れかけるという衝撃的な出来事が、条件反射を消去してしまったと考えられる
    さらに、条件反射が消えるだけでなく、犬の性格が正反対に変化するケースがしばしば見られた。

  2. ソ連で行われたマインドコントロール

    【第一段階】
    ソ連で行われた一般的な方法の第一段階は、抵抗を取り去る軟化のための期間である。
    まず、相当な期間にわたって監禁し、まったく一人の孤独な状態に置く。通常、4週間から6週間、外界とのコンタクトは一切遮断され、まったく何の人間的なかかわりもない孤独な状況に置かれる。
    部屋には窓がなく、自然光に一切触れられないようになっている。
    人工灯だけが昼夜に関係なく灯っているため、時間さえわからない。
    そして、食事時間や日課の時間も不規則に変動する。
    30分後に次の食事が出されるかと思えば、半日も何も食べさせてもらえない。

    呼び出される時間も、まちまちで予想がつかない。そうすることで、時間の感覚や現実感覚を混乱させる。

    【第二段階】
    次の段階は、完全な支配とコントロールを達成する局面である。
    それを達成するための巧妙なテクニックの一つは、答えを教えないことである。
    たとえば、政治犯や思想犯の場合、自分がどういう罪状で告発されているか、決して教えてもらえない。
    自分が何の「過ち」を犯したとみなされているかは、わからない状態で、自分の「過ち」や「罪状」が何かと尋ねられ、それについて告白し、すべてを語るように言われる。
    内容に噓や自己弁護があると、失禁するまでトイレに行かしてもらえなかったり、何時間も手を挙げた格好で立たせられたり、プライドを打ち砕くような蔑みの言葉を散々投げつける一方で、自分の非を率直に認める発言をしたときには、賞賛され、タバコやコーヒーをもらえたりすることもある。
    何度もそうしたことを繰り返すうちに、何が事実であるかということはどうでもいい問題になり、自分が相手に気に入ってもらえるのには、何を「告白」すれば良いかということばかりを考えるようになる。
    そこから、ご褒美と罰を気まぐれに行うことによって、相手はさらに混乱し、筋道や首尾一貫性などには関係なく、言い分に服従するようになる。

    この方法は禅宗の修行で、導師が弟子に対する極めて理不尽な接し方にも似ている。

  3. ヘブ博士の感覚遮断実験
    ヘブ博士は、脳の発達の研究をしていたが、あるとき、スコットランド・テリアの仔犬を一定期間、現実の世界から隔離すると異常なことが起きることに気がついた。
    もとの現実に戻されたとき、仔犬は強い恐怖と発達が逆戻りした状態を示し、危険から身を守ることもできなかった。
    匂いを嗅ごうとして、炎の中に鼻を突っ込み、焼け死んでしまうものまでいた。
    そして、ヘブ博士はこの実験を人間で行うことにした。

    【X-38実験】
    実験室には、チャンバーと呼ばれる直方体のカプセルがいくつか作られた。
    どのカプセルも、完全防音で、横たわることしかできず、しかも被験者は、不透明なガラスで覆われたゴーグルを装着し、分厚い手袋をはめ、手足はボール紙の筒で覆って、一切他のものに触れられない状態にされた。さらに、スポンジ・ラバーの枕に埋め込まれたスピーカーからは、シャーというホワイト・ノイズが聞こえてくるようになっていた。
    つまり、一切の感覚的な刺激を遮断した状態に置かれるのである。

    【感覚遮断実験】
    22人の被験者のうち、24時間以上チャンバーに留まることができたのは、わずか半数の11人で、2日間とどまることができた人は、ほとんどいなかった。
    1人の被験者は、帰宅途中に車をぶつけてしまい、また別の被験者は、トイレの場所がわからなくなった。
    ヘブ博士の実験は、感覚遮断が、見当識障害や感覚障害だけでなく、幻覚や被害妄想を引き起こすことを明らかにした最初のものとなる。

    【感覚遮断実験からのマインドコントロール】
    ヘブ博士は、シャーというホワイト・ノイズを聞くか、かなり単調な内容ではあるが、音楽や講義の録音テープを聴くかを、選べるようにした。すると、全員がホワイト・ノイズよりも、録音テープの方を選んだ。
    この実験から明らかとなったことは、われわれの脳が正常な働きを維持するためには、適度な量の刺激を必要としているということだ
    刺激は情報と言い換えてもいいだろう。
    入力情報が不足し過ぎると、もはや脳は正常な働きを保てなくなる。
    そうした状態で、与えられた情報は人間の精神力や脳に強い影響を与える。
    つまり、この技術を悪用すれば、その人の思想や信仰を大きく変えることも可能となってしまう。

    【情報過多による弊害】
    情報過負荷の状態が続くことによっても、脳は次第に主体的な思考力や判断力を失っていく。
    最初は強い反発と抗議を呼び起こすような考えであっても、さらにまた同じことを言われ続けると、最初ほど強い反発や抗議を続けられなくなっていく。
    過剰な情報にさらされた脳は、次第にそれが正しいか間違っているかを判断しなくなり、それを受動的に受け容れるようになってしまうのだ。
    孤独に暮すことが当たり前となり、同時に、メディアからの大量の情報に日夜さらされて暮らす現代人は、感覚遮断と情報過負荷という両方の危険に直面している。

6.マインドコントロールの原理と応用

マインドコントロールの基本原理は以下の5つに要約される。

  1. 情報入力を制限する。または過剰にする。
    オウム真理教が、信者を外界から隔離されたサティアンに住まわせ、単調な「修行」以外のことが何もできないようにしたことも、情報遮断によって脳の正常機能を失わせ、その人本来の判断力を奪うという原理が用いられている。
    (寄宿舎や合宿なども同じ)
    ある種の「トンネル」を作ることで、一点の光だけを見つめて進んでいく状態が生み出されることになる。
    本人の主体性を奪い、操り人形やロボットに仕立て上げようと思えば、常に情報過剰な状態に置き、脳がそれらの情報処理で手いっぱいになり、何も自分では考えられない状態にしてしまえば良い。
    この状況は、膨大な情報に日々さらされながら、疲れきって過ごしている現代人と、少なからず重なる。

  2. 脳を慢性疲労状態におき、考える余力を奪う。
    洗脳においては、脳を絶えずビジーな状態に置くとともに疲労困憊させる方法が徹底して取られる。

    まず頻用されるのは、睡眠時間を奪い、その質を劣悪なものにするということである。
    安眠を妨害する意図が最初から明らかなもので、騒音や光、安眠できないベッド、横にならせない、揺り起こすといった物理的な方法で睡眠を妨害する。

    もう1つ頻用されるのは、糖質やビタミン、タンパク質、脂肪、ミネラルなどの栄養を不足させることである。
    それによって、脳が正常な機能を維持できないようにする。
    加えて、過重労働や単調で遣り甲斐のない作業を長時間行わせ、疲労を蓄積させる。
    無意味なことをやらせることで、達成感や作業の喜びを奪い、いっそうストレスを強めることを意図している。

    人は予測できることに対しては、ある程度心構えをもつことで対処することができるが、予測不能な状態に置かれると、脆さを見せる。
    手荒なことをしなくても、何が起きようとしているのか見通しを与えずに、一切かまわずに長時間待たせるだけで病み始める。

  3. 確信をもって救済や不朽の意味を約束する。
    上記の下準備が済んだ後に、本題のマインドコントロールを開始する。
    まずは、あなたにも救われる道があると語りかける
    我々の仲間になって信念を同じくすれば、すばらしい意味をもつ人生が始まると、希望を約束するのだ。
    多くの人が、強い確信をもって希望を約束されると、その言葉を信じてしまう。
    なぜなら、多くの人は、現実の世界では満たされない願望やフラストレーションや不安を抱え、希望や救いを求めているからだ。

  4. 人は愛されることを望み、裏切られることを恐れる。
    愛情爆弾love bomber」と呼ばれる手法では、集中砲火を浴びせるように、信者たちが入信候補者に対して、「愛しています」と言い続ける。
    自分が受け入れられ、大切に扱われているという感情に満たされるようになる。
    それは、通常の生活では味わうことのない快感であり喜びである。
    人は心地よい体験をすると、それをもう一度求めるようになる。
    社会的生き物である人間の承認欲求は、非常に強力なので、自分を認めてくれたものに対して、肯定的な感情やそれに応えたいという忠誠心を生み出す。
    その結果、人は自分のことを認めてくれた存在を裏切ることに、強い心理的抵抗を覚える。
    この心理的抵抗は、すなわちマインドコントロールの力でもある。

  5. 自己判断を許さず、依存状態に置き続ける。
    支配的なカルトの場合、メンバーの上には、メンター(相談役)となる先輩信者がいて、些細なこともすべて相談することが求められる。
    人生の意思決定のすべてが、自分以外の存在の手に委ねられることになる。

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