カメラを18台使ってみて思う、「好きなカメラで撮ること」の大切さ

コロナ宣言期間中に、Twitterのハッシュタグ「#私のカメラ遍歴」で今まで使ってきたカメラを振り返ってみた。

5年ほどの間に使ったカメラは18台。今手元にはデジタルカメラ4台、フィルムカメラ3台が残っている。最初のカメラNikon D7000は漠然と旅に持っていこうと手にしたものだったけど、その後、被写体が人物・ポートレートに変わり、写真展で賞をもらったり写真雑誌にインタビューページが掲載される中で、色々なカメラやレンズを試行錯誤して使ってきた。

「カメラなんて何で撮っても同じ、何を撮るかが大事」とは良く言われるものだが、事態はそんなに単純ではない。少なくとも5年ほど前はカメラボディの差がそれなりにある時期だったし、今だって撮影対象によっては最新機種の性能が写真の出来を少なからずアシストしてくれると思う（例えば、動く野鳥を撮るとか、夜空の天体を撮るとか）

ただ、人を撮ることにフォーカスして以来、どんな機能が自分の撮影には必要／不要であるかの取捨選択が（少しずつだけど）できるようになってきたように感じる。例えば被写体さんにそれほど激しい動きをしてもらうことはないので、AF追従が特別優れていなくても良いし、高速連写できるシャッターも必要ない。逆に僕にとって大切なのは、人差し指からレリーズへと自然に力が伝わり、イメージしたタイミングでぴったりシャッターが切れるフィーリングの繊細さのほうだ。

また、トリミングで部分拡大して作品にすることもないのでそこまでの高画素を必要としない（展示でA1サイズで印刷するのにも、2400万画素くらいあれば不自由しないように思う）。高感度耐性があれば良いに越したことはないけれど、それはカタログスペック上の最高感度でも実用感度でもないし、ましてやカメラ内の画像処理エンジンでJPEG化した（＝ノイズ除去されている）データ上の話でもない。自分にとって大切な画質とは、中程度のISOで撮影したときのRAWデータからの現像で、人肌のグラデーションがどれだけ滑らかに出るか、に現れることが分かってきた。

同じように、カメラメーカー特有の色があると言うけれど、一般的に議論されている色はJPEG化された後のデータのことであり、RAWデータを現像したときの現像耐性についてオンラインで話している人は稀のように思う。技術的な話が続いてしまったが、つまるところカタログスペックに記載される数値のプライオリティは、僕の撮影の中でそこまで高くないということだ。

こんなことを言うと製品開発にあたっているような友人は苦笑だろう。でも、カメラなんか何でも良いと言いたいわけではなく、寧ろ逆で、どんなカメラでも良い写真が撮れると思えるからこそ、自分の本当に気に入ったカメラで撮影することが大事なんじゃないかと思わずにはいられない。

何かを気に入るということは、とても直観的で感覚的だと思う。もしかしたら異性を好きになるのとさえ似ているのかもしれない。それは数値化とは真逆の抽象概念ではあるけれど、敢えて言語化するのであれば、

・デザイン（視覚）
・フィーリング（触覚）
・サウンド（聴覚）

に快さを感じるかどうかではないだろうか。感覚的ということは即ち官能的であると言い換えても良い。

デザインの観点は、この三つの中で言えば最も説明しやすい。カメラに限らず、高度な工業製品は形状美と機能美から成り立っている。日本人的には機能美に価値を見出しがちだが、例えばアルファロメオの人気車種スパイダーは、魅力的な車体を作り上げるためにトランクが信じられないくらい小型化されている。

フィーリング、サウンドの嗜好を文字にすることは極めて難しい。金属的なひやりとした質感を好む人もいれば、温もりを感じる触感が好きな人もいる（実際に使った感覚で言えば、道具として手の馴染みを目指しているタイプと、カメラとしての存在感を主張するタイプに大きく分かれるように感じる）。ミラーボックスが小気味よく動作する振動とシャッター音に「撮っている」感覚を求める人もいれば、「コトッ」というシャッター音の小ささに上品さを見出す人もいる。これらは、言語化する難しさの分だけ、その持ち主の嗜好性を表しているのではないかと思う。

もしあなたが自分の撮った写真を特別なものとしたいとき、それを撮影したカメラが何であるかは大したことではないが、あなたがどういった理由で選んだカメラを使って撮影したいかのストーリーは重要だ。なぜならその理由自体が、あなた自身がどういう人物であるかを表しているからである。

高機能・高性能でなくても良い。ただそこに撮影者のこだわりが現れるとしたら、好きなカメラ以外で撮影に望む理由がどこにあるだろうか。