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HollowKnight-考察- 生命の血 -

命の種。我々は特に深い考えなく狩り取って、冒険の一助や神の家で青ライフを稼ぐため消費しています。ですが致命打にすら耐える生命力(活力)を与えるというのはちょっとした栄養ドリンクの効果を超えており、なんというか相当ヤバそうなドーピング的効力を連想させる。人類で言えば袈裟掛けに切りつけられても動き回っているようなものですし………狂戦士かな。

▼命の種
小走りで動き回る小さな種。生命の血を含んでおり、狩ることでその生命エネルギーを体に取り込むことができる。

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さらに思い返せば生態すら謎
繭の中で種が育ち、やがて弾けて、動き回り、どこかで根付き、蔦となって蝶を生やし、飛び立ってゆく。植物のようでムシのような不思議な存在。

いったい命の種・生命の血とはなんなのでしょう?



アビスの怪物

そのヒントはアビスに眠っていました。

ホロウナイトでは夢見の釘を使って他者の精神世界へ入れますが、その空間では現実世界ではない≒夢の中であることを表すためかエッセンスのエフェクトがかかります。

ラディアンスは黄橙、白い宮殿では白、グリム巡業団では紅色

この夢の世界では、すべてのライフを失っても夢から弾きだされるだけで死にませんがラディアンス戦、白い宮殿、グリム巡業団の炎集めではライフを失うと死亡してしまいます(スティールソウルでも死亡する扱い)。こうしたシーンに共通しているのはラディアンス・王・悪夢の心臓といった神のごとき強大な力を持つ存在の影響下であるということ。

大量の青ライフを保持することで開くアビスの部屋でも青色のエッセンスのエフェクトがかかります。部屋内部は生命の血で青色に染まり最奥の祭壇にはチャーム・生命の核が安置されています。

▼生命の核
生命の力をほとばしらせる塊が埋め込まれている。休息時に体を活力で包み込み、かなりの量のダメージに追加で耐えられるようになる。

さて、そこで背景をよく見てください。

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瞬きしていますよね、すごいでっかいナニカが。神の家でも封印された部屋の床下に潜んでます。こっちの部屋は何度も入れるから、ぜひ見に行ってみてください(こいつはスプライト名からAbyss_Creatureと呼称されている)。

アビスの部屋は中々に特殊で、最下部の底なし穴に落下しても部屋の入口付近で眠り横たわる騎士が目覚める姿を見ることになります。ここは白い宮殿と同じく強大な力を持つ何者かが作り出した夢と現実の混ざり合う奇妙な空間。最奥にいた彼が主なのでしょうか?


青き子供ジョニ

彼について語る前に同じく生命の血に由縁あるキャラクター・ジョニについての話をしておきたい。彼女は風鳴りの崖に隠された霊廟に眠る少女である。

ジョニの安息所の最奥には彼女の亡骸とチャームが安置されている。舞い散る砂塵がムシたちの殻を打つ外界とは違い、蝶が飛び交い鮮やかな青色に染められた空間は幻想的な美を湛えた作中屈指の絶景として名高い。

傍に置かれたチャーム・ジョニの祝福は装備すると全てのライフを1.4倍した数の青ライフに変換する効果を持つほか、通常は逃げ回るばかりの命の種が自ら近寄ってくるようになる。そして、そのテキストから彼女は「異端者」として扱われていたということがわかる。

▼ジョニの祝福
心優しき異端者ジョニによって祝福されており、青い血を生命に吹き込む。身につける者の体を強くし、より大きなダメージに耐えられるようになるが、ソウルをフォーカスしてライフを回復することができなくなる。

異端者(heretic)とはどういうことだろう?
パッと見では宗教上の相容れない思想を持つ者を指す言葉として連想されるが、単に文化習俗の相違というだけのヨソモノ差別的な表現かもしれない。ここを読み解くため別のNPCの発言を参照してみよう。

▼サルブラ「生命の心」
あなた”生命の血”って呼ばれてるあの青い液体を飲んだことある?ちょっといけない行為のようにも感じるけど、飲むととっても元気になるでしょう?

ここで、生命の血のエキスを口にすることはちょっといけない行為と表現されている(原語版はIt's a bit of a tabooなので少し強い表現かも?)。そのまま受け取るならば、食事として他種のムシを口にすることとは次元が違うレベルで文化的に忌避されていた行為ということになる。

これは恐らくハロウネストが王国としての体裁を保っていた時代からの王国民の共通感覚(日本人は平気でも米国人は肉魚卵の生食を嫌うといった感覚に近いもの)ではないだろうか。サルブラが王国時代から生きているほどの長寿なのかは不明だが、放浪者が居着くダートマウスではなく廃村の外れという辺ぴなところに店を開いていることから考えても地元民としての属性は強く、地域近郊の文化感覚を引き継いでいると考える方が自然だろう。

▼記録者・エリーナ(放浪者の日誌)
わたしも命の種を食べてみたことがあるけど、とても美味しくて、足がすごく軽くなったわ!

その証拠にハロウネストの外からやってきた放浪者であるエリーナは抵抗なく生命の血を口にしている。そもそもハロウネストの外では生命の血が存在しない可能性が高いが、好奇心で禁忌を乗り越えたといった様子もないので、少なくとも忌避する感覚は持ち合わせていないのだと考えられる。

とすれば異端扱いとしたのは王国民ということになるが、私は主にソウルの聖域の者たちによるものではないかと思う。それは彼らの研究で目指されたことの一つが「純粋なるフォーカス」だったからだ。

▼王の道の石碑
自らのソウルを集中させよ。さすれば他者には望めぬ偉業が可能となろう。

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▼記録:アバ
その精神は依然として我らの足かせとなる。いかにしてその拘束より離脱できるのか?純粋なるフォーカスを得ることなど可能なのか?

元来のフォーカスとは王がソウルを集中することによって起こされる奇跡であった。最終的にラディアンスによって歪められてしまったが、当初はソウルの師達は王の御業を再現しようとしていたのではないか?修行によって自我を滅却し、忘我の果てに王≒神と同じステージに昇ろうという、ともすれば不遜な神学的アプローチというわけだ。

▼マイラの歌
ああ、折れた釘とともに騎士を埋め、愛らしく蒼白のレディを埋め、すりきれたガウンを着た司祭を埋め、かがやく王冠をかぶった物乞いを埋めよう!

知性の光放つ王を神のごとく崇めるハロウネストにおいて、それは科学でありながらも信仰だった。彼らは研究者であると同時に王国(主流派の)神官でもあったのだ。

なればこそ、王の尽きることなきソウルと奇跡では再生することのできない生命の血(青ライフ)は異端とされたのではないだろうか。

そう、つまり生命の血を口にするということは王のソウルに依存せず生命力・活力を得ようとする行いであり、ともすれば奇跡と引き換えに支配を望む王に対して独立心を克己する翻意ある行いとされたのである。王がそう考えたかはともかく、神官たちはそのようにとらえた。

唯一ハイブの血でのみ再生される

彼女(あるいは彼女たち)はそれゆえに異端扱いされ、都から追放された。王国の果てのひとつである風鳴りの崖で、さらに隠されるように彼女の霊廟が築かれているのはそのためだ。


黒いウィルム

さて、アビスの怪物に話を戻そう。

前述の通りアビスの生命の核が置かれた部屋に入るには大量の生命の血が必要となる。大概のプレイヤーはジョニの祝福を受けることで自身のライフを全て青ライフに変換して条件を満たすと思う。このことから扉の封印は彼女か、その祝福を受けた者か、あるいは同等以上の生命の血を纏ってこられるムシにのみ開かれるものだった。

この「信徒へ力を与えつつ、一方で自身に従属させる」行い、どこかで見たことがないだろうか?ラディアンス・王・悪夢の心臓といったホロウナイト世界における高位存在のしぐさそのものである。

1体のウィルムが巨大な殻を脱ぎ捨てて小さなムシの姿を取り、王としてハロウネストを建国した後にやってきた別の高位存在がアビスの怪物であり、オグリムたちと戦った「黒いウィルム」とは彼のことではないか?

▼バードーン
ウィルムは死んだといわれている。
だがあのような古の者にとって死とはなんだ? さらなる変化であろう。

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▼狩猟者の書・純白の騎士
王者の呼び声、コブの林、黒いウィルムの戦い…
わたしはすべて覚えている。

かつて王がったように、黒いウィルムも戦いと死を経て変化している。彼は王とは別の道を選択した。活力を与える生命の血を撒き餌としてムシ達が自身の要素を取り込んでいくように。血をうけたムシたちとともに自らの種を蒔き、版図を広げていく生命へと変化した。

そしてジョニは祝祷をつかさどる巫女だった。今となっては入口が封印されてしまったが、かつては巫女の祝福を受けるか一定量以上の血をうけたムシは導かれるようにアビスの部屋を目指し(白い宮殿の最奥に隠された王の魂のように)生命の核を授かる巡礼の旅をしたのかもしれません。

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ウィルムが変化した姿にしては命の種そのものはマゴット級に弱いですが、生命種の強さとは個体の闘争力ではありません。同種同族の生息域を、より広げ、増える力こそが強さです。

思い起こせばハロウネスト全域に命の種は存在しています。どれほどの時間をかけたのかは不明ですがジョニの安息所、暗闇の巣(ガリエンの遺骸上)、王国のはずれにはアビスの部屋のようにプレイヤーが少々荒らした程度では揺らぐことのないほど生命の血で溢れた空間も生まれ始めています。

生存戦略として解釈するならば「汚染されていないムシ」では汚染に耐性のあるカマキリ族や、正気を保っている他のムシたちよりも遙かに繁栄していると考えられるでしょう。ムシたちや王の栄枯盛衰にかかわることもなく、王国が滅び、光が失われても、ずっと領域を広げつづけている命の種。

ハロウネストにおける真の勝者は光を打ち倒した王の意思でも、虚無の獣や器達でも、ましてやプレイヤーでもなく生命の血をうけた者達ということになるのかもしれません。




設定解釈・付記

▼命の種が汚染されて光輝の種になったわけではない。
本文に混ぜられなかったけど、これはちょっとハッキリ書いておきたい。ちょこまか動くしでゲームプレイ中はあんまり意識しないかもしれないが多少形が似ているだけー・・っていうかよく見ると、まるっきり形が違います。

単細胞に鞭毛が生えた光輝の種 / ミツアリみたいな構造の命の種

▼光輝の種・狩猟者の書
完全に汚染された単細胞生物。なにを考えることもなくさまよっている。
何年もの間、頭上から奇妙な空気がただよってきている。その空気の一部は液体となり、その液体の一部は肉となり、その肉の一部には命が宿る。


▼描写の対比
ラディアンスが「蛾」モチーフっぽいとは散々言われていますが、そうすると「蝶」に変化することが示されている生命の血はイメージカラーも橙と反対色に当たる青だったりで対比関係にあります。

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王も混ぜるとウィルムとしての姿である芋虫に対して、空を舞うラディアンス、植物のように変化しつつ蝶へと変態して飛び立つ生命の血。三者三様の構図に見えてくるー・・・ので、この辺をうまいこと解釈に混ぜ込めればな、と思いましたがオイラの筆力ではうまいこと構築できませんでした。


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