【公開シンポジウム|睡眠の生理と改善策】~ 西洋医学と東洋医学の知見から ~ に参加して
こんにちは。鍼灸専門 一齊堂の東豪です。
先日、順天堂大学 東洋医学研究会が主催している公開シンポジウム 睡眠の生理と改善策 ~ 西洋医学と東洋医学の知見から ~ にウェビナーで参加しました。
▼順天堂大学 東洋医学研究会とは
こちらの勉強会を運営するにあたり、知人の先輩鍼灸師らが関わっており、このような活動は非常に喜ばしく思います。
講義内容
一人目の講演者は、睡眠のエキスパートとして高橋正也先生がご登壇されました。
労働安全衛生総合研究所 産業疫学研究グループで、医師の働き方改革に関する研究などをされています。
睡眠に関する書籍は、非常にビジネス界隈で流行るらしいです。
今回は、睡眠の「都市伝説」として紹介されていた5つの項目を見てみましょう。
睡眠の「都市伝説」
2の睡眠時間に関しては、人によっては8時間の方もあるだろうし、9時間の方もあるだろうし、ある程度個人差の幅があると思います。
(中にはショートスリーパーの方もいらっしゃると思いますが、本当のショートスリーパーは極めて少数だと思いますので、基本的にはショートスリーパーではない対策をすることが大切かなと思います)
ただ、やはり5時間は短いようですね。
「睡眠時間と死亡率」では、心血管疾患・癌が増加していましたね。
このような重篤な病態だけではなく、「短時間睡眠の連続と集中力の低下」では、3日間徹夜するとガタっと集中力が低下し、ミスが増加することが示されました。
医師や看護師の仕事は、仕事のサイクルの関係から夜勤や当直があり、満足な睡眠を得ることが難しい職業です。
また、少しのミスが命に関わるケースもあるので、自身の健康・仕事の効率(労働生産性)のためにも、睡眠は大変重要な課題です。
快眠へのヒント
良質な睡眠をとるためには、帰宅してからなるべくパソコン・スマホに触らず、リラックスする時間を確保するように「眠りを重視した生活サイクル」を心がけること。
翌日が休みだからと、夜中まで起きてお昼過ぎまで寝ていたりせず、休日でも同じ時刻に起床する。研究によっては、一時間の誤差でも健康に影響を及ぼすとも言われているようで、就寝・起床のタイミングは同じようにすることが重要です。
また、そもそもの自律神経の失調や脳の機能異常などにより睡眠を障害している病気をお持ちの場合は、まずはその病気に対する適切な治療を行うことが大切とのご指摘は、最もだと思います。
東洋医学の立場から ~漢方・鍼灸~
東洋医学からは、漢方のお話を東方医学会会長の長瀬眞彦先生から、鍼灸のお話を清明院院長の竹下有先生から頂きました。
気逆(興奮)と血の不足
長瀬先生からは、興奮して気が昂ぶって眠れない「気逆(きぎゃく)」と呼ばれる状態と、心配や不安があって眠れない「血虚(けっきょ)」と呼ばれる状態のご紹介がありました。
同じ不眠という症状であっても、からだの状態に合わせて処方を変える「同病異治(どうびょういち)」の重要性を再確認しました。
睡眠に良い食べ物として「棗、ほうれん草、人参、葡萄、かぶ、大根」などを気を付けて取り入れてみることもご提案されておりました。
陰陽のバランスを調える
竹下先生からは、そもそも日中(陽の時間)は活動する時間(運動、食事、しゃべる、遊ぶ、仕事をするなど)で、夜(陰の時間)は次の活動に備えて日中の活動による疲労を睡眠によってとる時間であるとの大前提を確認。
多くの現代人は、仕事が終ってから夜(陰の時間)になって、本来、陽の時間である日中にするべき運動をしたり、パソコンで動画を見たりして眼を酷使したり、夜食を食べたりしてしまいます。
その結果、陰陽のバランスが崩れ、不眠となり、それが自律神経の失調を招いてうつ病となったり、肥満となったりします。
その習慣が長く続くと、その先には心血管疾患やがんなどの大きな病気に繋がるのだと、先の高橋先生のお話しにも通じるものがありました。
我々鍼灸師としては、睡眠障害そのものを主訴として来院する患者さんは少ないけれど、他の症状で来院された患者さんに睡眠状況を確認すると、異常や不満を抱えている患者さんは多くいらっしゃいます。
大きな病気の背景には、遡れば「不眠」という小さな陰陽のアンバランスから始まるんだ、だから、必ず症状とは直接関係のない内容でも問診して確認する必要があると、臨床的に非常に重要な内容をお話しいただけました。
睡眠のメカニズム
東洋医学では、睡眠はからだをまもる「衛気(えき)」というほんのり暖かい気があります。
日中の陽の時間には体表面をめぐりますが、寝ている間の陰の時間には体内深くに入るとされています。
そのため、夜には体表面の防衛力が弱くなるため、必ず布団をかけなければならないとされています。
飲食不節と内熱
一方で、からだの中に入りたい「衛気」は、体内に熱(内熱といいます)がこもっていると、体内に入っていくことができません。
この内熱があるために、「不眠、嗜眠、多夢、歯ぎしり、寝言、寝汗、いびき、無呼吸、夢遊病」などの様々な睡眠障害を引き起こすといわれます。
内熱をもたらすのは「陽に傾く甘味・辛味・刺激物・油膩物・ニンニク・酒などの食生活」「外から熱を加えるサウナも体質・時間帯によっては良くも悪くもなる」「寝具・寝室の問題」など、考えることはたくさんあります。
まとめ
そして、最終的にキーになるのは心神。
長くなるので割愛しますが、現代医学の生理学的側面から高橋先生は睡眠の時間・タイミングの重要性を述べ、長瀬先生は気の停滞(興奮)・血の不足による不眠を述べ、竹下先生は内熱(食べる時間・量、気鬱・血虚による内熱または虚熱)による不眠を述べました。
様々な要因で、様々な体調となりますが、最後は心神が影響され不眠となる。
なぜ心神が影響されたのか。このプロセスを考えることと、なぜこのようになったのかを分析する病因病理の重要性を再確認しました。
東洋医学を学んでいると、一概に「不眠には〇〇が良い」とか、「〇〇さえやれば効く」なんていうのは、ありえない発想だということを痛感しますね…...。
では、今日はこの辺で。
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