![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/86742080/rectangle_large_type_2_a39003615506c8c858be5b74a9f1b1bf.png?width=800)
【弁護士 梅山隆弘】さんとの対談 #6
こんにちは。鍼灸師の東です。
今日は「交通事故の被害者の方に損をさせない」をモットーにオンラインで全国対応できる交通事故専門の弁護士として活動されている【大本総合法律事務所|弁護士 梅山隆弘】さんとzoomでお話しさせて頂きました。
▼大本総合法律事務所
1.梅山さんの活動
梅山さんは交通事故の弁護士活動に注力し、通算で1200件の案件を対応されている経験豊富な弁護士さんです。
交通事故専門の弁護士の活動とは、つまり、交通事故による「被害者さんが抱える悩み」を解決することにあります。
お悩みの筆頭は、保険会社からの慰謝料の請求についてのご相談になります。
具体的には、(1)保険会社から提示された慰謝料は妥当なのか、(2)保険会社との示談交渉のストレス、加えて、(3)通院による休業への補償はちゃんともらえるか、という点が挙げられます。
交通事故後のカラダとこころが辛い時に、このような対応は大変です。
このような問題について、弁護士さんを介入することでスムーズに、的確に話を進めることができるということになります。
2.交通事故に遭遇してしまった時に、弁護士に相談するのはなぜなんでしょうか?
そもそも最初から、保険会社からちゃんとした補償金額が掲示されていたら弁護士さんは必要ないんですよね~。
ただ実際には、保険会社から提示される慰謝料というのは、弁護士に相談した場合よりも低く設定されていることがほとんどなんですよね。
つまり、心身ともに不安定な交通事故の被害者に対して、適切な額よりも安い慰謝料で示談している場合が多いです。
これだけでも、介入してもらえるだけで助かりますが、他にも、賠償金を早く受け取れたり、慰謝料や休業損害の受取額が増額されたり、治療費打ち切りの対処がしやすかったり、さらに、弁護士特約があれば無料で依頼できることもあります。
つまり、交通事故にあった方は一度、弁護士さんにご相談することを作法の一つとして取り入れて欲しいということなんですね。
お金のことに関わらず、カラダが辛い時には少しでもストレスが少なく済むように、精神衛生を保てるような環境作りが大事かなと思います。
3.東が臨床の上で、交通事故専門の弁護士と繋ることを臨んでいる理由
これには私の苦々しい失敗談がありまして……。
私の段取りが悪かったがために、患者さんが受け取るべき保険会社から慰謝料の請求金額が −ZERO− になってしまった事態がありました。
EPISODE1
私が10年ほど前に対応させて頂いた患者さんのお話です。
当時、患者さんが在籍していた会社には、広い敷地がありました。催事があるため日常的に荷物の運搬作業がありました。その日も、いつものように2tトラックで荷物を運んでいました。
運転席には運転手が1人と、荷台には荷物を支える男性2人がいつものスタイル。この日の荷物はちょっと大物で、高さ80cm・幅70cm・横200cmのソファーでした。
先に断りを入れると、誰も悪くはないんです。皆が真面目に作業していました。ただ、車幅を超えるソファーが、僅かに荷台からハミ出ていた。ただ、それだけが問題でした。
『今日は大物っすね!』とかいいながら、春の日差しが気持ちよく、半袖で白のポロシャツにベージュのチノパンはいつもの作業着。
日中は力仕事が多いため、幅の広めなベルトは必須。キツめに絞るから少し伸びてきた濃い茶色のベルト。3つ目の穴は、たれパンダみたいに伸びている。ちょっと豊満なお腹が、ちょうど日差しになって気持ちが良い。
軍手も大事です。黄色のプチプチが安心感。頭には、手拭いを巻いて唐草帽で、汗を拭いながら荷台でソファーを抑えている。
いつもとなにも変わらない作業の風景。誰もがマジメな爽やかなに仕事に励んでいる。そこに訪れた、魔女の仕業。
『わっ。マジちょっ、ちょっと待って。えっ、ちょっ、えっ、マジでわかんない、えっわっ、マジ待って!!ま、マジでいってんの、ちょっまじで言ってんの待ってま゛っっっ!!』
ドサッ
ドッドッドッドッ…
ドッドッドッ…ドッドッドッドッ……
見ていた人も、見えていなかった人も、何が起きたかわからないでいる。重く鈍い音の後に聞こえる、軽トラのアイドリング。
患者さんは、支えていたソファーと共に、高さ80cm程の荷台から、無防備に後ろから落ちていました。
地面に頭と背中が叩きつけられ、胸部にソファーが乗っかり激しく殴打と圧迫された。胸背部を中心とした全身打撲と、左手首骨折という事故が起こりました。
すぐに病院に搬送されました。幸い手拭いと唐草帽に守られ、致命的な頭部の損傷は免れました。「全身打撲と左手首」の診断が下されました。事態の大きさからみれば、幸いに小さく済んだものだったかもしれません。しかし、患者さんの心身には強い痛みが残りました。
左手首の骨折。折れた部位は、二本ある手首の骨の内、良く折れる細めの尺骨ではなく、太くてゴツい丈夫な橈骨でした。
橈骨の中でも、くびれたところではなく、一番太いところ。おそらく、手を付いて「折れた」のではなく、重いソファーの落下による膨大な位置エネルギーが手首に直撃し、太くて丈夫な橈骨が「割れた」のではないかと思われます。
EPISODE2
数年来、定期的に鍼灸治療に通われていた患者さんでした。鍼灸を頼りに、事故後の2日後には鍼灸院に来院されていました。
私の「外傷性の怪我は、治療は早い方がいい。しっかり治すには、期間を詰めて通ってみて下さい」との言葉をキチッと守り、週2回、多い時は週3回の治療をしました。加えて、打ち身用の漢方薬も併用してもらいました。
初診時には「ちょっと右肩も痛いんです」と、右腕が上がらないとおっしゃっておりましたが、経過とともに腕も上がるようになってきました。全身打撲、骨折ともに治りは良好で、医師からも「思ったより治りが良いね」とお墨付きをもらいました。
「経過が良くて安心しましたよ。順調ですね。」
良好良好と、私も患者さんも安堵していました。しかしながら、思わぬ方向へと、事態は進んでいくのです。
︙
当然ですが、会社内の事故でしたので労災の扱いになりました。しかし、医師の診断書には「鍼灸にて加療」との記載がありませんでした。そのため保険会社からは、この件に関する「鍼灸施術料」は一円も請求できないという事態となっていることが判明しました。
私は驚きましたが、内心は、安心していた所もありました。なぜなら、「右肩の痛み」に関しては、鍼灸治療をやらなければ見つけられなかった重大な病態が隠れていたからです。
2診目の時でした。鍼灸治療の時に患者の訴えていた「肩が痛くて上がらない」症状に鍼をした時に「過剰な響きと、鍼に感ずる重く粘りつく異常な抵抗感」を覚えました。
「右肩には何か器質的な異常がある」と察した私は、2診察目の直後に「ちょっとこれは、肩はもう一回、精密検査した方が良いかもね」と、MRIでの精密検査をお願いしました。
しかし思いの外、治りが良かったこともあり、検査をしなくてもいいとの判断がされました。結果として3カ月間、精密検査をしてもらえない状況が続きました。
確かに良くなっている。全体的にも、右肩的にも。ただ、依然として「エグみのある響き」は残っている。感覚的だから伝えられない。しかし、患者も感じる、治りきれない一部があることを。
患者には、やはり腱板断裂か靭帯が痛んでいる可能性を示唆した。医師に見せて欲しいからと、目的に適う図とコメント入りの書類を渡し、どうか検査をしてもらえるようにお願いした。その結果は…
「もっと早く、強く、催促しておけば良かった」
MRIで検査したところ、やはり、右肩の腱板が断裂していました。
断裂部の接合が必要なため、手術の日程が早々に決まりました。
書類面では幸いに、当初は「左手首の骨折と全身打撲」の診断名でしたが、今回の検査結果を受けて、「左手首の骨折と全身打撲および右肩腱板断裂」に変更となりました。
また、3カ月前の診断書発行時に遡って適応し、さらに「鍼灸にて加療」が明記されました。
良かった。これで良かった。手術してリハビリが開けて、それから鍼治療をしたらカラダは良くなる。
保険請求などの書類ごとも、遡って適応だ。はぁ、なんとかなりそうで良かった。患者さんの負担も軽減されるし、めでたしめでたし……となるはずだったのです。
EPISODE3
『最初の診断書には「右肩腱板断裂」も「鍼灸にて加療」の記載もありませんので受け付けられません』
労災に伝えた事実に対する返答に、電話口で唖然としました。
えっ……だって異常を見つけたのは鍼灸やっていたからであって、、、しかも、鍼師側からコンサルしてMRI受けてもらって、それで腱板断裂見つけることができて、、えっ……診断書にも「3カ月前の当時に遡って適応」「鍼灸にて加療」って書いてあるのにっっ……!!なんで、なんでっっっ………!!!
患者さんには、深々と謝りました。
私の責任です。
『労災で保険がおりるからお金の心配はしないで、まずはカラダのことだけ考えて、来れるだけ来てみて。キレイに治すからね……』
かつての励ましの言葉は、戯言に変わります。制度を正しく理解していないために招いた災難です。無知が招いたことでした。
患者さんは『先生のお蔭でカラダはすっかり良くなったし、肩のおかしいのも見つけてくれた。先生が、きれいに治るから大丈夫だよと言ってくれたのが嬉しかったし、母も安心できたと言っていたよ』
『保険はおりなかったけど、2回目の鍼の時のカルテの記載が証拠になって、会社からは少しだけど慰謝料がでたから、本当に先生のお蔭です。』といってくれましたが、治療がうまくいった良いという問題ではなかった。お互いに、心の澱(おり)が残った。
10年以上過ぎた今に思えば、まず一番初めに、交通事故専門の弁護士さんにご相談していたら良かったと思います。
そして、鍼灸治療で加療するために必要な段取りを確認していたらよかった。
キチンとした段取りで臨めていたら、このような問題はなかったと思います。建設的に、安心して、治療家・患者共に治療に臨めたと思います。
東洋医学の鍼灸治療を行っていく上で、西洋医学・介護福祉、それから、様々な制度から患者を支えられる治療設計が必要だと思いました。
4.交通事故・外傷への鍼灸治療の有効性
梅山さんとのお話しの機会を設けて頂いた背景にはもう一つ。鍼灸には、交通事故や外傷の後療法として有効であるということを啓蒙したい気持ちもありました。
一部の運動器疾患では、少額ですが保険診療の適応となります。
保険申請には専門知識が必要なペーパーワークがありますので、申請をされたことがない場合では、初めは少し難しいところがありますが、覚えてしまえば造作はありません。
急性期で痛んでいる局所を触れることができない場合にも、関連する経絡の変調を探し、遠隔から鍼灸は治療することができます。
また、古来から絡病という概念があり、打撲・捻挫・骨折などの外傷性疾患に対応する考え方があります。温灸を用いて血の巡りをつけて、新陳代謝を促したり、末端からちょこっと血を取ることで内圧を下げて痛みを取ることもできます。
5.まとめ
制度的には交通事故後の治療に関して言えば、鍼灸には最後の最後に回ってくることが多いように思います。
例えば、整形外科に通った、あるいは接骨院に通ったけど、最後の最後、芯のところで治りきらない方とか、季節の変わり目や雨の日の前になると痛んでくるなど、自律神経が絡んでいる場合などは、鍼灸治療の登場となることが多いと思います。
「鍼灸師と協業できる」という意識を、医師や弁護士さんなどに持ってもらえる努力が重要であることをご指摘いただけたこと。
また、鍼灸治療と整形外科・接骨院の治療との違いを明確にすることなど、まだまだ鍼灸師がやれること、できることをご指南頂き、大変ありがたいお話しとなりました。
最後に改めて、梅山さんには御礼申し上げます。
これからも、交通事故専門の弁護士さんや生命保険会社の営業所長さんなどとお話しできたら良いなと思います。
では、今日はこの辺で。
今回も読んで頂きありがとうございます。ISSEIDO noteでは、東洋医学に関わる「一齊堂の活動」や「研修の記録」を書いています。どんな人と会い、どんな体験をし、そこで何を感じたかを共有しています。臨床・教育・研究・開発・開拓をするなかで感じた発見など、個人的な話もあります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?