爆発侍 尾之壱・爆発刀 二二
第二章 温泉宿場の邂逅 七
「それなら、帰る時にでもうちにあるのを二、三本持って行けば良いが……いいか、俺が言いたいのは、あれをまともに振れるのは、江戸の上条寺藩士にはもうほぼいないって事なんだよ」
「そんな、まさか?」
「勿論、下総の上条寺本家筋は今でも木剣稽古だし、本家道場から江戸に行った者や江戸入門組の中でも、見込みのある門人は『櫂型』を振って稽古する者もいるにはいる。だがな、今の江戸の青瓢箪どもはいけない。そこまでの膂力が無いのだ。悪いのになると、普段のお勤めで大小差しただけで腰がふらつくようなのさえいる始末だ」
堤が苦々しく吐き捨てる。
「そんなの相手に練習刀どころか、普通の木剣でも打ち合いなんぞさせてみろ。あそこを痛めた、どこを折ったとなっちまって、剣術の指南どころの騒ぎでは無いと言う事さ」
右門は、言葉が出なかった。
「まあ、剣の道それ一本でやってるお前みたいなのからすれば納得はいかんかも知れんが、今の世の中、剣にのみ命を賭けてはいられんと言う事さ。弓矢刀よりも大切なのは、机の上の政だよ、右門」
「では……ここの道場に備えた竹刀は、こちらで指南されている御方々の為ですか?」
右門は、堤がこの地にある智惠家の剣術指南役を仰せつかっている事を思い出し、聞いてみる。
「いや、それがまたちょっと違ってな」
堤が再び格好を崩し、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「江戸でのそういう流れもあって、俺もまずは智惠家の御方々には竹刀での稽古を勧めた訳だが、きっぱり断ってきやがった。実戦剣法を旨とする慈外流に指南をお願いする以上、稽古にあたっても慈外流本来のやり方を所望する、だとよ」
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