爆発侍 尾之壱・爆発刀 六
序章 峰九里稲荷の怪異 六
「なんと、そんな物を持っているのなら、どうしてもっと早く……」
右門はそこまで言って、頭を振った。
「いや……木剣で首の骨を砕かれても死なぬ化物だ、真剣とて役に立つものかどうか」
「他の剣は知りません。でも、これならば、お役に立ちましょう」
「これならばとは面妖な事を言う。この剣が、なにか特別だとでも言うのか?」
「今は、問答の暇はありません……」
右門の背中が、そっと、優しく押される。
「解せぬ事は色々おありでしょう。でも今は、まずはあれを斃し、どうか、わたくしをお救い下さいまし」
右門は口を閉ざした。
女の言う事がもっともだったからである。
いずれにしろ、あの奇怪な浪人を斃さねばならない事は確かなのだ。
どうやら、是非は無さそうだ。
「心得た……だが、必ず後で、納得出来る話を聞かせてもらうぞ」
「はい、必ず」
右門は、肩口から延びる朱塗りの鞘を握りしめた。
「ああ、それから……二つほどご注意を」
立ち上がる右門に、背後の女が念を押すように、ゆっくりと言った。
「あの男には、『峰の刃』では敵いませぬ。お斬りになる際は、必ず『鍔元の引き金』を引いて、きちんと『普通の刃』のほうでお斬り下さいまし」
「峰の刃? 引き金?」
「どうか、ご武運を……」
訳が解らず右門は問うが、背後の女の気配はそのまま遠ざかってゆく。
まったく、なにもかも解せぬ事だらけだ。
右門は心の中で悪態をつくと、立ち上がりながら朱鞘の剣を腰帯に差し、すらりと抜刀した。
「なんだ、この剣は……?」
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