爆発侍 尾之壱・爆発刀 十六

第一章 九尾の狐と素浪人 十

 このような顔で笑う女を、放っておけるわけが無いではないか。
 だが、この女は、きぬではない。
 きぬは、四年前に死んだのだ。
 きぬは、死んだ。
 あの日、右門の目の前で斬り殺されたのだ。
 そんな事は解っている。
 おこんはきぬではない。別人だ。
 それどころか、目の前にいる女は、人ですら無い。
 だが……、
 目の前の女は、自らの命を俺に差し出し、俺を信じると言っている。
 そこまで言われて応えぬのは……。
「……俺の性分ではないな」
 呟きと共に、右門の左手が、おこんの手にする朱鞘をと握りしめた。
「右門様?」
 自分を真っ直ぐに見つめるおこんに、右門は頷き、笑って見せた。
 その笑みに、もはや疑念の曇りは一切無かった。
「おこんさん。お前の命、この俺が預かろう」
「右門様!」
 朱鞘を握る左手に自分の両手を重ね合わせ、おこんは頭を下げる。
 その手が微かに震えているのを知って、右門はふむ、と唸った。
「国をいくつも滅ぼせる程の恐ろしい大妖怪でも、ただの女のように震えるのだな」
 右門の言葉に、おこんは自分が震えている事に初めて気づいた。
 信じられない、という面持ちでそのまま震える両手をじっと見ていたが、やがてなにかに気づいたように、そうだわ、そうよ、とつぶやき、右門を見上げた。
「わたくしが震えるのも……当然の事です」
 そう言うと、おこんは恥ずかしそうな笑みを浮かべる。
「こうして、最後に残った尾も貴方様に託してしまうのです。今のわたくしは、もう大妖怪ではなく……ただの女なのですもの」

 第二章 温泉宿場の邂逅 一

 右門とおこんは、下野国、那須への旅路に就いていた。
 おこんに力を貸す事を決めた右門であるが、まずは殺生石へ赴きたいと言うおこんのたっての願いを聞き入れ、その翌日直ちに出立する事を決めたのである。

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