爆発侍 尾之壱・爆発刀 十七

第二章 温泉宿場の邂逅 二

「ああ。名を堤節治つつみさだはると言うのだが、彼の地で慈外流の道場を開いているのだ」
 堤節治は慈外流印可いんかの業前を持つ剣客で、右門が幼少時より学んでいた下総しもうさの本家道場で師範を任されていた兄弟子である。
「目的地に同門の道場があったのは運が良かった。阿楚部様より頂戴した御免状があるとは言え、旅に赴く以上はなにかしら理由が必要だからな」
「同じ流派の道場に伺うと言うのが、その理由になるのですね」
「そうだ。さしずめ今回の目的は、その道場での出稽古と言う事になるな。だがこれもまた、我々の目的に無関係という訳ではない」
「と、申しますと?」
「峰九里稲荷で斃した、山北助右衛門だ」
 右門は、境内で死闘を繰り広げたその人外の強さを思い出しながら続ける。
「確か山北は、下総にある智惠家の家中の者だと言ったな」
「はい。その通りです……あ、もしかして」
「そう。信じられぬ偶然だが、堤節治は、智惠家の武術指南を仰せつかっているのだ。となれば、智惠家の内情にもある程度の知見はあるだろうから……」
「山北の事や、それを操る黒幕の情報も得られるかも知れない……と言う事ですね」
 右門が頷くのを見て、おこんは胸に手をやり、大きくため息をついた。
「なんと言う……御縁でありましょう。偶然出会い、助けを乞うた御方が、まさかわたくしの敵の正体を知る伝手になるかも知れないとは」
「世間は狭いとは、よく言ったものだ」
 右門も同意する。
「おこんさんの目的を果たすのに俺の剣の伝手が役に立つ事になるとは。なにやら人為らざるものの導きがあるとしか思えん」
「あるのかも……しれませんよ」
 おこんはそう言って天を仰ぐ。
「この世界には、貴方達人間とは異なる様々なものが共に存在しているのです。わたくしのような怪妖もそうですし、貴方達が『神』と呼ぶものもまた……」
「待ってくれ、神様もいると言うのか?」
 目を丸くする右門だが、自分を見つめるおこんの微笑みを見て、ため息交じりに苦笑する。
「……まあ、いるんだろうな。この後に及んで、もういちいち疑ってもいられまい」
 それにしても、神様か……と渋い顔をする右門を見て、おこんはくすくすと笑いながら、
「でも……恐らく、右門様の思っているようなものではないですよ。実際に目にしたら、きっと驚く事請け合いです」

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