爆発侍 尾之壱・爆発刀 十
第一章 九尾の狐と素浪人 四
噂が広まるとどうなるか。それを自分の目で確認したくなるのが人情であろう。
そうした訳で、村外れにある右門の小屋には、その「噂の美人」を一目見ようと村中の老若男女が集まる有様となった。
だが、右門の小屋は戸が閉められ、中の様子は良くわからない。焦れた村人の中には、戸の隙間をのぞき込もうとする者、壁板に耳をそばだてる者まで出始める始末であった。
さて、一つ所に村人がここまで集まるのは、祭の時か、村の一大事ぐらいのものである。まさかここまで事が大きくなるとは夢にも思わなかった勝也、列次、きくの三人だが、今は右門の小屋をやいのやいのと取り囲む村人衆を遠目に、びくびくと事態を見守るしかなかった。
「ねぇ、右門の兄ちゃん、絶対に困ってるよね、これぇ……」
群衆を見渡しながら、列次がおどおどとつぶやく。
「んなこと言ったって、なっちまったもんはしょうがねえだろ!」
むくれる勝也に、きくがため息をついた。
「まったく、勝也はいっつもそうよね。考え無しに動いて、周りに迷惑かけるんだもん」
「あっ、き、きく、お前、なにおれ一人のせいにしてるんだよ!」
自分一人の責にされてはたまらない。と言うか、これはいつものきくの手だ。なにかまずい事があると、真っ先に自分は安全地帯に逃れようとする。そうは問屋が卸すものかと、勝也はきくを指差して、
「お前だって、みんなに話して回ったんだろ!」
「そ、そんな事ないわよ。あたしはただ、右門のお兄ちゃんがお嫁さん連れて来たって、お母ちゃんに話しただけだし!」
「最悪じゃねえかよ、お前のかあちゃん、噂広めるのが三度のめしより好きじゃねえか!」
そう言われては、きくも黙っている訳にはいかない。赤い頬を膨らませながら、
「えー、そんな事ないわよ!」
「そんな事あるだろ!」
「ないもん!」
「お、おらだって話しちゃったしぃ、三人みんなの責任だよぉ」
歯を剥いて睨み合う二人の間に、列次が慌てて割って入る。それを見て、勝也ときくは口を渋々ながらつぐんだ。
普段は弱気で大人しいが、勝也ときくがぶつかると、必ず列次が間に入って場を取りなす。この流れは、三人が仲良くやっていく秘訣であり、勝也ときくは、口には出さないものの、そんな列次に感謝していた。
「とにかく……なんとかしねえとまずいよな」
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