爆発侍 尾之壱・爆発刀 三五

 だが、その表情が直ぐさまに曇る。
「土蜘蛛も、決して力の弱い怪妖ではありませんが、先ほどの露天風呂での戦いを見る限り、人の姿を取った上で、更に超常的な力を振るえておりました……わたくしには、そこが腑に落ちません」

「すると、土蜘蛛はそれほどの妖力は持っていないのか?」

「強いて……あれの名誉の為に言うのなら、怪妖と言っても、妖力の優れたもの、そもそもの身体能力が優れたものと様々在ります。土蜘蛛は、どちらかと言えば後者なのです」

「なるほど、妖力よりも身体そのものの力が売りか。だから土蜘蛛は、封妖石を使っているに違いない、と」

 その通りです、と、おこんは頷く。

「だが、妖力だ神通力だで来られるよりも、力尽くでやりとり出来るほうが、俺としては解りやすくて助かる」

「そうですわね。右門様のお言葉を借りるならば、土蜘蛛は『剣で斬れる』怪妖と言う事になりますから」

 おこんはくすくすと笑いながら、話を続ける。

「自らの妖力のみで変化を賄えない怪妖は、先ほどご覧に入れた封妖石ふうようせきのような補助呪器を用い、足りない妖力を補完する事がほとんどなのです。つまり……」

「その呪器を奪うなり破壊するなりすれば、人の姿を維持する事が難しくなる、と言う事だな」

 おこんは頷き、

「破壊するのが良いでしょう。封妖石を奪っても、本体との結びつきが断たれぬ限り、妖力の供給は行われますから」

「となると……まずはその封妖石を見つけ、破壊する事が俺達の目的、と言う事になるな」

「そこで、わたくしに一つ策があります」

 おこんは、右門の眼を見つめ、自分の考えを口にする。

「明後日、右門様には予定通り智惠家のお屋敷で剣のお稽古をしていただき、願わくば土蜘蛛、宮部伊三郎の注意を引き受けていただきたいのです」

「もとよりそのつもりだが、それでどうするのだ?」

「お稽古の最中、わたくしが土蜘蛛の封妖石を見つけ出し、砕きます」

「なるほど、封妖石が破壊されれば、土蜘蛛はその正体を見せる事になる訳だな。そうなれば……」

 おこんは微笑みながら、頷いた。

「だが、今のおこんさんは、普通の女子おなごと大して変わらない力しか無いのだろう、どうやって石を見つけ、砕くつもりだ?」

「それに関しては、いくつか考えがあるのですが……」
 おこんはそう言って宙を見上げ、考えるそぶりを見せるが、すぐに右門に眼を戻す。

「どう動くにしろ、当日その場での判断、と言う事になります。でも大丈夫。やって見せますわ」

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