爆発侍 尾之壱・爆発刀 三十

第二章 温泉宿場の邂逅 十五

 魔獣の咆哮と共に、男がおこんに飛びかかる。
 水平に広げられた男の手には、大小の煌めき。
 その目前が、轟音と共に燃え上がった。
 男の左手が閃くと、炎が両断され、消え去る。
 そこに、直上から風の唸りが襲い落ちる。
 男が半身を捻り、右手の脇差しを一閃させる。それによって生まれた剣圧が、真空の刃を迎撃した。
「他愛も無し!」
 男が気合と共に、おこんに向かって双刃を振りかぶった。
 

おこんは動かない。
 その瞳は、自らに迫る男――土蜘蛛――ではなく、その背後の虚空を見つめていた。
 おこんの目がすっと細められ、口元に笑みが浮かぶ。
「残念……その刃を届かせるには、ほど、遅かったわね」
 微笑みながら呟くおこんの声に応えるように、それは起こった。
 きんっ、という、耳を覆いたくなるような高音と共に、男の背後の空間が斜め上に切り裂かれる。
 次の瞬間、おこんと男を取り巻く一切の風景が、硝子が砕けるかのごとく四散した。
「なんだと!」
 それに対処出来たのは、男が人外のものであったが故だったろう。
 おこんを斬るはずの双刃を咄嗟に背に回すと、それらが真上から振り下ろされた刃をがっきと受け止めたのだ。

 だが、受け止めた剣撃の威力に耐えきれず、左の大刀が砕け飛ぶ。
 残った脇差しの刃で辛うじて攻撃の軌道を変えると、男はその力を利用して身体を捻り、斜めに飛び逃げた。
 そのまま転がり距離を取り、男は膝立ちで攻撃してきた相手に身構える。
 そこには、元に戻った露天風呂の景色の中で仁王立つ、白柄の両刃刀を手にした偉丈夫の姿。
「き、貴様は……」
「右門様っ!」
 男の困惑の問いは、おこんの歓喜の声にかき消された。
「おこんさん……だよな?」

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