爆発侍 尾之壱・爆発刀 十九

第二章 温泉宿場の邂逅 四

宿の主人をきょとんと見送るおこん。
 右門は苦笑しながら、
「まあ、男と女が二人で訪れたのだ。夫婦めおとだと思われるのが自然だろうな」
「そういうものなのですね」
「ああ。その流れもあって、部屋を二つお願いするのも難しかった。そういう事で、申し訳ないのだが……」
「同じお部屋で、と言う事ですね。わたくしは、右門様がよろしいのでしたら問題はありませんよ」
「そう言ってもらえると助かる」
 右門もおこんの隣に腰を下ろし、用意された新しいたらいに足を浸け、洗い始めた。
「そうそう右門様。この宿、足を洗うお湯に温泉の湯を使っているんですよ」
「ああ、知っているよ」
「まあ……ご存じだったのですか」
「俺は来るのは初めてだが、他の門弟がここを使っているのを聞いているからな。なんでも、この『しまづ』でやり始めたのが評判で、今ではこの宿場町の旅籠は、皆温泉の湯で足を洗わせているらしいぞ」
「そうだったのですか……教えて差し上げて、驚かそうと思ったのですけれど」
「それは、悪い事をしたな」
 悔しそうにむくれるおこんを見て、右門は苦笑した。

     二
 
 部屋で荷物を解くと、右門は兄弟子である堤節治の道場へと早速向かう事にした。
 既に表は夜のとばりが降りていたが、例の峰九里稲荷の石段登りのおかげで右門は常人よりも遙かに夜目が利く。この程度の夜道は手ぶらでも全く問題は無いし、更に火を入れた提灯を宿から借りているので、右門の歩みに全く支障は無い。

 右門の足取りは軽い。旧知の友と出会える喜びが、その歩みを自然と速めていた。

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