爆発侍 尾之壱・爆発刀 四十
慈外流ならば、この地を訪れた際に、土地の道場に礼儀として繋ぎを持ってもおかしくは無かろう。
ならばその流れで、明日の稽古にあの男が参加する可能性は高い。
いや、間違いなく、来るだろう。
何故なら、我がこの智惠の屋敷に関わり在る事を、既にあの女狐は察しているだろうからだ。
「あの女狐が右門と呼んでいたあの男……必ず来る」
もしあの男の姿があれば、剣を合わせてみる事も出来よう。
なに、見えるにしても人間の屋敷の中だ。向こうもおいそれとは動く事は出来ぬ。こちらもそれは同様だが、木剣を合わせてみるだけでも良い。
あの男と、真っ正面から対する。
あの男が、どれほどの剣を振るうのか。
そして、その程度を知り――
「……然るべき頃合いで、斃す」
「誰を斃すのだ、宮部よ」
襖の開く音に、宮部が目をやる。
そこには、智惠道徳の笑顔があった。
恰幅の良い藩主は、すかさず居住まいを正す宮部を温和な眼差しで制した。
「そのほうにそこまで言わせる男がいようとは、さぞかし腕の立つ剣客なのだろう。だが、短慮は無用に頼むぞ」
宮部は黙って頭を下げる。
言われるまでもない事だった。智惠家の者では無いとしても、食客という立場である以上、私闘は家臣同様、公儀に厳しく戒められる。
人の姿で人の世に生きる以上、人の理には可能な限りは従わねばならぬ。それが道理だ。
宮部の無言を承知の意と理解し、智惠道徳は静かに頷くと、言葉を続ける。
「実はな、明日の剣術稽古なのだが、どうやら強い剣客が来るようでな。それが、そのほうとの木剣仕合を所望しているのだが。私としては否やは無い。どうだ、やってみる気はあるか」
強い剣士と立ち会う。
世話になっている藩主からの命ならば是非も無いが、そうでなくとも、相手が誰だろうと望むところだった。
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