爆発侍 尾之壱・爆発刀 参
序章 峰久里稲荷の怪異 参
何事だ、と、右門は音のする方を見た。
社の背後に広がる森の奥、向かって右手から、なにかがこちらに向かってくるようだ。
茂みが立てる物音から、それが尋常な様子ではないのが解る。
右門はそちらを見据えたまま、傍らに立てかけておいた「櫂型」を手に取った。
間もなく、茂みから勢いよく人影が飛び出してきた。
艶やかな黒い長髪を振り乱し、境内に現れたのは、一人の女であった。
一見して卑しからざる身なりからして、どこかの武家の子女と思われる。顔は良くわからないものの、その身のこなしを見るに若いようだ。
阿楚部様の縁者か……右門の脳裏に、峰久里村をはじめとするこの辺りの地を納める鳩峰藩の藩主、阿楚部匡勝の顔が浮かんだ。
阿楚部匡勝の先祖にあたる征勝は、関ヶ原の戦いで戦功を挙げ、報償として五千石を与えられた。征勝は後に父親の遺領と併せて一万石を領して大名に列し、この地に鳩峰藩を立藩して現在に至る。
だが、と右門は心中で首をかしげる。
阿楚部様には嫡男のみで娘はおらず、奥方も数年前に病死したと聞いている。あの家に、年若き女子は居ないはずだが。
何れにしろ、何処の誰だとしても放っておく訳にはいかない。右門は女に向かって走り出した。
「こちらへ!」
走りながら、声をかける。
右門の簡潔な叫びに気づいた女は、よろめくように向きを変え、こちらに走って来る。右門もそのまま女のそばまで走り寄ると、背後にかばう形で茂みに向かい身構える。
「いかがいたした?」
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